弓白+士





さて、俺はどっちが羨ましかったのかと他人事のように考えていたら、 士郎が手を伸ばして、く、と俺の服、襟を引っ張ってきた。 促されるままに俺は、何だと思いつつも体を屈めて士郎に顔を寄せる。 士郎は近付いた俺の耳元に唇を寄せて、 「    する なよ 」 掠れた小さな声で、そんなことを言ってきた。 ぱち、と瞬く。 まさかそんなことを士郎に言われるとは思わず。 士郎は曇りの無い表情で、にこりと笑いかけてきて。 「俺、セイバーの…と、 だから、……て欲しいし。決め……は、あいつ……だろ?」 多分、俺にだけ聞こえるように声を潜めて。 そうしてまた、微笑んだ。 ……まいった。 「…ああ。俺も、おまえが好きだよ、士郎。」 応えるようにそう返せば、うんと頷いて納得したのか、そのまま目を閉じて。 程なくして、落ち着いた寝息。 そっと横に寝かせて、俺は優しく眠る士郎の髪を何度か梳いた。 アーチャーはそんな俺と士郎を黙って見ていた。 勿論眉間には深い皺。 そろそろ、その思い違いを正すか。士郎に背中を押されたことだし、と。 俺はアーチャーの目を真っ直ぐに見据えた。 灰の目が訝しげに俺を見る。 口端を少し上げて、俺は言った。 「なぁ、あと一回、付き合えるか。」 アーチャーは俺の言葉の意図を探るようにじっと見てくる。 さて、こいつが理解してしまう前に追い込もう。 そうして俺は動いた。 体を寄せて、しまったばかりの、先程まで士郎を侵していたアーチャーの中心を、 再び外へと掴みだして、躊躇せず、それを自分の口内に導いた。 柔らかで熱いそれに指と舌を這わせて。 何度か繰り返すと、硬くなってきたので深く口に含む。 「っ、貴様。何の つもりだ。」 どこか焦っているようなアーチャーの声。 俺の髪を掴み、引き剥がそうとしてくる。 それに、く、と喉奥で笑って。 「俺に付き合ってくれって話だよ。」 アーチャーの熱に唇を擦り付けながら俺は答えてやる。 不可解そうに眉をひそめるアーチャー。 俺はとびきりの笑顔を浮かべてみせた。 「俺が想う相手は、おまえだよ。アーチャー。」 ほら、これで俺の行動も理解できるだろう? アーチャーの目が見開かれる。 何を、と口が動く。 そんなに解りにくいだろうか、俺。 「…貴様は、ソレが好きなのではないのか。」 ソレ、と視線で士郎を示しながらアーチャーが問う。 「ああ、士郎のことは確かに好きさ。でもな、俺がずっと想い続けているのは、  アーチャー、おまえだ。」 考えるまでもなく言葉は溢れる。 本当の所は、俺が想ったアーチャーとおまえは違う存在なんだろうけど。 ここにいる衛宮士郎が俺の過去でないように。 だが、どうでもいい。 溢れてくる想いは確かなんだから。 アーチャーは、俺の言葉に嘘がないことを悟り、困惑していた。 丁度良いからつけこませてもらうことにする。 俺はアーチャーの中心に再び顔を埋めた。 そして片手を自らの下肢に伸ばす。 下着の中に手を入れて、 先程の二人の行為を見ていて高まっていた中心にはあえて触れず、 その奥に指を這わせる。 勿論、自分でやることに慣れてなどいない。 だが、慣らさなければ自分だけでなく、相手にも辛い思いをさせるし、 どうせなら、よくしてやりたいしと意を決して。 俺はその後孔に指を一本含ませた。 開く痛みに眉を寄せる。 滑りは全然足りなかったが、揉むようにゆっくり指を動かした。 アーチャーの熱を舐めることで気を紛らわせる。 「…手慣れた、ものだな。」 アーチャーの嘲るような声が耳に届いたが気にしない。 それぐらいで、誰が退くかと。 本気で拒むなら、力ずくで俺を押しどけるなりすればいい。 こいつなら、それが出来るはずだ。 それをしないのは、まだ混乱しているからなのか、それとも。 少しは期待してもいいのか、なあ、アーチャー。 名残惜しい気持ちを抑えて十分な硬さになったアーチャーの熱から顔を離す。 自分自身の準備は、といえばまだ足りない気もしたが、 そんなに時間をかけるわけにもいかないと諦めて、 俺は手早くズボンを下着ごと片足だけ抜いた。 