無防備に眠るその姿に 感じたものは 何か 礼拝堂の長椅子に、横になって眠る士郎。 それに、まず赤い弓兵が気付き、叩き起こそうとした所で、 青い槍兵が寝かせておけと割って入り、 その上何故か金の英雄王まで、雑種がどうしたと混ざり。 滅多に無いことだが、英霊三人の会話が始まった。 「本当に無防備だよなぁ、坊主。」 呆れ半分感心半分で、ランサーが眠る士郎を覗き込み、 ちょい、と髪を指でつまんで軽く引くと、 士郎はむぅと眉を寄せるが、目覚める気配は無い。 「……育った環境のせいだろうな。図太くもなろう。」 アーチャーはランサーの行動を面白くなさげに見やりながら、 それでも目覚めない士郎には、さらに不機嫌な表情をよこし、そう吐き捨てる。 「雑兵、その雑種は我のものぞ。許可無く触れるな。」 ギルガメッシュは殺意さえ滲ませてそう告げるが、 ランサーは気にせず、寧ろ愉しげに口元を歪める。 一気に場の空気が緊張する。 ―――が、それでもなお、士郎は眠ったまま。 「……坊主も色々、無茶やってっからなぁ。」 しみじみとランサーは呟く。 「…単に欲深いだけだろう。いずれ破綻するのは目に見えている。」 アーチャーは突き放すような言い方をするが。 「フン、雑種を否定するか。 ならば何故貴様は未だ現界しているのだ、贋作者。滑稽なものだな。」 全てを見透かすかのように、ギルガメッシュがアーチャーに問い掛ける。 アーチャーは押し黙る。 それはアーチャー自身、自覚してはいるが、ギルガメッシュに答える筋合いは無い。 今度はアーチャーとギルガメッシュの間が凍りつく。 ―――と。 「…何をしている、ランサー。」 音も無く、アーチャーは双剣を手に取りランサーに突きつけた。 「いや、どこまでやったら起きるかと思ってな。」 ランサーは軽く答える。 眠る士郎に覆い被さり、唇を近づけた状態で。 「…所詮は雑兵。我の言葉が理解できなかったようだな。」 ギルガメッシュは赤い瞳を細め、口元には笑みさえ浮かべそう言い放ち、 背後の空間を歪ませた。 「ったく、面倒くせぇな。」 ランサーはがりがりと頭を掻くと、士郎から身体を離し、ぶんと手を振る。 その手に現れたのは赤槍。 「ここでやると、あとで坊主がうるさいか。 久しぶりに身体を動かしたい所だったしな、丁度いい。」 ランサーはそう言ってアーチャーとギルガメッシュを外へ促す。 「雑兵、贋作者。いい加減目障りだ。そろそろ我の手で還してやろう。」 ギルガメッシュはそう言い放つと、くるりと背を向け、礼拝堂を後にする。 「…それはこちらの台詞だ。」 簡潔に告げてアーチャーはギルガメッシュの背に、応えるように殺意を向け、 そのままそれを、ランサーにも向けた。 「ハ、上等だ。」 ランサーも真っ向からその殺意に応え。 次の瞬間、アーチャーとランサーは同時に実体化を解き、礼拝堂の外に出た。 静寂に包まれた礼拝堂。 暫くして、外から響いてきた、剣戟の音。 その音が、子守唄のように感じたのか。 長椅子で眠る、言峰士郎の顔は、穏やかだった。 その後 <弓・槍・金> 終了