シャワーを浴びたほうがいいだろうということになって、 先に済ませた響希は今、大和のベッドに腰掛けている。 まさかこんな展開になるとは思っていなかった響希は、 何度目になるのか分からない溜息を零した。 自分と大和の関係はどうなってしまうのかという不安はある。 それでもきっと、前には進めるだろうとも思う。 今の響希と大和は、自らの感情が何と呼ばれる物か答えが出せていない状態だ。 そんな状態でこれからしようとしていることが良いか悪いかは分からない。 分からないことだらけだが、そこまで考えて響希は笑った。 あの7日間だって、分からないことばかりで、考えて考えて最後には答えを出せた。 だからきっと、今の悩みにも答えは出る。考えることをやめなければ。 「どうした、ヒビキ」 声を掛けられて顔を上げると、いつの間にか大和が目前にいた。 なんでもないと響希が首を横に軽く振ると、それ以上問うことは無く大和は響希の隣に腰を下ろす。 大和の髪はしっとりと濡れている。シャツは下の方だけボタンが留められていて、 しっかりとした胸板が目に映った。響希も似たような姿だ。 大和と比べると自分の身体は貧相に思えてしまって、男として複雑な気分になる。 大和の手が響希の頬に伸ばされて、そろりと撫でてきた。 響希も同じように大和の頬に手を伸ばす。大和のように明確な欲求は無かったはずだが、 大和に触れられる事で自分も、こうして触れたかったのだという事に響希は気付いた。 左頬の赤い傷跡を親指の腹で優しく撫でる。 誘われるように響希はその傷跡に顔を寄せて口付けた。目を閉じて舐めると凹凸を感じる。 大和の手が響希の後頭部へと回されて固定される。 響希が薄く目を開けてほんの少し顔を傾けると、唇に大和の吐息がかかった。 視線が絡み合う。お互いに確認はもう必要なかった。 ゆっくりと重なった唇は暫くその表面だけを撫でて、次第に深くなっていく。 口を開いた響希の中へ、濡れた音を立てながら大和の舌が潜り込む。 先程ケーキを食べた為か、初めての口付けは酷く甘かった。 響希の口内を隅々まで堪能するように大和が舌先で愛撫してくる。 「ん…、んぅ、ん、ぁ」 意味を成さない音が響希の口から零れ落ちる。 そこに唾液を掻き混ぜるような音も加わって、響希の身体はぞくりと震えた。 気付けば大和に唇を塞がれたまま、響希はベッドに押し倒されていた。 響希の身体を拘束するように大和が上から押さえ込んでくる。 まるで逃がさないとでもいうような大和の行動に対して、響希は大和の背中に腕を回した。 縋りつくように大和の背に爪を立てる。まるで溺れて助けを求める人間みたいだと思う。 大和の唇は響希の唇を解放し、垂れた唾液を舐め取りながら顎、首筋、鎖骨へと下りていく。 邪魔だと言わんばかりに響希が着ていたシャツは肌蹴られて、大和の唇は躊躇い無く胸へと落ちる。 手のひらで直に腰や胸を撫でながら、唇が胸の先端を掠めた。 「っ、ぁ」 その僅かな刺激に響希は喘ぐ。くすぐったいのとは違う感覚。 大和は響希の小さな胸の尖りを唇で挟んで舌で押し潰してきた。 響希の身体が跳ねる。感じたのは確かな快楽だった。 「や、まと」 思った以上に頼りない声が出てしまって響希は戸惑う。 そんな響希を胸元から顔を上げて大和が見つめてくる。 「後悔、しているか?ヒビキ」 そう問われて響希は顔を横に振った。大和は自嘲する様に小さく笑う。 「お前が泣き叫んだところで、もう止まれそうにない。もっと、お前に触れたい……ヒビキ」 そう言って大和は今まで見た事の無いような貌で笑った。 響希は大和のことを見誤っていた。 同性である自分に対して、ここまで躊躇いなく触れてくるとは思っていなかった。 確かに大和は『性交』と口にした。響希を犯したいと言ったけれど、 実際に男である自分の身体を見れば気が変わるかもしれないと、そんな風に思っていたのだ。 「っあ、だめ、だ…っ、やまと……っ!!」 大和は今、響希自身を銜えている。 自分の張り詰めた熱が大和の口の中を出入りする様に目眩がする。 大和の口内に導かれる前に、手指で散々弄られた。 戸惑う響希を宥めながらも容赦なく大和は響希を追い詰めた。 何度も達しそうになるたびに根元を戒められて、響希の思考がぐずぐずに融けた瞬間に、 大和は響希の昂りに口付け、ゆっくりと含んだのだ。 