こいつを否定できるのは、衛宮士郎だけ。 こいつを救えるのも、きっと衛宮士郎だけなのだろう。 俺に出来た事は、こいつの鬱屈を、ほんの少し晴らす相手になってやった、 ただ、それだけ。 互いに言葉が無くなり、周りの喧騒も、少しずつ遠ざかっていく。 教会が目の前に見え始めた時に。 「お前のような可能性も、あるのだと、初めは驚愕した。 …衛宮切嗣に引き取られない士郎なぞ、考えもしなかった。 衛宮の名を持つ士郎の道よりも、 言峰の名を持つ士郎の道が、良い道だったとは、決して思えんが… お前は、オレにはならない。 そんな道もあるのだと知れた、今回の召喚は。……悪くは、無かった。」 アーチャーが、そんな風に言ってきた。 俺は数度瞬いて、アーチャーを見る。 アーチャーも、俺を見てきた。 その瞳は、静か。 ああ、そうだな。 アーチャーにとっては、とっくに今回の召喚は、終わっているのだ。 俺が衛宮士郎では無いと知った、初めに。 今もここにアーチャーがいる理由なぞ、ひとつだけ。 俺が、そう望んだから。 どんな気まぐれかは知らないが、口で色々言っていても、 結局、俺が望む限り、アーチャーは付き合ってくれるのだろう。 なんでか、目の奥が熱くなった気がして、 俺はアーチャーから視線を外す。 ――と、アーチャーが。 「まぁ貴様は、どうみても、早死にするだろうな。」 そんなことを、言ってきた。 ちょっといい奴かもしれないと思ってしまった自分に腹が立つ…! 「俺は、太く短く生きられれば、それで満足だから、いいんだ短命でっ!」 俺がそう吐き捨てると、アーチャーは笑って、それは叶うだろう、と言ってくる。 つまらない、馬鹿な言い合いをしながら、俺達は教会に帰り着き、中へ入っていった。 自分の我が儘なのは、承知済み。 どうせアーチャー自身に今回の召喚の記憶なんて、残りはしないんだろう。 それでもせめて、座に還るその時まで。 アーチャーには笑っていてほしい。 俺は、そう、思った。 どんな結末が待っていようとも、 アーチャーと真っ直ぐにぶつかり合える、衛宮士郎に、 少しの羨望を、抱きつつ。 その後 <アーチャー> 終了