「衛宮君、確認したい事があるんだけど、少しつきあってもらえる?」 そう言われて俺は遠坂と二人、学校の屋上に来た。 人の姿は自分達以外には無い。 遠坂は俺と向き合い、一度目を閉じて開くと、真っ直ぐにこちらを見据え、 「…単刀直入に訊くわ。アーチャーとちゃんと、繋がっている?」 そう、言った。 え、と間抜けな声を出してしまったが、俺は遠坂の言葉の真意が解らないままに 目を閉じて精神を集中させる。 細いながらもアーチャーとは繋がっている、と思う。 「ああ。繋がってるけど……どうしたんだ遠坂。」 そう問いかけると遠坂はそう、と頷き何かを思案するように顎に手を当て、黙り込んだ。 そして一つ頷き、再び俺を見て、 「はっきりしたことは解らない。今はもうアイツはわたしのサーヴァントでは無いし。 だからこれは、わたしの勘でしかないんだけど。」 そこまで言って一度言葉を切り、 「違和感があるのよ。なんていうか、アイツが近いうちに消えてしまうような。 ……ねぇ士郎。ちゃんと魔力は間違いなく、アーチャーに流れているのね?」 そう俺に確認してきた。 その問いかけに俺は、はっとする。聖杯による何らかの恩恵があるにしても、 自分からアーチャーに流れる魔力量は少なすぎではないだろうかと。 流れる魔力が少ないのならば、実体化により魔力を消費するかぎり、 いずれ供給が追いつかなくなりアーチャーは、消える。 そう認識した瞬間。俺はぎりと奥歯を噛み締め、どうしようもない怒りを堪えていた。 その事実に当のアーチャー本人が気付いていない筈がない。 ならばそれは、俺を、皆を欺き、黙って消えるつもりなのだと。 「…なあ遠坂。契約が不完全なのは……やっぱり俺が魔術師として未熟だから、か?」 怒りを押さえ込み、沸騰した頭の中を無理矢理冷やして、俺は静かに遠坂に訊いた。 「当然それは、あるでしょうね。」 容赦の無い、だが的確な遠坂の答え。 「でも、アーチャーの方にも問題があるのかもね。 今の危うい状態をわたし達に知られないように、わざと隠している感じもするわ。」 遠坂はそう続けた。 俺は拳を握りしめて黙り込む。 僅かな時間を置いた後、俯けていた顔を上げると、真剣な目をした少女と視線が交わった。 「士郎、あなたはどう思う?」 「何がだ。」 「アイツが本当は、現界する事を望んでいなかった…って可能性。 もしそうなら、わたし達に出来ることは何もないわ。 サーヴァントとマスター。どちらもそれを望まなければ聖杯戦争が終わった今、 サーヴァントを現界させ続けることに意味なんて無いもの。」 「………。」 遠坂の言葉に俺は考える。そして、 「もし初めから現界する気がないなら、あいつはあの時に、消えていたはずだ。」 だからそれは無いと、俺は断言した。 強い希望でなくても、アーチャーは残ってもいいと思ったから俺と契約したんだと。 消えるなら消えても構わない、とも思っているんだろうが。 遠坂は俺の考えに一度頷き、 「じゃあ、あとはあの馬鹿を繋ぎとめる方法だけど。 わたしが手を貸してもいいんだけど…士郎は自分達だけで解決したいって思っているんでしょう?」 そんな風に言ってきた。 自分の気持ちをずばり当てられて驚きつつも、 そんなにわかりやすいだろうか、とか、遠坂にはかなわないなと思いながら俺はぎこちなく頷いた。 遠坂は逡巡するように目線を一度そらし、だが決心したように俺を正面から見据えてきて、 「今から話す方法は、魔術師としては常套手段。未熟な衛宮君でも可能よ。 勿論アーチャーの同意も必要だけどね。それを選ぶかどうかは、あなた達で決めなさい。 逆に言うと、これ以外の方法をわたしは知らないから選択肢は無いものだと思うけど。 多分アイツも、知ってる筈よ。」 そうして遠坂が語った方法は、随分原始的な方法で。 正直、本当に俺達の間で可能な事なのかと思ったが。 どんな気持ちでそれを俺に教えてくれたのかは解らないが、 あいつの現界を望んでいるのは自分だけではないのだと。 そう感じることが出来たから。 俺は、決心がついた。