士郎+剣 仰向けにアスファルトに転がる蝉。 この時期それは珍しくない。 ほんの少し足が動いたような気がしたので、 そっと人差し指を蝉の腹にあててみると、 その足は思わぬ強さで指にしがみついてきて。 指を持ち上げる。 最後の命の灯火。 この蝉は、役目をちゃんと終えて、死に逝こうとしているのだろうか。 そうであればいい。そんな他愛のないことを思う。 「どうしたのですか、シロウ。」 突如かけられた声に少し驚いて振り向く。 「セイバー。」 名を呼ぶと、小さく頷いて傍に来る。 「蝉、ですか。」 「ああ。」 「…あまり元気は無いようですね…。」 「さっき地面にひっくり返ってた。」 「そうですか。」 そこで会話は途切れる。 照りつける日差しは強い。 指にしがみついた蝉は口吻を突き立ててきた。 ちり、とした痛み。 セイバーは何も言わず、ただその蝉の様子を見ている。 しばらくして、口吻は離れた。もぞ、と動く。 指を高くあげると、その蝉は翅を広げて、 恐らくは最後の力で、空に飛び立っていった。 「…飛んでいきましたね。」 「うん。」 二人、蝉の飛び立っていった蒼い空を見上げる。 少しだけ、物悲しい気持ちになった。 「…指は大丈夫でしたか?」 「ん、ああ。……はは、跡がついてる。」 セイバーに問われて指を見れば、 しがみついていた足の跡と、口吻をつき立てられた跡。 ほら、とセイバーに見せると、くすりと小さく笑って。 跡のついた指を辿る、細い指。 温かく、こそばゆい。 「…アイスでも買って、帰るか。」 「はい。」 そんな風に声をかけて、笑いあって二人、一緒に歩き出した。 隣り合って歩く。 肩が触れそうで、触れない距離で。