交わり満たされるものは





歩きなれたジプスの通路を歩く。俺の足音だけが静かに辺りに響いていた。 気付けば季節は春、寒さは和らぎ、地上では審判の日々を無事に生き延びていた 桜や春の草花が疲弊した人々を癒すようにあちこちで咲き乱れていた。 地下にあるジプスの施設内は空調で保たれているが、心なしか暖かくなったような気がする。 今はまだ地下にあるジプスの施設も近いうちに地上に姿を現すことになる。 ジプスは既に隠された組織ではない、実力至上主義によって再編成された政府の中心になっていた。 俺はジプスという組織内では局長であるヤマトの片腕として皆に認識されてはいるが、 非常時における行動力や悪魔を行使する為の霊力等は非凡であるものの、 元々は平凡な高校生、ヤマトの様に国の政治に携わったことなど無ければ考えたことも無い。 ヤマトはどうしても俺を同列の席に着かせたいらしく、断りきれずに何度かはヤマトに同行し、 政治家や要人との会議にも出席したが、やはり落ち着かない。 ずっと逃げてもいられないので慣れるしかないのだろうと解ってはいるが。 俺が躊躇う理由が知識不足だと判断したらしいヤマトは専門の人間を紹介してくれた。 単純に自分には向いていない世界だと思っていることは一先ず胸にしまって、 俺は現在政治の世界を勉強中だ。最終的にどうするかはともかく、ヤマトの隣に立つなら 同じ視点を持てるように努力するのは当然の事だとも思えたからだ。 そんな風にお互いに忙しく日々を過ごす中、もう1つの逃げていたことに向き合うために先日、 ヤマトに時間を作って欲しいと頼んでおいた。本来の目的は話していない。 ただゆっくり2人で過ごしたいとだけ言って、ヤマトは仕事を調整してくれた。 何事も無ければと1日予定を空けてくれたヤマトに、その前日の晩に部屋に行くことを俺は告げた。 そうして現在、俺はヤマトの部屋へ向かって歩いている。 色々と心も身体も準備はしてきたが、それでも緊張はする。 手に持った小さな紙袋が、かさりと音を立てた。 まさか、女の子の気持ちを体験することになるとは思いもしなかった。 人生って何が起こるか本当に分からないものだと小さく笑みを零しながら足を動かす。 見慣れたヤマトの私室に続くドアが視界に入り、俺は深呼吸してそのまま進んだ。 ドアの前に立ちノックを数回、ヤマト、と呼びかけるとすぐにドアは開いた。 「ヤマト、シャワーはもう浴びた?」 「ああ、済ませたが」 「ん、じゃあこっち」 部屋に入るなり俺はヤマトの手を掴んで奥へと歩いていく。 もう何度もこの部屋には来ているので間取りは把握している、迷わずベッドの傍まで来ると、 そこでヤマトの手を離して向かい合った。ヤマトは不思議そうな表情で俺を見つめる。 「ユキト、どうした?何かあったのか」 「うん…何かあった、といえばあったのかな」 問い掛けにそんな風に答えて、俺は少し伸び上がってヤマトの唇に自分の唇を押し付けた。 軽く吸って、すぐに離れる。ヤマトが何かを言う前に、持っていた紙袋を押し付けた。 「……これは?」 「――――準備、してきたから」 紙袋の中を見るようにヤマトを促す。ヤマトは紙袋を受け取り中を覗いた。 その目が僅かに開かれる。中に入っているのは別の容器に移したオリーブオイルと避妊具が数個。 「ユキト……いい、のか?」 ヤマトは俺と視線を合わせて、そう聞いてくる。 言葉にしなくても俺の意図が正しく伝わったらしいことにほっとしながら、俺は頷いた。 目を細めて、ヤマトが俺の頬を撫でてくる。 「…つい最近まで、思い悩んでいただろう。どういった心境の変化があったのだ?」 