熱い粘膜に包まれる感触にぞくりと響希の身体が震える。 粘着いた音を立てながら大和に舐られて、見ていられなくなって響希はきつく目を閉じた。 眦から生理的な涙が零れる。じゅっと強く吸われて耐えられないと思った。 「やま、とっ、は、はなし、て…っ、も、でる…っ」 響希は大和の頭に両手を置いて力無く髪を引っ張った。 大和は上目で響希を見た後、喉奥を鳴らして顔を引いた。 そして響希の先端を含んだまま、根元から先端へ向かって指先で擦り上げて、 先端の窪みをこじ開けるように舌先で舐ってきた。 「ひっ、――――ぁっ!!!」 強すぎる刺激に響希は高く声を上げて吐精した。 薄く口を開き、呆然と天井を見つめながら響希は忙しない呼吸を繰り返す。 ごくりと嚥下する音が響希の耳に届いた。 その意味を理解して、堪らなくなって腕を上げて目元を隠す。 そんな響希の片脚を持ち上げた大和は、内腿にきつく吸い付いた後、響希の身体をひっくり返した。 「え、なに」 響希に抵抗する隙を与えず、大和は俯せにした響希の腰を掴んで四つん這いにさせた後、 背中から覆い被さるように腰に腕を回して響希の身体を抱き締めた。 項に口付け耳を舐りながら大和の片方の手のひらが響希の腰から尻を撫でる。 下衣はいつの間にか全て取り除かれている。 大和の手で直に触れられて、響希は息を呑んだ。 大和の濡れた指先が奥まった部分に触れる。排泄する為の窄まりを撫で擦ってくる。 「あ、っっ」 ぐ、と指先に力が込められて、内部に埋まる感触に響希は声を詰まらせた。 大和は響希の耳朶を含んで、ヒビキと名を囁く。 聴覚を犯すような艶のあるその声に響希の身体は勝手に震えた。 ゆっくりと指を抜き差しされる。時折入口を広げるように、内部を解すように。 「っ、ぅ…っ、ん、…ふ、ぁ」 不快感に耐えるように響希は必死に呼吸を繰り返す。 息を吐き出した時に大和の指が強く動くので、怯えの為か息を吸う回数が増えてしまい苦しい。 大和は一方の手で響希を苛みながら、もう一方の手で宥めるように胸元を撫でてきた。 胸の色づいた先端を摘まれて、覚えたばかりの刺激に響希は小さく声を上げる。 徐々に後孔を弄る大和の指が増えていく。馴染んできたのか狭いそこは痛みを訴えることも無く、 ただ酷い圧迫感と、時折じわりと感じる奇妙な感覚に響希は耐えた。 正直、怖い。それでも響希は耐えることを選んだ。 もう止まれないと大和は言ったが、響希が本気で嫌がれば、多分大和は止まってくれる。 それが分かるから、響希は構わないと思った。 それに、この行為に恐怖を感じるが嫌悪は無い、自分の身体に触れているのが大和だから。 「やまと…、も、いい…から…っ」 言わなければこの状況がずっと続きそうで、それも怖くて響希は大和に先を促した。 自分でも直接触れないような場所を探られて、それが何を意味するのか解っている。 響希の脚にあたる大和の昂ぶりにも気付いている。 響希は振り向いて大和の顔を見上げた。大和は眉根を寄せている。 「…まだ、辛いだろう?」 くちゅ、と3本の大和の指が響希の内部で蠢く。響希は悲鳴を噛み殺して頭を振った。 「つらくても、いい…、いまの、方が、くるしい」 だから早く、そう響希が訴えると、大和は目を瞠った後、低く呟いた。 「っ、知らんぞ」 「ぅあっ」 ずるりと指が引き抜かれて喘ぐ響希を再び仰向けにした大和は、 響希の両脚を開き、肩に担ぎ上げて身体を倒した。 前を寛げて昂った自身の熱を取り出した大和は、 先ほどまで指で弄っていた響希の後孔にその先端を擦り付ける。 「あ…っ、あ、―――っあぁ…!!」 熱くて、指とは比べ物にならない質量の大和の猛りが響希の内部へと埋められていく。 拒もうと収縮するそこを抉じ開けるように、大和の熱は容赦なく響希を貫いた。 「―――はっ、凄い、な…っ」 根元まで収めたのか大和の動きが止まる。 熱い息を吐き出して陶酔しているような大和の声が響希の耳に届いた。 響希は身動ぎ1つ出来ず、ただ力なくベッドのシーツを握りしめた。 痛みや圧迫感以上に、他人の熱が自分の内部にあるのが酷く怖い。 無意識に内部の熱を締め付けてしまって、響希と大和の口から苦しげな声が零れた。 「…辛いか?」 大和の手のひらが響希の頬と唇を撫でる。 辛かったが、響希は目を閉じてただ小さく喉を鳴らした。 