実力主義ED後。ヤマ主とナオ主。 2主:ユキト 1主:ユキヤ(幸哉) 9. ヤマトの部屋へ4人で移動する。 室内に入るとヤマトはナオヤを執務机の置いてある方へと案内した。 まずヤマトが椅子に座り、机の上のパソコンを起動する。 データを呼び出しているのかキーボードを数度叩いた後、 椅子から立ち上がりディスプレイを指で示しながらナオヤに話しかけた。 「現在判明している『悪魔召喚アプリ』のデータだ。 人外の手で作られたプログラムの為、未だ全てを解明出来てはいない」 「人外…まさか神が手掛けたなどと言わんだろうな?」 「フン、そんな大層な相手では無い」 「ほぅ……なるほど、コレならば或いは…」 ヤマトに説明を受けてナオヤは椅子に座りデータを確認した後、 何度か言葉を交わしながら作業を進めていく。 ヤマトの携帯を受け取って、それをパソコンに繋いだ。 どうやら直接アプリのデータ解析を始めるようだ。 ナオヤはディスプレイを食い入るように見ながら凄まじい速さでキーボードを叩いている。 その鬼気迫るような様子に流石のヤマトも驚いているようだ。 黙って傍でナオヤの作業を見守っている。 ユキヤは俺の隣に来て、そっと耳打ちしてきた。 「ナオヤは人間だった頃、その筋じゃ有名なプログラマーで、 オレの世界の悪魔召喚プログラムを作ったのもナオヤなんだ」 「……それは、凄いな」 「オレはプログラムの事はサッパリだけど、親友がナオヤのこと師匠だって言ってて、 事あるごとにナオヤは凄いって褒めちぎってたな。 天才とは非常識で型破りな変人って言葉があるけど、ナオヤ見てると納得だよ」 「聞こえているぞ、幸哉」 「本当のことでしょ」 「言っておくが俺は天才などではない、単なる経験則にすぎん。 良いからお前は黙って大人しく待っていろ、気が散る」 「はぁい」 ユキヤの声はしっかり届いていたらしい。 パソコンから目を離さないままにナオヤが反応して釘を刺してくる。 ユキヤは肩を竦めて小さく舌を出しながらも素直に返事した。 仲が良いなと思いながら俺はユキヤに話しかける。 「……そういえば、ユキヤ達って普通に飲み食い出来るのか?」 「ちゃんと実体化されてるし、元々人間だったから大丈夫だと思うけど」 「それならお茶でも淹れようか、何かリクエストある?」 「じゃあ遠慮なく。和菓子とかある?ナオヤが好きなんだ」 「確か饅頭があったと思う…飲み物は緑茶?」 「うん。爺くさい好みだろ、ナオヤ」 「ヤマトも緑茶好きだよ」 ユキヤの言葉に思わず吹き出しながら付け加えると、 「誰が爺くさいだと?」 「それは私の事も爺くさいと言っているのか、ユキト」 ナオヤとヤマトがほぼ同時に抗議の声を上げて、 俺とユキヤは顔を見合わせて笑った後、逃げるようにキッチンへと駆け込んだ。 10. 「確かこのあたりに……あった」 戸棚の中を物色して目当ての箱を取り出す。 蓋を開けると個別包装されたお菓子が8個入っている。 菊の花のかたちをした有名な黄味餡の焼饅頭だ。 それから茶葉は時間のかからない深蒸し煎茶にする。 ポットのお湯を湯のみに移して温度を少し下げてから、 急須に茶葉を入れて適温になったお湯を注いで、浸出時間は30秒。 4つの湯のみに均等に注ぎ分ける。 「へぇ、本格的だな」 ユキヤが俺の隣で感心したような声を上げた。 「ヤマトの口が上品だから、自然とね。 普段はもっと適当だよ、まぁ今日はお客さんもいるし」 俺はそう言いながらお盆に湯のみをのせて持ち上げた。 ユキヤはお菓子の箱を手に持つ。 「ナオヤもオレも庶民舌かな。ナオヤは和菓子にはちょっとうるさいけど」 「俺は庶民舌だよ。でも意外とヤマトってジャンクフードとかいける口なんだよね、 今まで口にしたことが無かっただけでさ。あと粉ものに目が無い。 たこ焼きとの出会いが衝撃的だったみたいだ」 「楽しそうだな、ユキト」 「うん、楽しい」 2人で雑談しながらヤマトとナオヤの元へ戻ると、どうやら2人も何か話していたようだ。 ナオヤはパソコンのディスプレイから目を離さずキーボードを叩きながら口を開いている。 