シンジの眠りは深い。 一度眠りにつけば、余程のことがないかぎり起きない。 だから、寮の部屋の鍵は開いたままで、大抵の場合、朝起こしにいくのは自分の役割だった。 シンジはそのことについて何も言わない。 気付いているだろうか。 時々俺が、夜中にシンジの眠るベッドへ潜り込んでいることを。 シンジの傍で眠るのは、とても安らげた。 小さな子供の頃はいつも一緒に眠っていた。 妹と三人で。妹を亡くしてからは二人で。 その距離感が俺にとっては普通だった。 今は流石にお互いに生き方も変わってきていて、 それでも時間が合う時は一緒にいる。 成長した俺達二人には、シングルのベッドは狭い。 僅かに空いたスペースに身体を潜り込ませる。 背中合わせに密着する。 シンジの温もり。匂い。 目を閉じるとすぐに眠気が押し寄せてきて、俺は抗うことなく意識を手放した。 そして、爆音で目を覚ます。 「……なんでこれで起きないんだ、シンジは。」 凄まじい音をたてる目覚まし時計。毎回そう思う。 身体を起こして目覚ましを止めて、隣を見ると起きる気配すらないシンジの寝顔。 時折不安になる。シンジの眠りは深すぎて、静かすぎて。 確かめる為にシンジの口元を指でなぞると、ちゃんと温かいことに胸を撫で下ろした。 ベッドを抜け出してから、強めにシンジの身体を揺さぶる。 「シンジ、起きろ!」 耳元でわりと大きな声で呼びかけると、僅かに眉が動いたが起きない。 いつもはそれを根気よく繰り返して、最終的に叩き起こすような形になる。 だが、なんとなく今日は違った。自分が。 何故、だろうか。 何も気付かないシンジが悪い、そう自分を正当化して。 顔を近づける。シンジ。間近で名前を呼ぶ。 息がかかる距離。起きる気配のないシンジ。 そのまま俺は、その距離を、ゼロにした。 触れた唇は、指で触れる時とはどこか違う。かさついていて、かたい感触。 『……何を、俺は』 妙に冷静なまま、俺は心の中で自分に問いかけたが、答えは出なかった。 一つ息を吐き出した後、気を取り直して俺はシンジの頭の下にある枕を抜き取って、 それを力一杯シンジの身体に叩き付けた。 くぐもった低い声が耳に届く。 シンジはゆっくりと目を開けて、何回か瞬きしてから身体を気だるげに起こした。 「おはよう。」 朝の挨拶を告げると、 「……………はよ、悪ぃな。」 欠伸を噛み殺しながら、いつも通りにシンジも挨拶と謝罪を口にする。 「さっさと顔洗ってこいよ。」 何もなかったように俺はそう言ってシンジに背を向ける。 動く気配を感じて、二度寝の心配は無さそうだと判断して、俺はそのままシンジの部屋を出た。 「さてと…」 時間に余裕はある。今から少し走ってくるか、そう決めて軽い足取りで自分の部屋に向かった。 先程のことは、もう自分の脳裏から消え失せていた。 荒垣先輩逃げてー! 真田に自覚は無いです。だってコミュでアレだもんな…。 一応荒真です。なんというかスキンシップの延長で大変なことになりそう。 荒垣は真田にはなんだかんだと甘いので、拒みきれないんだよ…。