「そんなに顔に出てた?自分では普通にしてたつもりだったんだけど…」 頬を撫でるヤマトの手の甲に自分の手を重ねて俺は苦笑した。ジョーにも見抜かれるわけだ。 「……悩んでる時間が勿体無いことに、ようやく気付いたんだ」 俺は目を閉じてヤマトの手のひらを感じながら、ゆっくりと自分の気持ちを言葉にした。 「前の世界以上に今の世界は危険だろ?お互いの立場を考えれば、いつ死ぬかも分からない。  それに、ヤマトは長く生きられないんじゃないかって、そのことも思い出した」 何気なく口にした言葉にヤマトが反応する。 「君に話したことがあったか?確かに峰津院の長は代々短命だが」 「やっぱりそうなんだ…あんまり聞きたくなかったけど。ヤマトから聞いたことはないよ、  ただ、龍脈みたいな凄い力を扱うんだから、命ぐらい削ってそうだなって思ってた。  ……じゃあ、ますます時間が勿体無いな。俺はこの先ずっとヤマトの傍にいたいけど、  いつまで一緒にいられるのかなんて誰にも分からない、だからこそ後悔だけはしたくない。  ごめん、今まで待たせて。ヤマトが今も俺を抱きたいって思ってるなら、  俺もヤマトを、受け入れるよ」 ヤマトの口から短命だという事実を聞いて僅かに胸が軋んだが、 未来に怯えるよりも今を大事にしたい。 俺は頬に添えられたヤマトの手のひらに唇を押し付けた。 ユキト、と呼ばれて顔を上げると直ぐにヤマトの唇が落ちてきた。 額に、瞼に、鼻頭に、両頬に、そして唇に。優しく、柔らかく触れてくる。 「やっと、君と交われるのだな」 そう言ったヤマトの声には確かな欲が滲んでいて、俺は口内に溜まった唾液をごくりと呑んだ。 ヤマトは持っていた紙袋をベッドの枕元に落としてから俺の身体を器用に押し倒した。 仰向けに寝転がった俺に馬乗りになったヤマトは上半身を倒して俺の唇を奪う。 「んっ、ぅ」 ヤマトの熱い舌が唇を、歯列を割って口内へ入り込んでくる。 縮こまっていた俺の舌を絡めとって吸い上げる。軽く舌に歯を立てられて、その後舐められる。 混ざり合った唾液を飲み込んで、飲み込みきれずに口端から零れた唾液をヤマトが吸う。 それを何度も繰り返しながらヤマトは俺の身体を弄った。 上着の裾をたくし上げられて素肌を剥き出しにされる。 直接触れるヤマトの手のひらはひんやりと冷たい。肌が粟立ちふるりと震えた。 唇を解放されて忙しなく呼吸を繰り返しているうちにヤマトの唇が胸に落ちた。 つう、と下から上に濡れた感触が移動して、それは胸の頂で止まる。 唇で何度か擦られて、そこは直ぐに硬くなった。 唇で挟まれて、ちゅ、と吸われればぞくんと甘い痺れが走る。 「ふ、ぅ…っ、んん…っ」 耐えるように目を閉じて喉を鳴らす。ヤマトは口に含んでいない方も指で刺激を与えてきた。 そうしながらヤマトは俺の脚を開かせてその間に身体を割り込ませてくる。 空いた手で俺の脚を撫でる。衣服越しに内腿を撫でて、ゆっくりと俺の中心を擦った。 「ぅあ…っ」 柔い刺激だったが既に硬くなり始めていた俺のそこはひくりと震えた。 胸から顔を上げたヤマトがいつもよりも性急に俺のズボンに手をかけてきた。 ボタンを外してジッパーを下げて、下着と一緒に一気に引き下ろされる。 俺は腰を上げてズボンから脚を抜いた。これですっかり隠すものが無くなってしまった訳で、 露わになった俺の中心はゆるく勃ち上がっていて恥ずかしさに視線を逸らす。 見られるのは初めてではないが、何度目であろうと恥ずかしいものは恥ずかしい。 勃ち上がったそこを指先でなぞられる感触に身体を揺らす。 「一度、出しておくか?」 