言峰士郎の聖杯戦争 VS言峰綺礼





アンリマユ この世全ての悪? はっ、笑わせてくれる。 俺は身体に纏わりついた泥を、無造作に掃った。 「…やはり、効かぬか。」 「当然だ。あんたもギルガメッシュも平気なんだ。  この俺に、効くわけがないだろう。」 10年だ。俺は綺礼やギルガメッシュの歪さを知ってなお、 共にいることを自分の意思で選んだ。 そんな自らも歪なのだというのは承知の上。 一人でも、どうにか生きていける歳になっても留まった理由。 それは結局。 人として最悪でも。好きだったから。 言峰綺礼という人間も。 ギルガメッシュという英霊も。 だから、最期は俺の手で引導を渡してやる。 ずっとそう、決めていた。 「決着をつけるぞ、綺礼。」 「ふ、最も原始的な方法で決着をつける、か。似合いかもしれぬな。」 選んだ方法は単純。 互いの拳のぶつけ合い。最後に立っていたほうが勝ち。 ぼろぼろなのはお互い様。 俺も、綺礼と対峙する前にはギルガメッシュとの一戦があったし、 綺礼もなんだかんだと一戦交えていたようだ。 疲弊しているのはどちらも。 ならば勝敗を決めるのは精神の強さ。 どれぐらいの間、殴り合っていたのか。 結局俺は、立ち合いで綺礼に勝ったことは無い。 それでも今、倒れずにいるのは、意地。それだけ。 身体は痛みを通り越してだんだん感覚がなくなってきている。 息だってできているのかわからない。 綺礼の拳だけが。蹴る脚が。息遣いが。俺を見据える視線だけが、全て。 それでも、長い時間をかけて、決着はついた。 魔力を籠めた拳で、綺礼の心臓部分を思い切り殴りつけて。 綺礼は動きをぴたりと止めた。 微動だにしない、身体。 「…綺礼。この10年、悪くなかった。…じゃあな、親父。」 「…ああ、確かに……悪くは、なかった。」 最後の俺の言葉に、綺礼は薄く笑って。 前回の聖杯戦争で生き永らえた身体をようやく、休めた。 薄々、気付いていた。 綺礼の身体は人として、どこかおかしいと。 いつからなのかは知らない。 ただ、綺礼が前回の聖杯戦争で自分は一度死んだのだと、なんでもない ことのように、ぽつりともらしたことがあった。 それは、事実だったんだろう。 何かの力で無理矢理生かされている歪な身体。 だから、それを壊すことに躊躇いは無かった。 むしろ自然に朽ちる前に俺の手で、とさえ思っていた。 それは、歪な俺なりの、綺礼に対する好意の表れだったのかもしれない。 他人の不幸にしか至福を感じられない、歪な精神を持ってしまった男。 俺はただ、覚えていようと思う。 そんな男が俺の義父で。 自らの手で、その義父を殺したことを。 頬を一筋だけ、何かがつたって 落ちた。 それが何の為に流れたものだったのか、 俺は考えることを放棄して、その場を離れた。 VS言峰綺礼  終了 エピローグ1−1へ