「要するに神に恭順した世界という事か…下らんな」 「そちらの世界の神になど興味は無いが、この世界の神とはただの装置にすぎん。 『全能の存在』ではあるが、アレに意思などというモノは存在しない、機械と変わらん。 私はそれを人間の為、世界の為に有効利用しただけだ。何か問題があるか?」 「フ…ハハハハッ!神を装置呼ばわりとは大した男だ。だが、ポラリスとやらが同じ結論に達し、 再びこの世界を滅ぼさんとしたならば、その時はどうする?」 「その時は排除するだけだ」 「神を、殺すと?」 「そうだ。ポラリスの程度は知れた、壊れた機械は速やかに処分するまでの事」 「ほぅ…その口振り、既に神殺しの算段がついているようだな」 「当然だ」 ヤマトはナオヤとの問答を楽しんでいるように見えた。 ナオヤもまた、ヤマトが返す答えを満足気に受け止めている。 2人分の含み笑いが室内に響く。俺はユキヤと視線を合わせた。 どうやら考えている事は同じらしい。 「気が合ったみたいだ、こんなに楽しそうなナオヤ久しぶりに見たよ」 「どう見ても黒幕だな、2人とも」 「ナオヤは普通に黒幕だったけど、ヤマトも?」 「………お互い苦労するな」 「でもそんな相手だって解ってて付き合ってるオレ達こそ、たちが悪いのかもね」 「確かに」 俺とユキヤもそうだが、ヤマトとナオヤも似通う部分があるようだ。 この不思議な出会いに運命的なものを感じながら、 俺はソファーの側にあるテーブルにお盆を置いた。 11. ユキヤがナオヤの所へお茶とお菓子を持っていく。 「はい、ナオヤ」 「ああ」 ナオヤは頷くと、早速湯のみに口をつけた。 「ヤマトはこっちでお茶飲む?」 ナオヤの傍に立つヤマトに聞くと、ヤマトは少し考える素振りを見せた後、 そうだなと呟いてソファーの方へと足を向けた。 「監視はもう良いのか?」 ナオヤがからかう様な声色で問い掛ける。 ヤマトは軽く笑って言った。 「信用したわけでは無いが、仮にお前が何かを仕掛けるとして、 それを私に悟らせるようなミスを犯すとも思えん、監視しても無駄だと解った」 「フッ…観察眼はあるようだ。心配するな、俺は幸哉の望みを叶えてやるだけだ。 そもそもこの世界に介入した所で俺へのメリットは無いからな」 ナオヤはヤマトの言葉に納得したのか、それだけ言うと饅頭を三口ほどで食べ終えて、 茶を啜りながら作業に没頭し始めた。 ユキヤはそれを見届けてからソファーに戻ってくる。 「ああなると暫くは話しかけても生返事しかしないよ」 感心半分呆れ半分といった様子で言って、ユキヤはソファーに腰掛けお菓子に手を伸ばした。 先ほどと同じように俺はユキヤの向かいに座り、ヤマトは俺の隣に腰を下ろす。 ヤマトもお茶を一口飲んだ後、饅頭を手にとって口に運ぶ。 俺もお茶を飲みつつ饅頭にかぶりついた。 「さて…では私はそろそろ業務に戻る。ユキト、何かあれば司令室へ連絡を」 「俺は良いの?」 「流石にソレを野放しには出来んだろう?」 「ソレ扱いは酷いな」 「名前で呼べばいいのに…分かった、こっちは任せろ」 「ああ、任せる」 お茶を飲み終えるとヤマトは俺に声を掛けて席を立った。 相変わらず俺以外の人の名前を呼ばない事に苦笑しつつ、部屋を出て行くヤマトを見送った。 「少なくとも害が無い事は解ってもらえたかな?」 ぽつりと呟いたユキヤに肯定するように俺は笑いかけた。 室内にキーボードを叩く音とマウスを操作する音だけが響いている。 饅頭も食べ終えて静かにお茶を飲んでいた俺に、ふとユキヤが話しかけてきた。 「ユキト、聞いてもいい?」 「何?」 「ヤマトと寝てる?」 危うく口に含んだお茶を噴き出す所だった。 「当たった?」 ユキヤは悪戯っぽく笑っている。 動揺した時点でバレたも同然、俺は口元を押さえて何度か咳き込んだ。 「………普通にしてたつもりなんだけど」 誤魔化すのは諦めて、何とかそれだけ言って熱く火照った頬を隠すようにユキヤから顔を背けた。 物凄く恥ずかしい。そんなに態度があからさまだったのだろうか。 少なくともユキヤの前で俺はヤマトに対して仲の良い友人のように接していたつもりだったのに。 俺のその疑問に、ユキヤは愉しげに答えた。 