昼間の風景2





【セイバー】 数日ぶりだというのに、懐かしさを感じながら、 アーチャーについてシロウの家に足を踏み入れた。 私の元マスター、シロウ。 現在のマスターはリン。 そのことに不満など無く、与えられる魔力も申し分ない。 だが、今もシロウは自分にとっての唯一人のマスターだ。 そんな私の想いをリンは理解してくれていて、とても感謝している。 「楽にしているといい。」 アーチャーは私にそう声をかけると、キッチンへと姿を消した。 居間のテーブル。 自分の定位置だった場所に腰を下ろす。 少しして、キッチンから規則的な音が聞こえ始める。 注意して聞いていると、そのリズムがシロウと同じで。 まるでシロウが今、食事の準備をしているのだと、錯覚しそうになる。 「…いえ。本当にシロウ、なのですね…。」 小さく呟いた。 錯覚ではなく、確かにアーチャーはエミヤシロウなのだと。 お互いに認めることは出来ないと、剣を交え、その果てに―― シロウは未来の自身の可能性であるアーチャー、英霊エミヤに打ち勝ち。 アーチャーは否定していた過去の自身、シロウの存在を認め。 そして今、二人は主従の形で繋がっている。 アーチャーがシロウなのだと解ってから、 二人が否定しあう姿は、とても悲しかった。 だから今の二人の姿を嬉しく思う。 こうして現界を選ぶことに迷いもあった。 だが、戦うことしか存在価値の無いサーヴァントであっても、 聖杯戦争の先を生きるシロウを少しでも見届けたいと思い、 だからこそ選んだ道に、後悔は無い。 アーチャーもまた現界を選んだことには僅かに驚愕もあったが、 そのことも嬉しく思うのだ。 食事の準備が調うまでの時間。 穏やかに流れる時を感じながら、アーチャーが戻るのを待つことにした。