「…なら、ヤマトも一緒に」 されてばかりなのも悔しくてそう言った俺に、ヤマトは少し考える素振りを見せた後こう口にした。 「では一つ、試してみたい事があるのだが」 ヤマトの顔は真剣なものだったが、目には期待を滲ませていた。 確かにその体勢なら手も口も使える、が。 現在向かい合って座っているヤマトに俺は恐る恐る問い掛けた。 「……ヤマト、どこでこういう情報仕入れたの」 「専門的な書物も調べたが、インターネットに溢れている情報も侮れない。  私も男と交わったことは無いからな、君を悦ばせる為にどうすれば良いのか学んだ。  今回は君にこういったものを用意させてしまったが、次は私が用意しよう。  これは専用の潤滑油ではないのだな」 「…ああ、うん。流石に専用のやつを自分で買うのは恥ずかしかったし」 ヤマトはどんな方面でも勉強熱心であることを知った。 オリーブオイルが中で揺れる容器を手に語るヤマトに俺はぼそぼそと答えてから身体を横向きに倒した。 ヤマトは隣に寝そべる。互いの下肢が互いの顔の前にくるように。 俺はヤマトの中心を衣服越しにそっと撫でてから、ズボンの前を開いて下着の中から少し張り詰めていた ヤマトの熱を取り出した。躊躇わずに先端に唇を押し付ける。こうして触れるのは随分慣れた。 何度かキスを落とした後、ヤマトの昂りを口内に迎え入れた所で、俺の中心にも刺激が与えられた。 ぴちゃ、という濡れた音が自分の口元からしているのか、自分の下肢から聞こえてくるのか判らない。 ぬるりとした熱いものが俺のそこを下から上へと移動して、先端を擽られた後、熱い粘膜に包まれる。 「はぁっ…、ぁ、ん、む」 与えられる刺激に負けじと俺もヤマトの中心に音を立ててしゃぶりついた。 口を窄めて吸い付いて、手で根元を撫で擦る。下の軟らかな膨らみも優しく刺激する。 口内に広がっていく独特の苦みに少しだけ眉を寄せて、唾液で薄まったそれを飲み込む。 ヤマトも、まるで俺の行為をなぞる様に俺自身に刺激を与えてきて、腰のあたりが甘く痺れてくる。 「んぁ…、は、ぁ、…っ?」 息苦しくなって一度ヤマトの中心から顔を上げた瞬間、今までとは違う刺激に身体が小さく跳ねた。 多分、ヤマトの指が、初めて後ろの窄まりに触れた。表面を撫でた後、く、と力を入れられる。 そこは簡単にヤマトの指先を呑み込んだ。 「…軟らかいな、それに、少し濡れている」 「…っ、準備、してきたって、言っただろ…洗う、ついでに…ちょっとだけ。  でも足りないと、思うから…っ」 「そうか…しっかり、解さなければな」 「ぅあ」 俺の言葉に納得したのか、ヤマトは慎重に指先を奥へと埋め込んでいく。 そして押し込んだのと同じ速さで引き抜き、また押し込む。 一度指が完全に引き抜かれて、ほっと身体の力を抜いていたら、今度はぷちゅ、と濡れた音をたてて また潜り込んできた。圧迫感が増えている。内部でばらばらと動く感触に、あ、と声が零れた。 後ろを指で弄りながら前にも刺激が与えられて、思い出したように俺も目の前の昂りに口付けた。 手のひらで擦りながら舌で裏筋を擽る。くびれた部分を舌先で強く辿ってからゆっくりと呑み込んでいく。 「ん、んぅ…っ、う、ん」 ヤマトの愛撫も激しくなってきて、俺はヤマトのものを銜えながらくぐもった声を上げた。 ヤマトは俺の中心を口内に含んで扱きながら、両手を使って俺の後孔を弄る。 時折入口を広げるように指が蠢いて、そしてゆっくりと根元まで埋め込まれる。 その指が腹側にあるしこりに気付いて、そこを強く押してきた。 「っ、あぅ……っ」 ぞくん、とまるで電流が身体に流されたような衝撃に、 俺は銜えていたヤマトの熱を咄嗟に口から出して、大きく喘いだ。 