大和がゆっくりと腰を引いて、確認するように響希との結合部を見つめる。 縁をなぞられて、ひっと響希の口から悲鳴が漏れた。 「裂けてはいないようだ」 そう言った後、大和は響希の脚を担ぎなおして再び押し込んでくる。 一度開かれた為かスムーズに大和の昂りが響希の内に収まった。 「……動くぞ、ヒビキ」 同じ男だ、挿入れて終わりではないことは響希も知っている。 響希は大和の首に腕を回して静かに頷いてみせた。 大和がゆっくりと動き出す。身体を揺さぶりながら、響希の顔や胸元に口付けを落とす。 「あっ、ん、あぅっ、あ、は…っ、ぁ――っ」 内部を擦られる感覚に身体を震わせながら響希は喘いだ。 開きっぱなしの口の端から零れる唾液や流れっぱなしの涙のせいで響希の顔はぐちゃぐちゃで、 そんな響希の顔を拭いながら唇を這わす大和と時折視線が絡む。響希の視界は滲んでいた。 自分を抱く相手が大和だということを確認するように、響希は相手の名前を呼んだ。 大和も答えるように響希の名を呼んで深く口付ける。 呼吸を奪うように大和は響希の唇を貪りながら、僅かに反応し始めていた響希自身に指を絡める。 前と後ろを同時に責められて、声も奪われて、響希は身悶えながら大和の項に爪を立てた。 「ふっ、ぅ、んー、んぅっ、んっ……っ、あっ、も、だめ……―――っっ!!」 ぐり、と先端を親指の腹で抉られて、堪らず響希は顔を振って大和の唇から逃れ身体を震わせた。 その瞬間、内にある大和自身を強く締め付けてしまう。 意識が白く染まる。気付いた時には吐き出した響希のもので自分の腹と大和のシャツが汚れていた。 「―――っ、く、ぁ…っ」 響希の耳元で大和のくぐもった声が聞こえた。 強く突き上げられた後、じわりと奥深くで熱が広がるのを感じる。 ぼんやりと見上げた響希の目に、身体を、腰を震わせている大和の姿が映った。 暫くの間、お互いの荒い息遣いだけが部屋を満たす。 呼吸が落ち着くと、大和は静かに柔らかくなった自身を響希の内から抜いた。 響希の後孔は薄っすらと腫れて、こぷ、と小さな音を立てて先程大和が注いだ白濁を少しだけ零す。 それを粗相してしまったように感じて、響希は顔を赤らめて唇を噛み締めた。 そんな響希の様子を大和は満足気に見つめる。 色々居た堪れなくなってきた響希は、横に押し遣られていた掛け布団を引き寄せて頭から被った。 被った後に2人分の体液で汚れた自分の身体に改めて気付いたが、今更遅いと開き直る。 「…ヒビキ」 名前を呼ばれて、布団の上から抱き締められる感覚に心臓が跳ねた。 「顔を見せろ。それとも、力尽くで剥がしてやろうか?」 冗談には聞こえない大和の声に、渋々響希は顔だけ布団から出した。 思っていたよりも間近に大和の顔があって、驚く響希の唇に柔い熱が重なる。 軽く触れるだけで大和の唇は直ぐに離れていった。 至近距離で大和が微笑むのを目にして、響希は顔が熱くなる。 「……ヤマト。俺に触れて、解った?」 響希はこの行為の発端となった大和との会話を思い出して問い掛けた。 「お前はどうだ、ヒビキ」 大和も同じように響希に問い掛けてくる。 「…先に聞いたのは俺だよ。だいたいヤマトが言い出した事だろ、先に答えるのが筋じゃないか」 眉を寄せて不満気に響希が言うと、大和は可笑しそうに喉奥で笑って口を開いた。 「そうだったな、では答えよう。どうやら私はお前が男であっても構わないようだ」 「……どういう意味?」 「欲情だけならば、こんな風に満ち足りた気分にはならないだろう。 私はお前に肉欲も含めた愛情を抱いている、そういうことだ」 「――――っ」 大和にはっきりと伝えられて、響希は言葉を失った。 大和が頬を撫でてくる。それでお前は?そう促されて響希は自らの心と向き合った。 大和からの告白を嬉しく思った。嫌悪も無ければ困惑も無い。 逆に情欲だけだったと言われていたら、少なからずショックを受けていたと思う。 自分が抱く想いも大和と同じということだろうか。 そう思いつつも響希には大和のように確かな答えを出すことはまだ出来なかった。 それは多分、良識に囚われているせいなんだろう。 既に大和と引き返せないような行為をしておいて今更だとも思うが、 響希の中で同性であるという事実が引っ掛かっていた。 これから先どれだけ続くかは分からないが、大和を不毛な関係に縛り付けていいはずが無い。 