※残酷描写注意 俺はよく甘いとか優しいとか言われる。 それはヤマトと比較するからだろう、確かにヤマトと比べれば俺は甘いのかもしれない。 だが、俺が甘かったり優しかったりするのは俺が好きな人達、認めた人達、 そして言ってしまえば無害な人達に対してだけだ。 有害と認識した相手に対して、とりわけヤマトに仇なす者達に対しては 甘さや優しさなど見せはしない、徹底的に叩き潰す。 「……な、ぜ、殺さない…っ」 携帯を操作して悪魔を帰還させていると、目の前に蹲った男が疑問の声を上げた。 この男は、数多く存在する反抗勢力の中でも小さな組織の頭だった。 俺がたった今潰し終えたので、そんな肩書きも既に意味の無いものになっているが。 意識があるのはこの男だけで、周りにはこの男の部下達が無造作に転がっている。 殺してはいない、死なない程度に痛めつけはしたが。 これから先、普通の生活が送れるかどうかは俺の知ったことではない。 「答えろっ、この、峰津院の狗め…っ!!」 目の前の男が喚く。何度か立ち上がろうとしては失敗してもがいている。 片足の腱を切ったので暫くはまともに歩くことも出来ないだろう。 利き腕も使えないよう潰させてもらった、それでも命に別状はない。 周りに転がっている人間達も同様だ。 悪魔召喚アプリがインストールされた携帯も全て破壊したので、スキルでの回復も不可能だろう。 ここにいる連中は実力主義社会の中、不自由な身体で苦しい生活を強いられることになる。 自身の力を過信してヤマトに仇をなした彼らの自業自得だ。 俺は深い溜息を吐いて目の前の男を見据えた。 無視しても良かったが折角の機会だ、と俺は口を開く。 「何故俺が、お前なんかの命を背負わなきゃいけない?」 「なん、だと…っ」 「俺、敵対した相手を殺さないから甘いってよく言われるけど違うよ。  むしろ逆だ、赦さないから殺さない。  優しいヤマトなら、お前みたいな相手でも殺しただろうけどね」 「あの男が、優しい、だと」 「そうだよ、ヤマトは優しい人間だ。どんなに相手がクズだろうと殺した相手の命をちゃんと背負う。  背負う覚悟で力を揮ってる。ヤマトは命を奪うことが罪であることをちゃんと理解してるんだ。  だからこそ俺は、ヤマトの重荷を増やす連中が赦せない。  俺はヤマトのようにそんな連中の命を背負うなんて真っ平御免だ。  死にたいなら他人の手に頼らず勝手に死ねばいい。その身体でこの先を生きるのは苦痛だろうからね、  余程殺された方が楽だろうけど、俺は絶対に殺さない。ざまあみろ」 「っ!!貴、様っ」 「ああそれと、さっき峰津院の狗って言ったけど、ここを潰しに来たのは俺の意思だよ。  ヤマトは捨て置けと言ったけど、俺が赦せなかったから勝手に潰しに来た。  だって、羽虫の分際でヤマトを殺そうとしたなんて、俺が赦せる訳ないだろう?」 「――――っ!!」 「狙撃、毒。どれも簡単に防げる物ばかりだったけど、やり方が姑息で気に入らない。  正面から挑む気概もないくせに羽虫のごとく周りを飛び回られるのは迷惑だ」 そう、ヤマトはこの小さな反抗勢力の事を気に掛けてなどいなかった。 手を下す価値すらないと切って捨てた。実際ヤマト本人であっても防げただろうし、 俺が防いだが、ただの嫌がらせ程度の行為だった。それでも俺は赦せなかった、それだけだ。 俺の言葉に目の前の男は絶句している。何度か口を開閉させた後、力なく項垂れた。 俺は最後に、 「せいぜい長生きすればいい、龍に牙を剥いたことを悔いながら」 そう言い捨てて背中を向けた。 大阪本局タワービルに戻ってくると、エントランスでヤマトが待ち構えていた。 「なんだ、もうバレたんだ」 腕を組んで不機嫌な顔で佇むヤマトに俺は悪びれなく話しかける。 ヤマトはふ、と息を小さく吐いた後、近付いてきて俺の頬に手を伸ばしてきた。 ぐいと頬を拭われる。すぐに離れたヤマトの白い手袋には赤いものがこびりついていて、 ああ、返り血がついていたのかと俺は自分でも頬を拭ってみた。 