どこかで鳴るアラームの音で目が覚めた。 そしていつもと違う部屋であることに直ぐに気付いて身体を起こして、 ―――その惨状に、眠気は綺麗に消え去った。 シャツは殆どボタンが外れた状態、ズボンは下着ごとずり下がっていて、 手と下肢がなんだかカピカピしている。身体に痛みは無い。 とりあえず俺はズボンを引き上げて、シャツのボタンを留めた。 そうしてやっと、隣の存在に気がついた。 大和だ。大和が俺の隣で眠っている。大和の服の状態も俺と似たり寄ったりでますます混乱する。 『え、俺、何やらかした……っ!?!?!?』 思わず叫びそうになった口元を押さえて必死に昨夜の出来事を思い出す。 昨夜は大和とワインを飲んで、飲みすぎて椅子で寝てしまって、その後大和と一緒にベッドに行って、 俺は自分の部屋に戻ろうとしたけど大和に引き留められて、それで――――、 「………俺、大和に、キス、した…」 そうだ、キスしてしまった。それからどうなった?確か大和からもキス、されて、それでそのまま。 ……その後のことがぼんやりしていてハッキリ思い出せない。お互いに色々触りまくった気がする。 とんでもない部分が痛いなんてこともないから、最後の一線は越えていない、筈、だが。 え、もしかして俺がやらかした可能性もあるのか!? などと考えていると、まだアラームが鳴り続けていることに気付いて俺は携帯を探した。 携帯は俺のズボンのポケットに入ったままだった。すぐにアラームを切る。 自分を落ち着かせる為に溜息を1つ零すと、隣で身じろぐ気配がした。 「……皓、稀」 名を呼ばれて恐る恐る隣へ顔を向けると、大和が気だるげに起き上がって俺と視線を合わせてきた。 「…おはよう、大和。身体、痛いところとか無いか?」 「…ああ、おはよう。特に不具合は無いが……ん?」 俺は起き抜けの大和に気になっていることをすぐに聞いた。そして大和の返答に心底ホッとした。 大和は自分の服の乱れに気付いたようで、眉を顰めつつ身なりを整えていく。 「………昨夜のことを、憶えているか」 「……うん、憶えてる」 大和の問いかけに素直に答える。何ともいえない空気が場を支配した。 俺は深呼吸した後、覚悟を決めて大和に言った。 「……忘れた方がいいなら、忘れる、から」 大和は行為の最中俺の名前を呼んだ。だから誰かと間違えたということは無いだろう。 何故、大和があんな行動に出たのか、俺には解らない。酔っていたのだから尚更だ。 俺は大和のことが好きでキスしてしまったけど、大和も俺と同じ理由だとは限らない。 大和の本心を知るのが俺は怖い。だから、こんな逃げるような言葉を選んだ。 そっと大和の顔を見ると、大和はその目に怒りを湛えていた。 「お前は、無かったことにしたいと、そう言うのだな」 地を這うような声で呟いた後、大和は俺の肩を掴んでベッドに押し倒してきた。 俺の身体に乗り上げて、大和が見下ろしてくる。殺気を滲ませたその視線に身体が震えた。 「……っ、ち、がう…っ」 俺は腹に力を入れて、絞り出すように大和の言葉を否定した。 「ならば何故、忘れた方がいい、などと口にした」 俺の否定に大和は声を和らげて問い掛けてくる。 言っても、いいのだろうか。本心を告げても。 大和の普段とは違う様子に俺は嘘でこの場を取り繕うことは諦めた。 唇を一度噛み締めてから、ゆっくりと言葉を紡ぐ。 「それは……酔った勢いとか、一夜の過ちとか、そういう理由にした方が、 この先も大和の側近として傍にいやすいと思ったから。 大和が俺のこと、どう思ってるかなんて知らないし、知るのはちょっと怖いし。 俺を認めてくれていることはちゃんと解ってるけど、俺はなんていうか… お前にとっては多分くだらない感情だと思うけど、お前のことが特別で、 それを否定されたらこの先、大和の傍で仕事するのが……私情だって解ってても辛い」 俺の言葉を最後まで静かに聞いていた大和は、俺の頬に手を伸ばしてきた。 