こんな刺激は知らない。自分で触れた時にはこんな風にはならなかった。 「あっ、や、やまとっ、そこ、おかしく、なる…っ」 「…フ、なって、しまえ」 「―――っ!!」 俺の制止にヤマトは俺の中心から少しだけ顔を離して甘く笑ってそう呟いた後、 再び深く銜え込んで、指で内部のしこりを擦ってきた。 指を折り曲げて引っ掻くようにされながら先端をきつく吸い上げられた瞬間、視界が真っ白に染まった。 「ぁ――――――っっ」 がくがくと震えて、声にならない声を上げて、俺はヤマトの口内に吐き出した。 何度か腰が跳ねる。ごくりと嚥下する音が耳に届いた後、ヤマトは後孔から指を引き抜いて、 軟らかくなった俺の中心から顔を上げて身体を起こした。 口端から垂れる白いものを指で拭って舐めるヤマトの姿を俺はぼんやりと見上げた。 瞬きすると涙が零れ落ちる。乱れた息を整えるために呼吸を繰り返す。 ヤマトが俺の片足首を掴んで軽く持ち上げる。 そうすると、どろどろになった俺自身も後ろの窄まりもヤマトの前に晒された。 ヤマトは俺の足首から内腿までを唇で辿って、きつく吸い付いてそこに紅い跡を散らす。 確かめるように指先でひくつく窄まりを撫でられて、ん、と俺は喉を鳴らした。 足首を掴んでいた手を離して、ヤマトは枕元に手を伸ばした。 ちゃんとつけてくれるのかとヤマトの行動を目で追って、 その手が目的のものを取り出す前に俺の口は開いた。 「…ちゃんと、念入りに洗ったし、ヤマトが気にならないなら、いいよ、そのままでも」 ヤマトも調べたのならリスクは承知している筈だ。 それでも、初めてだし、男としての心理は解る。俺なら直に感じたい。 だからヤマトが望むならいい、そう思って俺はヤマトにそれを伝えた。 ヤマトは殆ど迷わず、伸ばした手を戻して俺の脚を持ち上げた。 そしてぴたりと俺の後孔に宛がわれたのは、硬く張り詰めたヤマトの熱。 「ユキト、挿入れるぞ」 掠れた声で囁いたヤマトは、俺の返答を待たず体重を掛けてきた。 「―――――っ、ひぅ……―――っぁ!!!」 少しずつ距離が縮まっていく。俺の狭いそこがヤマトの張り出た一番太い部分をなんとか呑み込んで、 その後は一気にずぶりと埋まった。ぱちゅ、と水が弾けるような音がして、ぴたりと肌と肌が触れ合う。 「あ――っ、は、ぁ、あ…」 正直、痛いし苦しい。圧迫感と、裂ける様な痛み。でもそれだけじゃない。 自分の中にヤマトの熱を感じて、男の身体でもこうして受け入れることができたのが嬉しい。 は、と熱い吐息を感じて、涙で滲んだ目にヤマトの顔を映す。 「や、まと、くるしい…?」 手を伸ばしてヤマトの頬を撫でると、苦しげだったヤマトの顔が綻ぶ。小さく頭を振って、 「君のなかは、狭くて、熱くて、絡み付いてきて、とても気持ちが、いい」 そう言って俺の顔に手を当てて、涙を拭うように目元を擽った。 良かったと呟くと、俺の中のヤマトの熱がじわりと大きくなった気がした。 ヤマトは少しだけ反応している俺の中心を手のひらで包んで、擦り上げるのと同時に腰を揺らしてきた。 「あっ、あぁ…っ、ん、ぁ、あ」 直接中心に与えられる刺激と、内部を擦られる刺激に、俺の口からは壊れたように声が零れる。 身体を揺らされながら必死に伸ばした手をヤマトの首に回して縋りつけば接合が更に深くなる。 「ぁあっっ、おくっ、ふか、ぃ……っ」 くるしい、と啼けばヤマトがあやす様に唇を吸ってきた。 その仕草は優しいのに、俺を突き上げる動きに容赦は無い。 前立腺を巻き込むように奥へと捻じ込まれて、ゆっくり引き抜かれて、勢いよくまた押し込まれる。 