そうして座っているアーチャーの上に、足を開いて膝立ちになって、 片手をアーチャーの肩に置き、空いている手でそそり立つアーチャーの熱を掴んで、 自分の後ろの窄まりにあてがう。 先走りを塗りつけるように腰を揺らして。 ここまでの行動に、時間はたいしてかかっていない。 「っ、止せ… っ」 アーチャーが少し強い力で俺の腕を掴んでくる。 俺は視線をその男の目に向けて。 「本気で嫌じゃないなら、流されてくれよ…アーチャー。」 微かに笑んで、言った。 アーチャーが目を見張る。 怯んだ瞬間を見逃さず、俺はゆっくりとアーチャーの熱を自分の内に導いていった。 「っ……く、ぅ…っ――」 ぎち、と体が軋む。 やっぱり準備が足りなかったかと思いながらも、自身の体重をかけるようにしながら、 一番太い箇所をなんとか内におさめる。 アーチャーが、ぐ、と苦しげに息をつめる気配。 一度大きく息を吐いて。 先端が挿入ってしまえば、あとは楽だ。 どんどん呑み込んでいく。 内が、アーチャーの熱で満たされていく。 今、この感覚は初めてのはずで。 だが、その熱は懐かしく。 根元まで受け入れて動きを止めた。 目を伏せて呼吸を整える。 じりじりとした痛みと快楽に思考が融けそうだ。 僅かばかり乱れた、自分のものではない呼吸に、俺はそっと顔を上げた。 アーチャーが俺を見ている。 相変わらず眉を寄せて。 思わず苦笑して、その視線を、瞳を塞ぐように俺はアーチャーの頭を抱き寄せた。 そして耳元に唇を寄せて、声を意識する。 少し高めのトーンで。 そうすれば、ほら。 『アーチャー』 俺は、衛宮士郎と、同じだろう? 「――っ」 アーチャーが息を呑む。 俺を貫くその熱の体積が、さらに増すのを感じた。 ちゃんと思惑通りに声が伝わったことに安堵する。 俺を『士郎』だと意識できれば、アーチャーも愉しむことが出来るだろう。 悦くなって欲しい。 腰を揺らす。 押し出されるように喘ぎが自分の喉から零れる。 アーチャーにしがみついて俺は動いた。 堪えきれない声がアーチャーからも零れる。 熱のこもったその音に、嬉しくなる。 俺はその熱に溺れていた。 だから、アーチャーが苛立つようにぎり、と歯を噛み締めた音の直後。 俺の体を繋がったそのままに、押し倒してきたことに、咄嗟に反応できなかった。 衝撃に息をつめる。 見下ろしてくる男を見上げた。 アーチャーは俺の目を捉えて―― 「たわけ。貴様は奴ではないだろう……セイバー。」 声低く、今の俺を表す名を、呼んだ。 俺を俺として見る、真っ直ぐなその視線に、体が震えた。 拙い。なんで。 「  あ …っ」 アーチャーが腰を引き、ずるりと俺のなかから熱が出て行く。 このまま、引き抜かれると思った。 だから。 「う、あ……っ!」 再び穿たれて、本気で驚愕した。 高く声があがる。 アーチャーは俺の腰を掴んで、なかを抉ってくる。 ぐちぐちとひっきりなしに粘着いた音が耳に届く。 それよりも。 「っ」 その視線に、耐えられなかった。 腕を上げて自分の視界を塞ぐ。 本当に、拙いんだ。 こんなことで、さっきよりも感じている自分が、嫌に、なる。 「何故、隠す。」 言葉と共にアーチャーが俺の腕を掴んできて。 「いい、だろう…っ、俺の、顔なんか、みなく、ても… っ、何いきなり、  やる気になって、る、んだ……っ」 「ふん……貴様、こそ、先程までの、威勢はどうした――」 「おまえだって、さっきまで、と…全然、違う、じゃ、ないかっ」 色気も雰囲気もなく、言い合う。 その間俺はずっとアーチャーに突き上げられている。 ああ、本当に拙い。 生娘でもあるまいし、なんでこんなことで―― ただアーチャーが俺を見ている、というだけで、俺は喜んでいるのか。 悦んで、いるのか。 「く……あ ――――っ!!」 体が引きつる。 快楽が頂点に達して、俺は熱を吐き出し、 アーチャーもまた、俺のなかに欲を吐き出した。 続く