指先で優しく触れてくる。その指が唇をなぞって、 「1つ確認する。何故、私に口付けた?」 大和は静かに問い掛けてきた。俺はその問いに答えようとしたが、答える前に大和の告白が先に落ちてきた。 「私は、君に口付けられて、嬉しかった」 「―――え」 「確かに、君という存在を知るまでは、感情そのものが私にとっては不要なものだった。 だが、もう5年も経つのか…夢で出逢った君に対し、私は生まれて初めて焦がれる想いというものを知った。 それは現実で出逢い、今に至るまで続いている。私はずっと、皓稀、君に恋焦がれている。 君が異性愛者であることは解っている。私は、君が傍にいるのならそれだけで良いと思っていた。 …だからこそ、君に口付けられた時、この想いを胸に秘める必要は無いのだと判断した。 ……ああ、そうだな。先に言葉で伝えるべきであった。皓稀、私は君が狂おしいほどに愛しい」 大和の告白は、とんでもない爆弾だった。こんな至近距離で、逃げ場などどこにも無くて。 あーとかうーとか、暫く言葉にならない呻き声を上げたあと、俺は両腕を持ち上げて顔を隠した。 顔が熱い、恥ずかしい。こんなに真っ直ぐな、熱烈な告白をされたのは初めてで、それも相手が大和で。 「…………なんか、ずるい、お前」 「自らの行動に責任を持たず逃げようとした君に言われる筋合いは無いが」 「うぅ…」 憎まれ口を叩けば、根に持っているかのように逃げようとしたことを咎められて、 結局俺は唸ることしか出来なくなった。 暫く唸っていたが、まだ大和にちゃんと告げていないことを思い出して、俺は腕をどけて大和を見上げた。 大和は待っている、そう気付いて俺は口を開いた。 「俺も、大和のことが、好きだ。好きだから、キスした。…自覚したのはつい最近だけど……っ」 俺の言葉は途中で消えた。深く重なってきた大和の唇に阻まれて。 「んっ、んぅ…っ」 一切の容赦なく口内を蹂躙される。隅々まで大和の熱い舌が口の中を這い回って、 最後にきつく俺の唇を吸い上げて大和の唇は僅かに離れた。 息苦しさと甘い刺激に潤んだ視界の中で、お互いの唇を銀糸が繋いでいて、恥ずかしさで死ねると思った。 大和の行為はそれだけで終わらなかった。気付けばシャツのボタンが外されて、胸元に手を這わされている。 きゅ、と胸の尖りを摘まれて、ひ、と声を上げた。大和の舌が首から鎖骨までをなぞっていく。 「―――!?ちょっ、ま、待てっ、待って大和…!!!」 「5年待った、もう待たん」 流石に拙いと慌てて大和の身体を引き剥がそうと暴れる俺を、大和は見事に流した。 俺の制止など口だけだと見透かしているかのように大和は止まらない。 確かにその通りで、嫌なわけではなく驚いているだけで、少しは心の準備をしたいと思うわけで。 昨夜のような、お互いに触りあうだけで終わるはずが無いと薄々気付いているからで。 「っ、ふ、風呂!シャワー!昨日そのまま寝たから汚いだろ!? このままがいいなんてマニアックなこと言ったら金輪際接触禁止にするからな!」 俺の本気の叫びにやっと大和の動きが止まる。 顔を上げて俺をじっと見つめる大和の眉間には深い皺が刻まれていた。 負けじと睨み返すと大和は観念したように溜息を吐いて起き上がり、俺から離れてくれた。 俺も溜息を吐いて起き上がる。先程言った言葉に嘘は無い。 「シャワー、先に使わせてもらうけど良い?」 「ああ。着替えは用意しておこう」 大和に声を掛けて、俺はすぐにバスルームに向かった。 大和の様子を思い出す。5年待ったという言葉は真実なんだろう。 5年も待たせてしまった、それを思うと胸が苦しくなる。 応えたい、だからこそ、ただ流されるまま事に及ぶのは嫌だった。 男同士の行為の事は漠然と知っている。