【セイバー】 数日ぶりだというのに、懐かしさを感じながら、 アーチャーについてシロウの家に足を踏み入れた。 私の元マスター、シロウ。 現在のマスターはリン。 そのことに不満など無く、与えられる魔力も申し分ない。 だが、今もシロウは自分にとっての唯一人のマスターだ。 そんな私の想いをリンは理解してくれていて、とても感謝している。 「楽にしているといい。」 アーチャーは私にそう声をかけると、キッチンへと姿を消した。 居間のテーブル。 自分の定位置だった場所に腰を下ろす。 少しして、キッチンから規則的な音が聞こえ始める。 注意して聞いていると、そのリズムがシロウと同じで。 まるでシロウが今、食事の準備をしているのだと、錯覚しそうになる。 「…いえ。本当にシロウ、なのですね…。」 小さく呟いた。 錯覚ではなく、確かにアーチャーはエミヤシロウなのだと。 お互いに認めることは出来ないと、剣を交え、その果てに―― シロウは未来の自身の可能性であるアーチャー、英霊エミヤに打ち勝ち。 アーチャーは否定していた過去の自身、シロウの存在を認め。 そして今、二人は主従の形で繋がっている。 アーチャーがシロウなのだと解ってから、 二人が否定しあう姿は、とても悲しかった。 だから今の二人の姿を嬉しく思う。 こうして現界を選ぶことに迷いもあった。 だが、戦うことしか存在価値の無いサーヴァントであっても、 聖杯戦争の先を生きるシロウを少しでも見届けたいと思い、 だからこそ選んだ道に、後悔は無い。 アーチャーもまた現界を選んだことには僅かに驚愕もあったが、 そのことも嬉しく思うのだ。 食事の準備が調うまでの時間。 穏やかに流れる時を感じながら、アーチャーが戻るのを待つことにした。