ヤマ主・ヤマヒビ小ネタ





◆実力主義ED後ヤマ主 猫のようだと感じたことは幾度かあるが。 濃い気配を身近に感じ覚醒すれば、胸元にすっかり馴染んだ黒い柔らかな癖毛。 彼は時折こうして眠る私の元へとやってくる。 そして何をするでもなく、ただ私にすり寄って眠っている。こちらの気など知らず。 そっと、起こしてしまわないようにその黒髪に触れ、旋毛に唇を落とす。 ん、と身動ぎ、私の背に腕を回し、胸に顔を擦り付け。 僅かに上向いたその表情は酷く無防備で。 そのまま額へ唇を滑らせると彼の目元が緩む。 「…やまと」 綻ぶ唇、彼が自分の名を呼ぶ、たったそれだけの事実に堪らなくなる。 これを人は幸福というのだろうか。 眠る彼を暴きたいという衝動は当然のように身の内にある。 だが、私はそれを抑え込む。 こうして寄り添い共寝することで満たされるものもあるという事を既に理解しているからだ。 だから私はすり寄る彼を抱き寄せ瞼を閉じる。 猫のように気まぐれで、存外愛情深い。 そんな彼を腕に抱いて眠るのも決して悪くはないのだ。 ◆実力主義ED後ヤマ主 ぱちぱちと小気味良い音が続く。 俺は今、ヤマトに爪を切られている。 手をとられ、動かないように固定されて。 ぱち、ぱちん。伸びていた爪は綺麗に、多少深爪気味に。 左手が終われば右手。ぱちん、ぱち。 大人しくヤマトに手を預け、俺はなされるがままだ。 下手に動けば肉まで切られそうで怖い、という本音は飲み込んでおく。 左右全て切り終えた後は丁寧に鑢までかけてくれた。 至れり尽くせり、漸く解放されて確かめるとつるつるになっていた。 「足も出せ」 当然と言わんばかりのヤマトの声に数度瞬く。 「…足の爪でも引っ掻いた?」 「猫か犬とでも思えば愛らしいがな、お前のそれはもはや凶器だ」 俺の問いかけにヤマトは口角を上げながら答える。目は笑っていない。 これは容赦なく引っ掻いてしまったらしい。 記憶にないのはまあ、あれだ。熱に浮かされている時のことなので悪気はない。 面倒くさくて暫く爪の手入れを怠っていたという自覚はあるので、 抵抗は諦めて素直に足を差し出した。 ヤマトは俺の足を手に乗せて再び爪に刃をあてる。 ばちんと手の爪よりも大きな音が室内に響く。 全て終えて最後にヤマトは俺の足先にキスを一つ。 「傷を付けられるのも、悪くはないがな」 「…それじゃ、また伸ばしてやる」 「そうか。ではまた私が切ろう」 何だかんだ言って、結局ヤマトは俺に甘い。 今回の爪切りも、ただ、切りたくなっただけなんだろう。 だから俺はきっとまた爪を伸ばすんだ。 ヤマトとのこうしたやり取りを楽しむために。 ◆ヤマヒビ(R15) 「眠っている時は、年相応なのにな」 自分の隣で静かに眠るヤマトを起こさないようにヒビキは呟く。 睫毛さえも確認出来る程に近い距離。 こうしてヤマトが寝顔を見せてくれるようになったのは最近だ。 ヤマトと肌を合わせるようになって、その行為に少しだけ慣れて、 ヒビキは大抵意識を手放す形でヤマトより先に眠りに落ちるが、 時折夜中に目覚めることがあって、そんな時、隣で眠るヤマトを見つめることが出来た。 寝そべったまま手を伸ばして、ヤマトの顔にかかる髪に触れる。頬の傷跡をなぞる。 ふと、あの審判の日々、ヤマトに反発していたことを思い出す。 何故あんなにも感情的になっていたのか、今は分かる。 ヒビキはヤマトの言葉に、苦手としていた両親の言葉を重ねていた。 正しくとも何かが違うとずっと抱いてきた想い。 両親にぶつけることは出来なかったそれを、ヒビキはヤマトにぶつけたのだ。 極限状態だったからかもしれない、自分の気持ちを真っ直ぐに言葉に出来たのは。 「…ヤマトにだって、色々理由があったのに」 分かり合えた今となっては苦い記憶だ。 