胸を忙しなく上下させる。 熱を外に逃がすように呼吸する。 ぱた、とアーチャーから汗の滴が俺の肌に落ちたのを感じて男を見やれば、 よくわからないような表情をしていた。 目が合う。 「…奴は、衛宮士郎はおまえに、何を言った。」 低く問う声。 ああ、やっぱり聞こえてなかったのか。 パスでも伝わらなかったのかと不思議に感じながらも。 「…聞かない方が、いいと思うけどな。」 俺は少し肩をすくめてそう返した。 ぎゅ、とアーチャーの眉間に皺が寄る。 おかしくなって、少し俺は笑った。 「そんなに気になるなら、本人に聞けよ。」 笑ったまま言えば、アーチャーは溜息をひとつ落としてから、 気付いたように徐に体を引いて、俺のなかから出て行った。 ぞくりと走った感覚には見ないふりをして。 「俺はおまえのことが好きだ、って、それだけの話だ。」 結論だけ示せば。 たわけ、と呟いてアーチャーは身を整えて立ち上がる。 「士郎の傍に、居てやらないのか。」 すぐ近くで眠っている士郎を指して言えば。 「…貴様こそ、マスターの傍に居なくていいのかね。」 アーチャーが皮肉混じりに言い返してくる。 それには笑って、 「俺のマスターは寛大だからな。 それに、士郎は俺の初めのマスターだし。」 言いながら士郎の髪を撫でた。 「貴様が居るのならば尚更、私は必要あるまい。」 少し棘のある響きでもってアーチャーが応えるから可笑しい。 くつくつと喉奥で笑えば、アーチャーはもう何も言わず、 くるりと背を向けて部屋を出て行った。 「…あんまり、からかうなよ、セイバー。」 掠れた声。 「なんだ。やっぱり気付いてたのか。」 あれだけ騒いでいれば気付いていてもおかしくないよなと、俺は士郎の顔に視線を移した。 士郎は、気だるげにしながらも、開いた目を何度か瞬かせている。 「…ちなみに、いつから?」 聞けば。 「セイバーがアーチャーに押し倒されてたあたりから。…セイバーって、あんな声、出すんだな。」 淡々と士郎が言ってくる。 ああ、なんだか恥ずかしいものだ。 自分は先程、人の、士郎が抱かれる所を散々見ておいてなんだが。 「なぁ、セイバー。ちゃんと、伝えたか?」 士郎がじっと俺を見てくる。 「ああ、言った。間抜けな顔、してたぞ。」 笑って答えた俺に、士郎も微かに笑みを浮かべて、 「なら、いいんだ。」 そう言って、目を閉じる。 本当に、おまえに喚ばれて、良かったよ。 「お休み、士郎。」 想いを込めて士郎の髪に唇を落とす。 それには、馬鹿、と笑い混じりの声が返ってきた。 こんなにも、二人の『えみやしろう』に惹かれるとは思っていなかった。 いや、違うか。 アーチャーのことはずっと想っているから、 過去の自分に対して、か。 アーチャーが衛宮士郎に向ける感情と、自分が衛宮士郎に向ける感情とは、また違うわけだが。 奇妙な想いの流れ。 俺はまた、さらに歪さに磨きがかかったものだと思いながらも、 心はどこか満たされていて。 折角だから眠りの真似事もしてみようと、士郎のすぐ傍に横になって、 ついでに自分の腕の中に士郎を抱きこんでみる。 無意識だろう、士郎が胸に顔をすり寄せてくるのに口元を緩ませて、目を閉じた。 翌日。 目が覚めたら、実に微妙な表情のアーチャーがいた、というのは、 まぁ予想の範囲内のことだ。 『俺に遠慮、するなよ。』 『俺、セイバーのこと好きだから、笑って欲しいし。決めるのは、あいつだろ。』 さて、アーチャーは俺をこれからどう見るのか。 楽しみだ。 終わり