昼間の風景1





【アーチャー】 「……む。本当にする事が無くなってしまったな……。」 衛宮士郎を送り出し、残りの食器を片付けて。 洗濯―そもそも大した量は無い。 天気が良いので布団も干すことにし、ざっと広い衛宮邸を掃除して。 時刻は昼前。 徹底的な掃除を始めれば、時間をそれなりに使えるだろうが、 それを実行に移すほどの理由も特に無く。 こうなると、何か仕事でも探すか、と一瞬考えて、 我が事ながらと失笑した。 『馬鹿な。いつまでここに、いるつもりだ。』 自身は既に死者、生者では無い。 生身でいると、どうしてもその事実が遠ざかってしまう。 軽く頭を振る。 なし崩し的に繋いだ衛宮士郎との契約は、完全なものでは無い。 近く、魔力は枯渇するだろう。 上手く隠し通せると良いが。 『…衛宮士郎が気付かずとも、凛には見抜かれるか。』 溜息ひとつ。 打開策はあるが、あるからこそ気が重い。 衛宮士郎のことだ。私を残すと決めた以上は、 その方法に抵抗があろうとも頷くだろう。 「…まあ、いい。」 今考えたところで、詮無いこと。 とりあえずは、と台所に向かい、食材諸々を確認し、 必要なものをメモして、買出しに出ることにした。 セイバーは凛の家だろうか、声をかけてみるのも悪くないかもしれない。 同じように暇を持て余しているのだろうし。 昼の食事を用意して、菓子づくりでもすれば時間は潰せそうだ。 ざっと予定を立てて、玄関に向かう。 予め渡されていた鍵で玄関の戸を閉めて。 全て忘れた筈の記憶――だが、どこか懐かしく――。 目眩に堪えるように強く目蓋を閉じてから、歩き出した。 「アーチャー、何故貴方がここに。」 買出しを済ませ、向かった遠坂邸には、やはりセイバーがいた。 「なに、君も暇だろうと思ってね。食事の誘いに来てみたのだが。」 「な…っ、暇、などと決め付けないでいただきたい!  ………ですが、食事、ですか。もしかして貴方がつくって下さるのですか?」 こちらの言葉に一瞬、むっとしたものの、『食事』は気になるのか、 セイバーの表情はすぐに和らぎ、私が手に提げているいくつかの袋を見て、問いかけてくる。 それに頷き、 「君の口に合うかどうかは解らないが、衛宮士郎には劣らんよ。」 答えれば、彼女は複雑な表情を見せ、だが。 「…では、お言葉に、甘えて。」 遠慮がちに、セイバーはこの誘いを受けたのだった。