※注意 荒垣コミュネタバレ。 ぬるいけど、えろだよ。 「言っとくが……止まんねーからな。」 そう言って荒垣先輩は私の腕を掴んだ。 引き寄せられて、あ、キスされるのかな、と思って反射的に目を閉じる。 これで勘違いだったら少し恥ずかしいなと考えていたら、唇に吐息と熱が重なった。 すぐに離れて、また重なる。 荒垣先輩の腕がいつの間にか背中に回されていて。 苦しいくらいに抱きしめられながら。 苦しい。何故か胸が締め付けられるような苦しさ。 あと、普通に息苦しい。 「…おい。」 呼びかけられて目をそっと開けると、間近に荒垣先輩の顔。 ちょっと呆れてる時の。すぐにそれは苦笑に変わる。 「鼻でも呼吸、できんだろ?」 「……あ、そっか。」 指摘されてやっと自分が息を止めていたことに気付いて、ぷはっと盛大に息を吐き出し吸った。 「ったく、おめぇは…」 やわらかく笑う荒垣先輩。私もつられて笑う。 そのまま再び重なる唇。 今度はちゃんと鼻で呼吸する。 でも少し苦しくて薄く唇を開くと、そこに躊躇いがちに荒垣先輩の舌が入ってきた。 吃驚して引っ込めた私の舌を捕らえるように深く潜りこんできて、絡めとられる。 ん、と喉が鳴る。 縋りつくように荒垣先輩の背中に腕を回して、全て、委ねた。 荒垣先輩をちゃんと男の人として意識し始めたのは、いつからだったのだろう。 初めは、面倒見のいい先輩だなと思っていた。 ぶっきらぼうだけど優しくて、寮のみんなも慕っていて。 中でも真田先輩は凄く分かりやすかった。 荒垣先輩と一緒にいるときは、いつも嬉しそうで。 そのせいかもしれない。荒垣先輩はどこか『お母さん』のような安心感がある人だな、と思ったりもした。 言ったら傷ついてしまうかもしれないので、これは内緒だ。 でも、その気持ちは、変わっていった。 二人で出かけて、二人きりで過ごして。 時折、酷く悲しげな目をするのが気になった。悲しげに微笑うのが、気になった。 気付けば寮に戻ると真っ先に荒垣先輩の姿を探していた。 見つけてほっとして、駆け寄って。 ああ、お前かって声をかけてもらうのが、嬉しかった。 『先輩が好き』 告白。本当は言うつもり無かった。自分でも解っていなかった気持ち。 でも荒垣先輩があんな風に私を遠ざけようとするから、引きとめようと必死だったんだと思う。 好きと一度言葉にしてしまったら、もう止まらなくなった。 それが自分の気持ちだと、自分でもやっと解って。 無茶苦茶言ってることは解っていたけど、どうしようもなかった。 『あ…れ?』 どさりとベッドに倒れこんだところで我に返った。 覆い被さる荒垣先輩が上から見つめてくる。その目は真剣で。 頬を撫でられる。大きな手。気持ちがいい。 「本当に、いいんだな。」 その忠告はきっと最後だろう。 私は頷いて、 「荒垣先輩、好きです。」 もう一度、はっきりと告げた。 荒垣先輩は少し苦しげに一度目を閉じた後、再び開いて、 「俺も……好きだ。どうしようもねえぐらいに、な。」 そう、言ってくれた。 荒垣先輩はずっと何かに苦しんでいて、それでも私にそんな気持ちを抱いてくれたことが、 申し訳ない気持ちと同じくらい、堪らなく幸せだった。 それから後のことは、嵐のようだった。 止まらない、という言葉の意味を身をもって思い知った。 荒垣先輩もちゃんと男の人なんだなぁと変なところでしみじみと思ったりして。 正直、そういったことで気を紛らわしていないと、恥ずかしくて死にそうだったのだ。 