あの時は自分よりも年上だと思っていたヤマトが1つ年下だと分かって、 酷く驚いたことをヒビキは覚えている。 年下だと分かってからも、普段のヤマトはその事実を感じさせないぐらい大人びていて。 そんなヤマトもヒビキと共に過ごす夜だけは違って見えた。 ヤマトは言葉で伝えることが苦手なのかもしれないとヒビキは思う。 ヤマトの体温を身体の深くで感じている時、ヤマトが抱いている感情も伝わってきた。 苛立ちや怒りといった負の感情、喜びや楽しみなどの正の感情。 全てがヒビキに触れる行為と繋がっていた。 そのことに気付いてからは、ヤマトとの行為への抵抗感は完全に消えた。 「可愛いって言ったら、怒るかな」 不機嫌にはなるだろうな、その表情を思い浮かべてヒビキは小さく笑ってしまう。 今日は機嫌が悪かったみたいだった。 政治家との会食の予定があると聞いていたので、そのせいだろう。 いつもよりも強引で手荒だったせいで身体の至る所が痛い。 それでもヒビキの心が満たされているのは、最後には必ず労るものに変わるからで。 身体を繋げることで慰めになっているなら、 今はまだ直接ヤマトの助けになることが出来ないからこそ、 ヒビキにとってもそれは救いだ。 ヤマトに寄り添いヒビキは瞼を閉じる。 違う形でヤマトの力になれる日が来るかどうかは、きっと自分次第だ。 もっと頑張ろうと思うのと同時に、 せめて今はヤマトに安らかな眠りを与えてあげられていればいいと、 そんな風に祈るような気持ちを抱きながら、ヒビキは眠りへと身を委ねた。 ◆ヤマヒビ 自身の両手のひらに息を吐きかけ暖をとるヒビキを見つめる。 確かに今日は冷え込んでいる、ヤマト自身はそれ程気にはならなかったが。 「…ヤマト?」 ヒビキに名を呼ばれる。 他意はなかった、ただ、寒いならばと ヤマトはヒビキの両手をとり、彼がしていたようにその手のひらに息を吐きかけた。 冷え切ったその手が少しでも熱を持てば良いと。 何度か繰り返してから顔を上向けると、 ヒビキの頬が先程より赤らんで見える。 「どうした、ヒビキ」 「…っ、なんでも、ない」 「そうか」 明らかに何か問題があるように感じながらも、 こういった時のヒビキが素直に言葉にしないことを ヤマトは理解しているので問いただすことはしなかった。 その手をとったまま、ヤマトはヒビキに顔を寄せた。 触れた唇は冷たく僅かに震えている。 温めるように擦りあわせる。 「随分冷えているようだ」 ヤマトは事実だけを告げてヒビキの手を引き歩き出した。 温かい茶でもふるまおうと。 その手は冷えたままだったが、顔だけは熱を持ったように赤いヒビキに、 いつまでも初心だとヤマトは微かに笑みを浮かべた。 ◆ヤマ主(力魔ウサミミ) 「クリスマスプレゼント、何が欲しい?」 「お前を」 迷いもせずに告げられた言葉に俺は噴き出した。 あまりにも想像通りで。 ジプスのヤマトの私室。 執務机の前でパソコンのキーボードを叩くヤマトの傍らに立ち、胸ぐらを掴んだ。 顔を寄せ、軽いキスの後、形のいい唇をペロリと舐める。 「やっすいよな、お前」 挑発的に至近距離で言えば、ヤマトも口角を上げて目を細めて、 「フ…まさかこれだけで私が満足するとでも?」 欲を隠さず伝えてくる。 この美しい男に真っ直ぐに求められるのは悪くない。 意味合いを変えた今も、出会った頃、純粋に俺の力を欲していた昔も。 だから俺はその欲に応えるだけだ。 「思ってねぇよ。まだ真っ昼間だろ、夜、楽しみにしとけ」 「私は今からでも構わんが」 「良く言うぜ、仕事人間。ベッド温めといてやるから早く帰って来いよ」 ◆ヤマ主 ●貴方はヤマ主で『愛してる、って言ったら満足?』を  お題にして140文字SSを書いてください。 言葉にすると何かが違うと思う。 