「好きに呼べばいいけど。一応自己紹介しておく。  俺は、言峰士郎だ。」 そこで初めて。アーチャーは感情らしい感情をみせた。 驚愕。 「コトミネ、シロウ…だと。」 「?ああ。昔、ある出来事で孤児になって、教会の神父に引き取られた。  だから、今向かってるのは教会だけど、そこが一応俺の家。」 俺の言葉を聞いているのか、聞いていないのか。 アーチャーは俺を全身、何度も確かめるように見て。 不思議なことに、今までアーチャーから滲み出ていた殺意が消えた。 そうしてかわりに現れたのは、困惑や諦念。 「…妙な奴だな。」 俺の呟きに、アーチャーは視線を合わせ。 「…で、マスター。聖杯戦争に参加する意思はあるのか。」 今までとは違い、比較的穏やかに問いかけられる。 少し拍子抜けしたが、悪くは無い。 「そうだな。とりあえず、令呪を放棄する気は無いぞ。」 そう言って小さく笑いかければ。 「それは残念だ。」 アーチャーも軽く返してきた。 誰もいない暗い路を二人、歩く。 この先に何が待ち受けているのかはわからないが。 これから俺は、アーチャーと共に戦っていくことになるんだろう。 まだ完全に信用はできないが。 俺が名乗ったことで、アーチャーの中の何かが変わった。 良いほうか悪いほうかはまだわからない。 それでも。いつか、この男とわかりあえたら。 折角できた縁なのだし、そんな風にも少しは思うのだ。 だから、俺は歩みを止め、アーチャーと向き合う。 訝しげに俺をみるアーチャーに。 「とりあえずは。これからよろしく、アーチャー。」 そういって手を差し出す。 アーチャーは俺の行動が意外だったのか、一瞬固まって。 だがアーチャーも手を差し出し、 「せいぜい、私の足を引っ張らないようにするのだな。マスター。」 そんなことを言い、 握手ではなく。 ぱん、と軽く手を打ち合わせた。 それが俺、言峰士郎の聖杯戦争の はじまりの夜だった。 終了です。ありがとうございました!