この状態は、一体。 目が覚めて、俺は呆然とした。 昨晩、土蔵でいつもの鍛錬をしている所にギルガメッシュがやってきて。 一悶着あった後、結局やられて。 ――そんなことにも不本意ながら慣れてしまったのだが、 そうして意識を飛ばして…… 現在。目の前にはギルガメッシュの胸元。 俺はがっちりと抱きこまれていた。 そのおかげか、冷えた空気の中でもわりと温かい。 …じゃなくて。 まあきっと、大した理由は無いんだろうと思いながら身じろいでみる。 俺を抱く男の腕の力は緩まない。 どころか、更にきつく力を込められる。 抜け出すことを諦めた。 寝直すことも出来ずに、俺は顔を上げてギルガメッシュを間近で見た。 見れば見るほど、整った顔立ちだと思う。 口を開けば腹の立つことばかりだが、嘘だけは、吐いていないんだろうなと。 その点だけは、少しだけ認めていたりする。 そう思えるようになったのは、ごく最近のことだが。 「…ああ、でも。」 俺のことを気に入っているとか、寵愛だとかは何かの冗談だろうと。 そこだけは真実じゃないと、思う。 この男の行動に、肉体的にも精神的にも慣れていく自分の変化にうんざりする。 受け入れつつある、ということなんだろうか。 それ以上考えたくなくて、俺は目をきつく閉じた 「…なかなか、強情なものよな、雑種。」 「…うるさい。」 ふいにかけられた声。 予測はしていたので、俺はそっけなく唸ると、 ギルガメッシュは何がおかしいのか喉の奥で笑い、俺の頭を撫でてきた。 「いい加減、我の寵愛を享受せよ。それを赦しておるのだからな。」 「お断りだ。」 「…ふ、厭きさせぬ雑種だ。」 こんなやりとりも既に幾度目か。 でも俺は素直に頷くことなんて出来ない。 抵抗しないのは、受け入れたんじゃなくて、諦めただけだ。 そう思うのが自己暗示に近いものだとしても――。 ギルガメッシュはまだ俺を離す気は無いようで。 俺も体はだるいし、思いのほかギルガメッシュの腕の中は心地良いので。 珍しく静かな時間が、ゆっくり流れていった。