「愛してる、って言ったら満足か?」 俺を壁に押し付けながら難しい顔をして 黙り込んだままのヤマトに聞くと、 「……いや、不満足だ」 そう吐き捨てて、また黙り込む。 参った。僅かに顔を上向けて途方に暮れる。 俺だってヤマトにそれを言われても満足などしないんだから。 ●ヤマ主への今夜のお題は  『いつになく真剣 / 舌を入れる / 命令』です。 いつになく真剣な表情で自分の上に覆い被さってくる姿を見上げる。 互いに瞼を閉じぬまま何度か私の唇を啄んだ後、じれたように 「口、開けよ、ヤマト」 そう言って彼は舌を出した。 笑みが零れる。 今宵は随分と積極的だと言われるままに口を開けば 熱い舌が口内に潜り込んできた。 ◆実力主義ED後ヤマ主 ●○時間以内にRTされなくてもヤマトにウサミミが  冗談交じりに手首に欲望のキスをするところを描き(書き)ます ヤマトの右手を取る。 白い手袋を嵌めたその手は男らしく自分よりも少し大きい。 「…何だ?」 不思議そうな声でヤマトが問いかけてくるのに、俺はただ笑みを見せた。 何も言わない俺に対して僅かに眉を寄せながらもヤマトはその手を俺に預けたまま。 それをいいことに俺は改めてヤマトの手に視線を落とした。 手のひらを上向けて口元に引き寄せる。 コートとシャツの袖と手袋の間、白い肌が見える。 衝動的にそこへ唇を落とした後、がぶりと噛み付いた。 ヤマトが息を呑んだのが伝わってくる。 楽しくなって喉の奥で笑って、歯形のついた手首へ再び唇を擦りつけた。 「…フ、相変わらず読めん男だな、君は」 微かに笑みを零しながらそう囁いたヤマトは、俺に大人しく預けていた手を動かす。 指先で顎下と喉を猫にするように擽った後、ぐいと顎をすくわれる。 親指で唇を撫でられて、俺はその指先を銜えた。 そのまま顔を引けばするりと手袋がヤマトの手から抜ける。 小さく口を開いて手袋を落とすと冷やりとしたヤマトの手が俺の頬を撫でた。 「さて、この後はどうする?」 「別に。ヤマトはどうしたい?」 欲を隠さないヤマトに俺も挑発するように答えて笑う。 「聡明な君ならば、言わずとも分かるだろう」 言葉と共にいつの間にか腰に回された腕で引き寄せられて、ヤマトの端正な顔が近づく。 俺もヤマトの首に両腕を回して顔を傾けた。今度は唇にキスする為に。 ◆ヤマヒビ あ、と思った時には遅く、指先に微かな痛みが走った。 「…ヒビキ?」 向かいのソファーで書類に目を通していたヤマトが俺の名前を呼ぶ。 気付かれてしまったらしい、目敏いなと思いつつ、 小さく笑みを浮かべながら俺は汚さないように、 手に持っていた書類の束を目の前のテーブルに置いてから答えた。 「時々やっちゃうんだ、紙で」 言いながらヤマトに見えるように右手を差し出す。 人差し指の中ほど、皮膚が薄く裂けて血が滲み始めていた。 ヤマトは俺の指先の傷を確認して目を細める。 ティッシュで押さえていれば直ぐに血も止まるだろうと俺が手を引っ込めるよりも、 ヤマトが俺の手を捕らえる方が早かった。 「……っ!」 そして止める間もなく俺の指にヤマトの唇が押し付けられる。 くわえて、舌先で舐められて、吸われる。 ヤマトのその行為に身体の奥がじわりと熱くなった。 どうしても思い出してしまう。ヤマトとの―――セックスを。 「や、ヤマト…っ」 「…フ、もう止まったようだ。次は気をつけるんだな」 焦る俺とは正反対にヤマトは涼しい顔でそう言ってあっさりと俺の手を解放した。 からかわれているような気がして悔しい。ヤマトを睨んでみても効果はない。 俺はヤマトに舐められてすっかり血が止まった傷跡を眺めた後、ぱくりとその部分を口に含んだ。 ヤマトの行為を上書きする為に。我ながら馬鹿げていると思いながらも少しだけ吸った後、口を離す。 