突然現れた槍兵は、俺が何の用だと訊く前に――抱きついてきた。 玄関先で。 「…ランサー。いきなり何…」 「外、寒ぃから、温まりにきた。」 「………アンタな。」 寒い、というわりにランサーは上着も着ず、 袖無しの白いシャツ一枚、見ているこっちが寒い。 先ず服をもっと着ろとか、サーヴァントが何言ってるんだとか。 色々思う所はあったが、俺に抱きつくランサーの体は確かに冷えていた。 だからまあ、そのまま突き放すことも出来ずに、 「中、入っていけよ。ここよりまだ温かいぞ。」 促してみたのだが。 「坊主でいい。」 ランサーはそう呟くと、その場に座って。 俺はランサーの膝の上に乗せられ、そしてがっちりと抱き込まれた。 ……俺は、湯たんぽか。 どうにも抜け出せない。 第三者が現れれば、事態は動きそうだが、それは遠慮したい。 はぁと溜息を吐いて、…諦めた。 胸元に擦りよるランサー。 大型犬だと思えばまぁ、うん。いいか。 「あー、癒される。」 「なんだよ、それ。」 ランサーの言葉に俺は小さく笑う。 「物好きだよな。」 苦く笑いながら言うと、ランサーは俺の胸に頭を擦りよせながら、 「ん、自覚はあるぜ。まあなんだ、坊主が良かったんだよ。」 そんなことを言ってきて。 顔が、熱くなった。 いや、照れてどうする俺、と心の中で自分につっこんでみたり。 なんというか、こうやってランサーの好きにさせている自分の気持ちもよくわからない。 拙い。絶対心拍数が上がってる。 動揺を誤魔化すつもりで、馬鹿言うなよと軽く言って、 ランサーの頭に手を回して、乱暴にその髪を掻き混ぜた。 すると、男の肩が震えて、含み笑いが聞こえてくる。 …くそ。 「冗談じゃ、ねーからな。」 ランサーは顔を上げて、男くさい笑みを浮かべながら言ってくる。 白旗を上げたい気分だ。 「…わかったから、早く温まって、教会に帰れ。」 俺はそう言い捨てて、自分の表情を隠す為に、腕の中にランサーを抱き込んだ。 「結構酷ぇよな、坊主。」 くぐもった笑いと共にそんな言葉が耳に届いたが、 知ったことかと俺は回した腕に力を込めた。