この流れでは俺が受け入れる方なんだろう、ということも。 正直に言うと経験が無いので、やれと言われても困ってしまうのが現状だ。だから別にいい。 俺は覚悟を決めて、シャワーを浴びる前にトイレに入った。 出来る限り身体を綺麗に洗ってからバスルームを出た。 用意されていたのがバスローブで、生々しさに目眩がしたが大人しくそれに着替える。 下着は悩んだ末に、どうせすぐに脱がされるのだからと穿くのをやめた。 部屋に戻ると入れ替わりに大和がバスルームへと向かう。 目が合ったが、大和は何も言わずにすれ違った。 すれ違いざまに頬を軽く撫ぜられて、その仕種に心臓が跳ねた。 思春期の女の子みたいだ、と自分を笑う。時間を確認すると午前8時前。 朝から何をやっているんだと思いつつ俺はベッドに横になった。 目を閉じて深呼吸する。そういえば大和が俺のことを異性愛者だと言っていたが、どうやって調べたんだろう。 高校の時に一度だけ、付き合った事はあった。その事を言っているんだろうか。 高校1年の終わりから、春休みを挟んで2年の新学期を迎えるまでの短い期間。 告白されたことは何度かあったが、付き合ったのはそれが初めてで最後だった。 告白も別れも相手から。俺は俺なりに誠実に付き合ったつもりだったけど、 どこかで相手は気付いたんだろう、俺が本当の意味で心を許していなかったことに。 手は繋いだ、それぐらいだった。キスもしなかった。 女の子は可愛いし好きだと思っていたつもりだったけど、俺もそのことがきっかけで、 それ以来、何を言われても女の子と付き合う事は無かった。 今なら解る。俺はきっと、普通の恋愛は出来なかった。自分で無いと駄目だと思えるような相手を求めてた。 だから俺は大和を好きになったんだと思う。 根拠などあの夢ぐらいだから無いに等しいが、大和には自分だけだと俺自身がそう思えるのだからそれでいい。 ぎしりとベッドが鳴った。それと共に俺の名を呼ぶ声がして、閉じていた目を開ける。 バスローブを着た大和がベッドの端に座って俺を覗きこんでいた。 眠っていたのか、と聞かれて頭を振る。急いで出てきたのか大和は全体的にしっとりと濡れていた。 軽く口付けられて、目を閉じて受け入れる。それなりに時間があったおかげで俺は大分落ち着いていた。 「今更だが、私が君を抱いて良いのか?」 「いいよ、俺より大和の方が背、高いし」 「そんな理由で?」 「じゃあ、俺が嫌だって言ったらどうするんだ」 「それは………困るな。嫌というわけではないが、今は私が君を抱きたい」 「ん、随分待たせたみたいだし、嫌じゃないから、いい」 お互いに意思を確認しあった後、大和は時間が惜しいとばかりに再び俺に覆い被さってきた。 何度かキスを交わした後、俺はうつ伏せになって腰を上げる格好をとらされた。 バスローブはまだ着たまま、裾を捲り上げられてしまえば素肌が晒される。 「下着をつけていなかったのだな」 そう言いながら大和は剥き出しになった俺の尻を手のひらで撫でてくる。 ぞわりと肌が粟立った。俺は枕に顔を埋めて、どうせ脱ぐんだしと、もごもご言った。 俺の尻や太腿を手で撫でながら、項には舌を這わされる。 微弱な電流が流れているようにひくひくと身体が震えて、喉奥から堪えきれない声も小さく零れる。 緩く勃ち上がった俺の熱を軽く撫ぜた後、大和はその手を後ろへ滑らせて奥の窄まりに触れてきた。 くるくると円を描くように表面を指でなぞられる。不快ではないかと問われて必死に頷いた。 緊張でがちがちになっているのを自覚して、意識しながらゆっくりと呼吸を繰り返す。 大和は一度触れていたそこから指を離した。ほっと溜息を吐く。 ベッド脇にあるナイトテーブルから大和が何かを取り出したのを目で追うと、ワセリンだと答えてくれた。 何に使うのか、なんて問うまでもない。