自分はともかく大和は子供が、後継者が必要だろう。 同じ男である響希と付き合うという事は、そうした未来を潰すという事だ。 そこまで考えて響希は自分の気持ちに気付いてしまった。 だからこそ自分は大和に抱く想いを友情だと思い込もうとしていたことに。 響希は大和の望みを叶えると言いながら、自分の望みを叶えただけだ。 「……ばかだな、俺」 ぽつりと呟いた響希を大和は静かに見守っている。 溢れてしまった気持ちを上手く隠せる方法が見つからず、 響希は表情を隠すように大和の胸に顔を埋めた。 「…ヒビキ。くだらん事を考えているなら全て吐き出してしまえ」 大和が強い口調で言いながら響希の背に腕を回して抱き締める。 「聡明すぎるのも考えものだな。そのせいで自らの首を絞めることが多いだろう、お前は」 呆れたような声を出しながらも響希の髪を撫でるその手が温かくて、じわりと響希の視界が滲んだ。 「……俺も、ヤマトと同じ気持ちだ…好きだよ、ヤマトのことが」 結局、響希は素直に想いを告げた。その上で、でも、と続ける。 「駄目だろ、ヤマト。俺は…男なんだから、ヤマトの子供、産めないよ」 響希の言葉を聞いた大和は、やはりその事かと溜息を吐いた。 「確かに一族の者は口煩いが、私自身は別段、必要性を感じていない。 これまでに幾度か茶番に付き合ってやったが、子は成せていない。 例え子が成せたとしても、必ずしも私が持つ素質が受け継がれるわけでもない。 最終的に私の子種を渡せば一族の人間を黙らせることは出来る、その程度の問題だ。 お前が気を回す必要は無い、ヒビキ」 大和の話はまるで異国の話のようだった。響希は何かを言おうとして、思い留まり口を閉じた。 響希が違うと感じても、大和にとっては当然の考え方なんだろう。 生きてきた世界が響希とは違うのだから、それを頭ごなしに否定するのは間違っている。 大和の事情を何も知らず反発ばかりしていたあの7日間の記憶が、響希を止めた。 そんな響希を見透かすように大和が苦笑するのが分かった。 「…私の価値観を無理に理解せずとも良い。 真っ向から私の言葉を否定した、あの気概はどこへ行った、ヒビキ」 「……あの時は、感情的になりすぎてたし、自分の気持ちをヤマトに押し付けてただけだった、 そこは反省してるから、もう言わないでよ……」 大和の言葉は笑い混じりではあったが本心なのだろう、響希は思わず拗ねたような声で言い返していた。 大和の指先が響希の顎下を撫でる。顔を上げると大和が響希を穏やかに見つめていた。 「お前が女であったなら、すぐにでも娶り、孕ませてやるのだがな」 「……俺だって、君が女の子だったら、こんなに悩まずにすんだよ」 大和のあんまりな言い草に響希も負けじと言い返した。 目を見合わせて、同時に小さく笑う。 「私の傍にいてくれるのだろう?今はそれで良い、あまり深刻に考えるな、ヒビキ」 大和はそう言って響希の唇を優しく吸った。 「…分かったよ、ヤマト」 唇を重ね合わせたまま囁いて、響希も大和の唇を吸った。 その後、汚れたシーツや布団のことで大和と揉めて、最終的に響希が片付けることになったり、 後処理の為、大和に連れ込まれた浴室で、響希の内部に注がれたものを掻き出す際、 勿論それだけで済まなくなったりで色々とありつつ、今日はここで休んでいけという大和の言葉で、 新しいシーツに取り替えたベッドの上、響希は大和と眠ることになった。 大和の腕は響希の背と腰に回されて、大和に寄り添う形で響希は横になっている。 心身ともに疲れていたので響希は大和に抱かれたまま目を閉じた。 大和の規則正しい呼吸の音が響希の耳を擽る。 友達として過ごすはずだったクリスマスが随分形を変えてしまったなと思う。 今はまだ、名付けてしまうことに戸惑っているが、 来年のクリスマスに、お互いに今と変わらない気持ちでいられたなら、 その時にはきっと、今よりも素直な気持ちで想いを伝えられるかもしれない。 そうなるといい、響希は臆病な自分に心の中でそっと笑いながら、 今はただ、傍にある大和の体温に身を委ねることにした。 END 途中までは友情の筈だったけど、ヤマトが友情では満足できなかったようで、 気付けばこんなことに……。アニメの2人は友情でも可愛いと思う。 ヒビキはなんか繊細っぽいので男同士のあれこれに悩みそうだなとか。 特に子供のことについて。