「ユキトよりもヤマトの態度がね。オレがユキトと話すたびに凄い形相で睨んでくるから」 「…………ああ……そうだな……ヤマトか」 なるほど、ヤマトを知らない相手から見れば確かに異常だろう。 俺の周りにいる皆は、俺達が今の関係になる前から、 ヤマトが俺を特別視する姿を見ているから、そこまで不思議に思わないだけで。 「あとは雰囲気かな。あ、オレ、男同士だからどうとか、そういう事気にしないから。 元々偏見とか無かったけど、魔王になってから更に倫理観が薄くなったし」 そう語るユキヤを見て、俺は忘れかけていたが目の前にいる彼は、 人間では無かったんだと今更のように思い知った。 12. 「その辺にしておけ、幸哉」 思わぬ人物からの助け舟に俺はその声の主へと顔を向けた。 「根掘り葉掘り聞くつもりは無いよ」 ユキヤはぼそりと小さな声でその声の主、ナオヤにそう告げる。 「やれやれ…。ユキトだったか、お前の携帯を貸せ」 ナオヤは本題はこちらだと言うように俺に視線を向けてそう言ってきた。 俺はソファーから立ち上がりナオヤの傍まで歩み寄って自分の携帯を手渡す。 「もしかして、出来たのか?」 俺の問いにナオヤはまだだと簡潔に言って、 パソコンに繋いでいたヤマトの携帯と俺の携帯を入れ替える。 そしてキーボードを何度か叩き、最後にEnterキーを押した。 画面にはloadingの文字。 「俺達の世界での召喚媒体・COMPとこちらの携帯を繋げる為のプログラムを組んだ。 COMPと携帯にはメール機能がある、それを使えるようにしておいてやる」 「どうせなら音声通話も出来るようにしてよ」 「贅沢を言うな。不可能では無いだろうが時間がかかる」 いつの間にかユキヤも俺達の側まで来て、パソコン画面を覗き込みながら口を挟んできた。 ナオヤは慣れているようにユキヤを軽くあしらっている。 暫くするとloadingは完了し、ナオヤは頷いてユキヤと向き合った。 「さて、後はCOMPだ。幸哉、先に向こうに戻って俺の指示をアツロウに伝えろ」 「指示って、オレ、プログラムの事はサッパリなんだけど」 「安心しろ、暗記して帰れと言うつもりはない。 お前が向こうに戻った後、再びこちらで召喚を行う。 幸哉、お前の力なら召喚を拒否し、世界を繋げこちらにいる俺との遣り取りも可能だろう。 お前は俺の指示をそのまま復唱するだけでいい、それでアツロウには俺の意図が伝わる」 「………分かった」 話は纏まったらしい、ナオヤは携帯を俺に返してきた。 「それじゃ、ユキヤを帰還させればいいのか?」 「ああ。そろそろ身体の方も心配だし、今日の所はこれで帰るよ」 俺の言葉にユキヤが少し名残惜しそうに答える。 「次に会うのを楽しみにしてる」 偽りない気持ちでそう言って笑った俺にユキヤも笑みを浮かべる。 携帯を操作するとユキヤの足下に魔法陣が現れて、実体は少しずつ解けていく。 「ヤマトにもよろしく。それじゃ、またな」 最後に別れの言葉を残して、ユキヤの姿は完全に消えた。 部屋にいるのは俺とナオヤの2人だけ。 「…もう一度ユキヤを召喚するって話だったけど、少し待った方がいいのか?」 「そうだな。ここと向こうの世界の時間の流れに殆ど差が無い事は、 幸哉と俺の召喚で立証されている。10分もあれば向こうの準備も整うだろう」 「分かった。…色々ありがとう、ナオヤさん」 段取りを確認した後、俺はナオヤにお礼の言葉を告げて軽く頭を下げた。 ユキヤの為だということは解っていたが、俺が首を縦に振らなければユキヤは諦めて、 ナオヤもこんな苦労をせずに済んだだろうと思ったからだ。 ナオヤはそんな俺を見て、僅かに目を瞠った後、低く笑って言った。 「フフ…言っただろう、俺は幸哉の望みを叶えただけだとな。 だが確かに、お前の合意さえ無ければ早々に連れ帰ることも出来たな。 …まぁいい、幸哉にも息抜きが必要だろう。 それに…別世界とはいえ、久しぶりに興味深い人間に出会えた」 ナオヤは全てを見通すかのように、その深い赤色の目を向けてくる。 見えない圧力のようなものを感じて俺はごくりと口内に溜まった唾液を呑み込んだ。 【4】へ続く