帰宅―1日の終わり





【士郎】 授業が終わり、帰路につく。 何故か遠坂も一緒だった。 俺のサーヴァントになったアーチャーの姿を改めて見たいとのこと。 多分、だが。かつての自分のサーヴァントに対してのからかい半分と、 あとの半分は純粋に様子が気になるんだろうと思う。 俺も、今は遠坂のサーヴァントであるセイバーのことが、 気にならないわけではないから。 「…まあ、あいつ、初めから家庭じみた所があるような気はしていたし。  サーヴァントっていうよりもバトラーかしらね。」 遠坂がそんなことを呟く。 「そうなのか?」 「ええ。何も言っていないのに、お茶の用意をしてくれたり、ね。  それがまた美味しいものだから…文句も言えないじゃない。」 「はは。」 そんな会話をしながら二人並んで歩いて、家に着いた。 玄関の戸を開けると――ふわりと、甘い香り。 「…これ、」 「…犯人は十中八九、あいつね。」 「犯人、って遠坂…」 「あ、やっぱりセイバーも一緒なんだ。」 「…そう、みたいだな。気のせいかと思ったんだけど。」 「あいつが誘ったのかしら?」 「…なんか、意外だ。」 「ええ、わたしも。」 甘い香りが漂う中、遠坂といくつか言葉を交わしながら、 その香りの元へと足を進めた。 居間に辿り着くと、そこにはケーキを頬張るセイバーの姿。 「!シロウ、それにリンも…」 「セイバー、来てたのね。」 「すみません、勝手に出てきてしまって」 「自由にしていてくれて全然構わないんだから、謝らないでよセイバー。」 「ありがとうございます。」 「セイバー。」 「シロウ。あの…」 「ああ、別に、セイバーならいつでも歓迎する。気にしなくていいぞ。  それより、そのケーキって……」 「あ、これはアーチャーが」 「戻ったのか。…む、凛も一緒か。」 三人で話していると台所から、遠坂曰く『犯人』であるアーチャーが姿を見せた。 「ただいま、アーチャー。」 顔を見たら、自然とそんな言葉が出てきた。 しまったと思う前に、 「おかえり。」 とアーチャーの言葉が返ってきて。 遠坂とセイバーから、珍しいものでも見た時のような視線を感じる。 俺も自分で言っておきながら、妙な気分になる。 アーチャーはそんな俺達には構わずに、 「その様子ではまだだろう、手を洗ってくるといい。  その間に君の分も用意しておこう。……お前はどうする、衛宮士郎。」 まず遠坂に声をかけたあと、俺にも問い掛けてきた。 至って普通の声音に、 「……折角だから、もらう。」 俺も普通に、その申し出を受けた。 アーチャーは頷き、また台所に姿を消した。 「…驚いた。あんた達、本当にうまくやってるんだ。」 「私も驚きました。」 遠坂とセイバーが口を揃えて言う。 うん、俺も驚いてる。 ただ、うまくやっていけそうだと思う反面、得体の知れない不安も感じていた。 この後、皆で食べたアーチャー手づくりのケーキは旨かった。 セイバーは昼御飯もアーチャーの手づくりのものを食べたらしい。 随分満足そうに見えて、少し悔しかったりもする。 遠坂とセイバーが帰って、アーチャーと二人。 夜は二人で食事をつくることになった。 台所で黙々と作業する。 お互いに段取りがわかるようで、料理はスムーズに進んでいく。 「…なあ、アーチャー。」 「何だね、衛宮士郎。」 「お前さ……いや、やっぱりいい。何でもない。」 「…そうか。」 何かを訊こうとして、結局自分でも何を訊けばいいのか分からなくて 言葉を濁した俺を、アーチャーは特に気にしなかった。 それから数日後に一騒動あることを、 当然のことながら俺はまだ、知らなかった。