【アーチャー】 「……む。本当にする事が無くなってしまったな……。」 衛宮士郎を送り出し、残りの食器を片付けて。 洗濯―そもそも大した量は無い。 天気が良いので布団も干すことにし、ざっと広い衛宮邸を掃除して。 時刻は昼前。 徹底的な掃除を始めれば、時間をそれなりに使えるだろうが、 それを実行に移すほどの理由も特に無く。 こうなると、何か仕事でも探すか、と一瞬考えて、 我が事ながらと失笑した。 『馬鹿な。いつまでここに、いるつもりだ。』 自身は既に死者、生者では無い。 生身でいると、どうしてもその事実が遠ざかってしまう。 軽く頭を振る。 なし崩し的に繋いだ衛宮士郎との契約は、完全なものでは無い。 近く、魔力は枯渇するだろう。 上手く隠し通せると良いが。 『…衛宮士郎が気付かずとも、凛には見抜かれるか。』 溜息ひとつ。 打開策はあるが、あるからこそ気が重い。 衛宮士郎のことだ。私を残すと決めた以上は、 その方法に抵抗があろうとも頷くだろう。 「…まあ、いい。」 今考えたところで、詮無いこと。 とりあえずは、と台所に向かい、食材諸々を確認し、 必要なものをメモして、買出しに出ることにした。 セイバーは凛の家だろうか、声をかけてみるのも悪くないかもしれない。 同じように暇を持て余しているのだろうし。 昼の食事を用意して、菓子づくりでもすれば時間は潰せそうだ。 ざっと予定を立てて、玄関に向かう。 予め渡されていた鍵で玄関の戸を閉めて。 全て忘れた筈の記憶――だが、どこか懐かしく――。 目眩に堪えるように強く目蓋を閉じてから、歩き出した。 「アーチャー、何故貴方がここに。」 買出しを済ませ、向かった遠坂邸には、やはりセイバーがいた。 「なに、君も暇だろうと思ってね。食事の誘いに来てみたのだが。」 「な…っ、暇、などと決め付けないでいただきたい! ………ですが、食事、ですか。もしかして貴方がつくって下さるのですか?」 こちらの言葉に一瞬、むっとしたものの、『食事』は気になるのか、 セイバーの表情はすぐに和らぎ、私が手に提げているいくつかの袋を見て、問いかけてくる。 それに頷き、 「君の口に合うかどうかは解らないが、衛宮士郎には劣らんよ。」 答えれば、彼女は複雑な表情を見せ、だが。 「…では、お言葉に、甘えて。」 遠慮がちに、セイバーはこの誘いを受けたのだった。