俺の血では無いことを確認してヤマトは少しだけ安堵したようだが眉間の皺はそのままだ。 「私は捨て置けと言った筈だが?君の手を煩わせるほどの相手では無かっただろう」 ヤマトはそんな風に俺を咎める。俺がヤマトの言葉を無視したという事は問題ではなく、 俺が力を無駄に揮ったことに対してヤマトは腹を立てているのだ。 そんなヤマトの気持ちは解らないわけではないが、俺にも言い分はある。 「仕方ないだろ、正面から挑んでくるならまだしも、ああいう手でヤマトを狙う奴は赦せない」 俺の言葉にヤマトは仕方のない奴だと漸く笑った。俺も軽く笑う。 「相変わらず感情的だな、君は」 「感情的だから、お前の手を取ったんだけど?」 「フフ、そうだったな」 軽口を叩きながら俺は最上階への直通エレベーターへ向かって歩き出した。 とりあえずシャワーを浴びてすっきりしたい。 ヤマトは当然のように俺の隣を歩いていたので、行き先はヤマトの部屋に決めた。 「そういえば、また峰津院の狗って言われた」 シャワーを浴びて出てくると、ヤマトが水の入ったペットボトルを手渡してくれた。 それを飲みながら俺はふと、もう顔も忘れた反抗勢力の男が言った言葉を思い出して ヤマトにそのことを告げてみる。ヤマトはソファーに腰掛けて口の端を吊り上げた。 「本当に君が私の狗であったなら、飼い主の言葉を忠実に守り、  奴等も痛い目を見ずに済んだだろうに」 くつくつと笑いながら言うヤマトに、そうだねと同意して俺もヤマトの隣に腰を下ろした。 ヤマトは俺の顔を見つめた後、言葉を続ける。 「君はどちらかといえば、ネコ科の猛獣だな。  ネコ科の動物は単独で狩りをする種が殆どだという。君とよく似ている」 ヤマトは目を細めて俺をそう例えた。なるほど、確かにその通り。 俺は指揮能力も認められてはいるが、正直に言うと1人で行動する方が気が楽だ。 つい先程、反抗勢力の1つを1人で潰してきたように。 「それならヤマトはイヌ科の猛獣だね」 お返しとばかりに俺もヤマトをそんな風に例えてみた。 イヌ科の動物は群れで狩りをする。そして群れを従え統率するリーダーの存在が不可欠だという。 ジプスという組織を従え世界を統べるヤマトは、イヌ科の猛獣の性質に当てはまる。 それに犬の性質、自分が認めたものに対して服従するその性質が、ヤマトと似ていると思う。 自らの命を国に捧げる、その姿が。ヤマトという人間の基盤ともいえるその事実を俺は苦々しく思う。 ヤマト自身が自らの運命に殉じているのだから俺は何もいえないし、 そんなヤマトを好きになってしまったのだから、もう仕方がないことだが。 「フ…イヌ科の猛獣か、私をそう例えるのは君ぐらいなものだ。だが、言い得て妙だな」 どこまで俺の思考を読んだのかは分からないが、ヤマトはそう言って穏やかに笑う。 機嫌を損ねた風でもない。まあ、俺が何を言った所でヤマトは良い様に解釈するので 何と言うか、ヤマトって俺の事、過大評価しすぎだよなと思う。それこそ今更ではあるが。 「まぁ別に、俺は何に例えられようと構わないけど」 こてんとヤマトの肩に頭を乗せて呟いた俺にヤマトは、 「私は不服だ。やはり愚民には君の価値が理解できないということか…。  君は私と同等であって、下僕では無いのだからな」 そう不満を滲ませた声で言うと、俺の額に唇を押し付けてきた。 ヤマトの腕が俺の肩に回って抱き寄せられる。抵抗せずに俺は身体をヤマトに預けた。 ヤマトの服越しの体温が心地好い、目を閉じると髪を撫でられた。 「眠るか、ユキト」 「んー、おやすみ」 目を閉じると睡魔が押し寄せてきて、俺は聞こえたヤマトの声に反射で答えて身体の力を抜いた。 意識を手放す直前に耳元に届いたのは、優しく俺の名前を呼ぶヤマトの声。 『峰津院の狗』と呼ばれるのも悪くないと思っていることは、ヤマトには黙っておこうと思った。 実力主義EDなので、殺伐としたのも書いてみようと。ヤマ主はらぶらぶですが。