「…お前は……」 呟くような声に顔を上げると、ヤマトは眉を寄せて俺を見つめていた。 「何、ヤマト」 「…無意識か、全く」 呆れたように吐息を零したヤマトの手が伸びてくる。 よくわからないままヤマトをぼんやり見返していると、 ヤマトの手は俺の胸ぐらを掴んでくる。引き寄せられて、唇と唇が重なった所で漸く俺は、 何かヤマトのスイッチを押してしまったのだと気付いた。 ◆実力主義ED後ヤマ主(R18) 「っ、も…出な…っ、いた、いっ…!」 現在ヤマトと繋がったまま、何度目か分からない吐精を終えて、 力を失った俺の中心に、またヤマトの指が絡む。 擦られれば僅かに勃ち上がるものの、もう出尽くした感じでただ辛くて、 俺は力の入らない腕で訴えるようにヤマトの肩を押す。 身体も痛い。ベッドに寝そべって正面からヤマトを受け入れるには尻を浮かせる必要があって、 身体を二つに折り畳まれるような格好をとらされて、身体がそれ程柔らかくない為正直きつい。 「…私はまだお前ほど出していない」 「んっ…!」 ヤマトが不服そうに呟いて身体を揺らしてくる。 ぐちゃりと結合部から粘ついた音が聞こえて顔が熱くなる。 繋がるそこは数度受け止めたヤマトの精液でどろどろだ。 「フフ…泡だっているな…」 ヤマトが愉しげに口端を上げて俺の脚を抱え上げ、腰を引いて浅い場所で抜き挿しを始めた。 「ぅあ、あっ、あ、ゃあぁ」 前立腺を擦られてじりじりと腹の奥が熱くなる。 ひっきりなしに声が上がってしまう、止まらない。 中途半端に勃ちあがった中心からは半透明な体液がとろとろ溢れる。 堪らなくてヤマトの動きを止める為に意識して下腹部に力を入れて、 ヤマトの熱塊を締め付けても、まるでそれを待っていたかのようにヤマトの動きに容赦がなくなる。 「あ、ぁ、も…っ、そこ、ばっかり…っあ、」 「好き、だろう…っ」 ヤマトが身体を倒して俺の唇を貪ってくる。舌を絡ませて唾液を流し込んで、俺も必死にそれに応える。 重なった身体、ヤマトの背中に腕を回してすがりつく。 「んっ、ぅ、ん−ーーっ!」 前触れなくヤマトのものが深くまで潜り込んできて、衝撃に視界が白く染まった。 痙攣する身体、快楽の波が収まらない。 「っ、く…ァ」 ヤマトが顔を上げて色っぽく呻いて、震える俺の身体を抱えなおして突き上げてくる。 もう抵抗も出来ず、俺は突き上げに合わせて声を上げ、 なけなしの力を振り絞って俺を貫くヤマトのものを締め付けた。 腰を痛い程掴まれて、最奥まで潜り込んだヤマトのものが漸く跳ねて、 どくどくと熱いものが腹にそそがれるのが分かった。 互いの身体が脱力する。俺は出すものがないまま達したようなもので、凄く疲れた。 「ぁ…やま、と、も…寝たい」 「…ああ、構わない、私、も」 それが最後のやりとり。満足げなヤマトの声を聞いて安心して俺は意識を手放した。 翌朝、挿入ったままのそれに悲鳴を上げるとも知らず。 ◆ヤマ主(R18) 「っ、ぅ…く」 先端の張り出た部分を呑み込めば驚くほど後はスムーズに挿入っていった。 腹の中がヤマトのもので満たされる。 ヤマトの腹に手を置いて、俺は大きく息を吐き出した。 ぺたりとヤマトの上に座り込む。どくどくと脈打つヤマトの熱塊が愛おしい。 繋がる部分を確認するように縁を指先でなぞると僅かな血がついてきた。 切れたようだ、痛みは確かにあるが、大したことはない。 ふと、息を呑む気配を感じた。 「っ、お前、は…っ」 ヤマトが上擦った声を上げて、手を伸ばし俺の膝を躊躇いがちに撫でた。 「ん…なんで、こんなことに、なったんだろうな」 「それを、お前が言うのか…」 ヤマトは不可解だという表情を崩さず眉根を寄せる。 それでも俺がくわえ込んでいるヤマト自身は萎える気配はなくて、 この行為に嫌悪を感じているわけじゃないんだと分かる。 