言葉は無く、荒い息づかいと、皮膚の擦れあう音、濡れた音だけが静かな室内に響く。 声はなんとか堪えようとしながらも、時折堪えきれず零れてしまう。 「…辛けりゃ肩、噛んでいいからな。」 抱き寄せられて、耳元で伝えられた言葉を理解したのは、弄られて準備が調ったそこに あてがわれた熱が、ぐ、と体内に潜り込んできてから。 「――――っっ」 声を上げそうになって、咄嗟に荒垣先輩に抱きついて、口元をその肩に押し付けた。 ぶつ、っと何かが破られたような感覚。鈍い痛み。 そのままゆっくりと奥深くに突き進んでいく熱の塊。 耳元で荒垣先輩の辛そうな息づかい。 『そうか、先輩も、くるしいんだ。』 そう思うと、少しだけ痛みがひいた気がした。 ちゃんと全部受け入れたくて、精一杯身体の力を抜く。 長いようできっと短い時間が過ぎて、身体の中の熱塊の動きが止まった。 そこで私は、無意識に荒垣先輩の肩を噛んでいたことに気付いて、 そっと口をはなすとくっきり歯形がついて少し血も滲んでいた。 ごめんなさいという気持ちを込めて、そこに口づける。 荒垣先輩は私の髪を何度か撫でた後、その手を順に下ろしていった。 まるで確かめるように。 頬、首筋、鎖骨、胸、腹部。 「痛かっただろ…」 「ん……でも、うれしい、です。」 「っ、…ったく…おめえは……」 「だって、ほんと、ぅ……ん…っ」 続けようとした言葉は重ねられた唇に奪われる。 そしてゆっくり、次第に強く身体を揺さぶられた。 鈍い痛みはずっとあった。でもそれだけではない感覚もあって、必死にそれを追いかけた。 「――ぁっ…!!!」 「っ、」 頭の中が白く染まる。 荒垣先輩も眉を寄せて小さく呻いた後、身体を何度か震わせた。 は、と息を吐いてそろりと荒垣先輩が離れていく。 自分の中からやわらかくなった熱が引き抜かれても、まだ内にあるような不思議な感覚。 目を閉じて静かに深呼吸する。 その間に荒垣先輩が身体を拭いて、服を整えてくれた。 ぱちりと目を開けると、少しだけ照れたような荒垣先輩の顔。 「荒垣先輩。」 「…名前、呼んでくれねえか?」 「? ……シンジ とか?」 「いや、それは…カンベンしてくれ。」 名前と言われて浮かんだのが、真田先輩が荒垣先輩を呼ぶ時だったので、同じように呼んでみたら 何ともいえない顔をされてしまった。苦虫を噛み潰したような。 思わず小さく笑ってしまう。 「えっと、じゃあ、真次郎、さん。」 いざ名前で呼ぶとなると気恥ずかしくて、最後の方は声が小さくなってしまった。 でも、荒垣先輩はこそばゆそうに口元を緩めて、額に口付けてくれた。 「せんぱ…真次郎さんは、呼んでくれないんですか?」 「…またの機会に、な。」 「………ずるいです。」 「ああ。俺ぁ、ずるいんだ。」 結局荒垣先輩は、私の名前は呼んでくれなかった。 それには意味があるように思えて、私はそれ以上は求めず、かわりにキスをねだった。 優しく落とされるキス。 今のこの時間を惜しむように、目一杯、甘えた。 後日、初めて名前を呼ばれた時、私は泣いた。 それはまた、別の話。 荒垣先輩は酷い人だったけれど、私自身も大概だった、というのもまた、少し先の話。 荒ハムは自己生産しなくても恵まれてるカプだけど、一応ちゃんと書いてみようかなと。 少女漫画のようなノリに。仕方ないよ。最後はまぁ、アレに繋がるから酷いけどな。 名前呼びはお約束。微妙に真田先輩の影がちらちらするのもお約束。