何度も繰り返されるうちにヤマトの大きさと形に馴染んだそこが、 ヤマトのものに絡みつくように収縮するのが解って堪らなくなった。 「あ、ひぁ、やま、とっ、も、むり…っ」 必死に訴える俺にヤマトが応えるように、俺の先端を強く親指の腹で抉るようにしながら、 ヤマト自身の先端で内部のしこりを激しく突いた。 「ぅあぁ――――――っっ!!!!」 声は途中で掠れて消えて、それでも長く啼きながら俺は吐き出した。 ぎゅうと内にあるヤマトのものを締め上げる。 「っく、ぅ……っっ」 ヤマトは締まる俺のそこを何度か突き上げた後、腰を震わせて低く呻いた。 じわりと奥に熱が広がるのを感じて、ぶるりと俺は身体を震わせる。 ユキト、と名を呼びながらヤマトが俺の唇を食んでくる。 条件反射のように俺はそれに応えながら力の入らない腕を背中に回して軽く爪を立てた。 「大丈夫か?」 至近距離でヤマトに問い掛けられて俺は何度か瞬いた。 どうやら少し意識を飛ばしていたらしい。はぁっと熱い溜息を吐いた後、何も考えずに呟いた。 「…悦すぎて、死ぬかと思った」 「――っ」 ヤマトが息を呑んだのが分かって俺はまだぼんやりしたままヤマトを見つめる。 ふと、身体の違和感に気付いた。すこし身動ぎすると原因が解った。 まだ俺の中にヤマトのものが挿入ったままだった。しかも硬くなってきていた。 「………………やま、と?」 嫌な予感がして名前を呼んだ俺に、ヤマトは上機嫌な笑顔を見せた。怖い。 「煽った君が、悪い」 そう言うとヤマトは腰を引いて俺の中から出て行った。 訳が分からないままでいる俺をいいことにヤマトは俺の身体を俯せにひっくり返して腰を掴む。 身体に力が入らないせいで上体をベッドに沈めたまま腰だけを上げた体勢になって俺は慌てた。 ぬるん、と俺の尻と股間に濡れた熱いものが擦り付けられる。 顔を後ろに向けてヤマトを見上げると、ヤマトは上体を倒して俺の耳元に唇を近づけて囁いた。 「私を受け入れて、くれるのだろう?」 ずるい。口にしたばかりのそれを言われると、俺は何も反論できない。 ぱくぱくと口を開閉した後、俺はきゅ、と唇を噛み締めて、小さく頷いてシーツに顔を埋めた。 ちゅうと項を吸われて、ふっと身体の力が抜けた瞬間、また熱いものが俺の中に挿入ってきた。 ぬかるんだそこは、もう痛みを殆ど感じない。じくじくと熱く疼いているだけだ。 は、と息を吐き出してシーツを握りしめる。 ゆっくり前後に動かされ始めると俺の意識は快楽だけで満たされた。 ぐちゅ、くち、と濡れた音がひっきりなしに聞こえてくる。 甘ったるい喘ぎ声が部屋に響く。荒い息遣いが耳に届く。 全ての要素が快楽に変換されて、恥ずかしくて堪らない。 「やまと……っ」 悲鳴のように、縋るように、名前を呼ぶ。すぐに自分の名前を呼び返されて満たされる。 シーツを握りしめた手の上にいつの間にかヤマトの手が重なっていて、ぎゅうと握りしめられる。 項に痛みが走って噛み付かれていることを知る。後ろから激しく突き上げられる。 まるで獣の交尾のようだ。そういえば、ヤマトは本当は苛烈な人間だったなと思い出す。 今までの、俺を気遣う優しさも嘘ではないだろうが、こっちがヤマトの本質だろう。 お互いに遠回りをしていたように感じながら、 俺は目を閉じてヤマトが満足するまで付き合う覚悟を決めた。 「ん……」 温かいものに包まれている。重い瞼を開けると誰かの腕の中。 誰か、なんて考えるまでもない。 「ヤマト」 顔を上向けて呼びかけると目尻にキスされた。 「掻き出せたとは思うが、調子が悪ければ言え」 そう言ってヤマトは俺の腰を撫でる。 どうやら清めてくれたらしい、身体はさっぱりとしていた。 