「…俺は、知りたかったんだ、お前の俺に対する執着が、何なのか。  俺が、お前を想う気持ちが、何なのか…」 一度気になってしまえばもう駄目だった、四六時中、ヤマトのことばかり考えてしまって。 そうして、その感情が男女間に芽生えるそれと同じものである可能性に行き着いて、 なら、セックスも出来るはずだと、それが俺の出した結論だった。 ヤマトをベッドに押し倒して、ヤマトのものを舐めながら自分で後ろを解して、強引に繋がった。 ヤマトは抵抗らしい抵抗を一切しなかった。 それはつまり、ヤマトも俺と同じ答えに辿り着いたということなんだろう。 俺は笑った。ああ、やっと言える。 「ヤマト、俺は、お前が好きだよ」 ヤマトは驚いたように俺を見詰めた後、目を細めた。 口角が上がって、そうかと呟く。俺が好きなヤマトの笑顔。 「私も、お前を好いている…そう、こうしてお前を、喰らいたかったのだな、私は」 ヤマトが上体を完全に起こして俺の腰を引き寄せる。 なかのヤマトの角度が変わって妙な痺れに無様に喘ぐ俺の唇を、 ヤマトのそれが塞いだ。そういえばキス一つまだしていなかった。 がちりと歯が当たるのも構わず、勢いのままヤマトと口内を貪り合う。 「は、ヤマ、ト…、もっと」 「ああ、言われずとも…」 後はもう言葉も無く、心のままに求め合った。 翌朝、互いの身体の惨状に、獣と変わらないなと笑い合うことを、俺たちはまだ知らない。 ◆復元ED後ヤマ主 ベッドに寝そべりながら隣の、同じ様に寝そべっているヤマトに話しかける。 「まだ、実力主義の世界、夢見てるのか?」 ヤマトは数度瞬いて、ゆっくりと口角を上げた。 冷たい指先が俺の頬に触れて輪郭をなぞっていく。 好きにさせているとヤマトは静かに口を開いた。 「我が悲願はお前に阻まれた。だが…そうだな、  ポラリスの力による世界の改変は今生では不可能かもしれんが、  それで諦められる程、私の想いは軽いものでは無い」 ヤマトの言葉はつまり、俺の問いかけを肯定するもので。 そっか、と呟いて俺は身体をヤマトの間近に寄せた。 世界を戻した、その選択に後悔は無い。 でも、ヤマトを犠牲とするこの世界の在り方を認めたわけじゃない。 胸元に顔を擦り寄せて瞼を閉じる。ヤマトの心臓の音が聞こえる。 ヤマトの手のひらが俺の後頭部を撫でてきた。 くしゃりと髪をかき混ぜられて、その手が俺を更にヤマトの胸へと抱き寄せる。 くすぐったくて俺は小さく笑った。ヤマトの背中に腕を回して抱きつく。 「ヤマト。俺に出来ること、あったら言えよ。手伝うから」 偽りない本心を告げるとヤマトは可笑しそうに笑った。 「私の手を拒んだお前が?」 「あれはお前が悪い。そりゃ、ポラリスの力を借りれば手っ取り早いけど、  楽して叶えるものに価値なんてないだろ。  どんなに時間がかかっても、お前が自分の力でこの国を変える気なら、  俺は喜んで力を貸すよ。その為に勉強しろっていうならするし」 言いたいことを全部言って顔を上げるとヤマトが驚いたような顔をしていた。 ヤマトと名前を呼ぶと、目を細めて、柔らかい笑みを浮かべる。 「一生を費やすかもしれんぞ。ずっと私の傍にいるのか、お前は」 ヤマトの言葉に今度は俺が瞬きする。 その意味をちゃんと理解した上で、俺はヤマトの手に自分の手を重ねて応えた。 「傍にいるよ、ヤマト」 「…そうか」 「うん」 見つめ合う。まるで愛の告白だ。 いや、まるで、じゃない、きっと。 ヤマトの手を自分の口元に寄せて、甲に口付ける。 口付けたまま目線を上げて、俺を見詰めるヤマトに向けて口端を上げた。 「…私は、得難いものを、手に入れたのかもしれんな」 そう囁いたヤマトの顔は、初めて目にする穏やかなものだった。