来訪者3





「アーチャー。」 自身を呼ぶ声に、私は観念して実体化した。 居間。二人のやりとりは霊体化していた時、そう離れてはいなかったので把握している。 二人の士郎の視線に頭が痛くなる。 なんという悪夢だ。 しかも片方は衛宮の名ではなくともやはり士郎、根底にある歪さを感じる。 衛宮とは別方向に歪んだというか。 さもありなん。あの言峰綺礼が義父ともなれば当然だろう。 そこにはかの英雄王も存在した筈だ。五体満足であることそのものが奇跡だ。 ああ、神に仕える者ならば、その奇跡もありえる事か。 つらつらと考える私へと、言峰士郎が言葉を投げかけてきた。 「やっぱりあんたは衛宮士郎あってこそ、なんだな。幾分かは幸せそうだ。」 「……なんだと?」 眉を寄せる。何が言いたいのだと視線で問えば、言峰士郎は肩を竦めてどこか寂しげな目をしてみせた。 「そのままの意味だよ。俺の世界のアーチャーは何時だって衛宮士郎を求めていた。」 言峰士郎の放った言葉に、私だけではなく衛宮士郎も息を呑む。 確かに私―英霊エミヤの望みは衛宮士郎の抹殺。 その瞬間だけを望んで守護者を続けてきたのだから、 自身の過去とは異なる【士郎】と出逢った時の心情は容易に想像ができた。 絶望、困惑、諦念。 そんな感情を言峰士郎は傍で感じていたのだろう。 それが言峰士郎の知る【アーチャー】。 それに対し、こうして聖杯戦争後、一つの答えを得て衛宮士郎のサーヴァントとして現界している自身。 言峰士郎にはある程度、私の心境の変化が見透かされているのだろうと悟り、どうにもばつが悪くなる。 衛宮士郎はどこか複雑そうに私と言峰士郎の顔を窺っていた。 「だからまあちょっと、衛宮が羨ましい。」 そうして笑った言峰士郎の顔は、衛宮士郎でもなく自身でもなくて。 ここにいるのは本当に、衛宮士郎とはかけ離れた【士郎】なのだと感じた。