掻き出すという言葉に何をされたのか理解して、意識が無くて良かったと俺は心底そう思った。 「満足した?」 「今日の所は」 「手加減してくれないと、そのうち使い物にならなくなるよ」 「ああ、それは困るな」 お互い笑い混じりに言い合う。腰はだるいし後孔は熱を持ったように疼いているが、 恐らく裂けてはいないだろう。初めての行為で酷使しすぎだとは思ったが黙っておく。 そもそも俺がヤマトを待たせたことが原因でもあるだろうから。 「……ヤマト、長生きしろよ」 ふと、行為の前に話したことを思い出して、俺は呟いた。 ヤマトは答えない。俺は続ける。 「今まで無茶してきたことは今更どうにもならないから仕方ないけど。  お前が国に命を捧げられる人間だって解ってるけど、俺は国よりヤマトの方が大事だから。  ヤマトが自分を蔑ろにするんなら俺が護るしかないけど、俺の事を想ってくれるなら、  少しは自重してくれたら俺が嬉しい。……あんまり期待は、しないでおくけど。  俺に後を頼むなんて言われても御免だよ。今の世界はヤマトが望んだ世界だ。  ヤマトがいなくなるなら俺はこの世界に未練は無い。  進んで壊す気は無いけどね。お前がいなくなったら、どこかに隠居しようかな。  だから、ヤマトは望んだこの世界で、充実した人生をできるだけ長く送って。  そんなヤマトの隣で生きるのが、俺の幸せだからさ。」 「―――そうか。君の言葉は心に留めておく、だが期待はするな。  自分の生き方は変えられぬし、変えるつもりも無い。  ただ、そうだな…私も君が、君自身を蔑ろにすることには憤りを感じる。  それと同じ事だというならば、君が心を痛めることが無いよう、できるだけ気をつけよう。  それで構わないか、ユキト」 それは多分、偽りのないヤマトの想いだと俺には伝わった。 だから、ヤマトの不器用な返答に俺はキスすることで応えた。 「ちゃんと看取ってやるから、俺のいないところで死ぬなよヤマト」 「それは光栄だ。そういう君も私より先に死ぬ事は許さんぞ」 言いたい事は全て言った。きっとヤマトも同じだろう。 俺はヤマトの背に腕を回して抱きついた。ヤマトは俺の腰に腕を回して抱き締めてくる。 この温もりはもう手放せないなと思いながら、俺は静かに目を閉じた。 晩秋に初めて出逢って、それから冬の季節を共に過ごして、春になった。 これから先、俺達の関係が劇的に変化することは無いだろうけど、 2人で送る日常はきっと平凡なものではなくて、寧ろ茨の道なのかもしれない。 それでも俺はヤマトという人間に出逢えて良かった。 人生を懸ける相手がヤマトで良かった。 ヤマトが国にその身を捧げるなら、俺はヤマトにこの身を捧げる。 「ヤマト、好きだよ」 いつかヤマトと争う日が来たとしても、この気持ちだけはきっと変わらない。 だから俺は何度でもこの言葉を贈ろう。 「………ユキト」 俺を抱くヤマトの腕の力が強くなる。 それだけで、じわりとヤマトの気持ちが心に沁みこんで来る。 拙いな、と思って俺は眠る為に身体の力を抜いた。 あれだけ抱き合ったのに、ヤマトの声に身体がまた反応しそうになったのだ。 そんな俺に気付いたかどうかは判らないが、ヤマトは優しく俺の髪を撫でた。 指先が気持ちよくて、身体も疲れていたし、ゆっくりと俺の意識は遠ざかっていく。 「ユキト」 俺の名を呼ぶヤマトの甘い低音を、もう一度俺の耳が拾った。 実力主義ED後、メインの話は一先ず終了。 行き当たりばったりで書いてたので通して読むと、ん?というところが多々あるかもしれない。 思いついたらちょこちょこまた増えるかも。 ヤマト視点で一線越える前の話も書いてみたいなーと思いつつ。