表情を隠すように再び枕に顔を埋めた。 大和の手がまた触れてくる。今度は両手で尻を割り開くように。その後、ぬるりとした感触に息を詰めた。 ぬるぬると表面に塗りこまれて、指が浅いところを出入りする。 少しずつワセリンが足されているようで、次第にぐちゅりと粘着いた音が耳に届くようになって、 恥ずかしさに俺はきつく目を閉じた。 「皓稀、ゆっくり息を吐け」 大和に言われて、俺は大きく息を吸った後、言われたとおりに息を吐いた。 「―――っん!」 ずるん、と中に何かが埋まる。多分大和の指が、根元まで埋まっている、俺の中に。 初めての感覚にぶるりと身体が震えた。 「痛むか?」 「ぁ、だい、じょ…ぶ」 痛みは無い、何ともいえない奇妙な感覚。気持ち悪いとも違って、気持ち良いとも言えない。 ゆっくり呼吸を続けていると大和も俺の呼吸に合わせるようにゆっくり指を動かす。 ぐるりと指を回転させながら奥へ入れて、同じようにぎりぎりまで引き抜く。 時折ワセリンを足しながら、まるでマッサージでもしているように俺の内部を解していく。 次第に俺の身体からは余計な力が抜けてきて、時折ある箇所を指が掠めると不思議な感覚に襲われた。 苦しい、と言えばいいのか。手前の方の、腹側にある一点。 俺の反応に気付いたのか、大和は重点的にその部分に刺激を与えてくる。 「やま、とっ…、くる、し」 「悦くはないか?」 「わかんな…ぃっ」 「前立腺だ、慣れればここで快を得られるようになる。個人差はあるようだがな」 大和はそこへの刺激を止めてくれた。はぁっと息を吐き出すと、圧迫感が増えた。 俺の中に埋められた指が増えている。2本の指が内部を広げるように動いて、 大和の指を締め付けるように内部が収縮したのが分かった。 「ふ、うぅ…、は、は…っ」 長い時間繰り返されて、俺は必死にそれに耐えた。 大和は俺の中を解しながら、俺の目元や頬、項、髪に口付けてくる。 気を紛らわせるように時折中心の熱を擦られて、俺は甘い声を上げた。 いつの間にか俺のそこは大和の指を3本受け入れていた。 喘ぐ俺と同じように大和の辛そうな息遣いをずっと感じている。 俺は振り向いて大和を見つめた。 「やまと、もう、いいから…っ」 息も絶え絶えに告げると大和の表情が切羽詰ったものに変わった。 勢いよく指を引き抜かれて身体が驚くように跳ねた。 すぐに指の代わりに宛がわれたのは、昂った大和の熱。 入口をなぞられて、散々指で弄られたそこがまるで欲しがるようにひくりと震えた。 「挿れるぞ」 大和の声に俺は息を吐いた。みちり、と狭いそこが広げられて、熱い塊が俺の中にゆっくりと沈んでいく。 「あ、…っ、う、あ…ぁ……!」 「――――っ、く…ぁ」 大和は躊躇せず俺の中を貫いた。動きが止まって、大和は俺を背中からきつく抱きしめた。 ぴたりと重なった身体。自分の身体の中に、他人の熱を感じる。 「はいっ…た…?」 「ああ…、全部、君の中に」 大和の手が俺の下腹部を撫でる。その意味に、堪らなくなった。 「――っ、締めるな、皓稀」 「わざとじゃ、な…っ…やまと、も、これ以上、大きくするなよ…っ」 内部が蠢いて、意図せず締め付けてしまった大和自身が更に質量を増して、俺は泣きそうになった。 実際泣いていた。勝手に目尻から涙が零れ落ちる。苦しさと熱さと未知の感覚に喘ぐしかなかった。 大和は俺の項をきつく吸い上げた後、腰を掴んで馴染ませるように軽く揺さぶってきた。 そしてゆっくりと前後に動かされる。じわじわと速まっていくその動きに俺はシーツを握り締めて耐えた。 「うっ、あっ、は、あぅ…っ、あっ、あぁっ…っ」 突き上げられるたびに声が零れる。ほんの少しの痛みと、苦しさ。 僅かに反応していた俺の中心が大和の手のひらに包まれる。 突き上げる動きと同時に擦られて、直に与えられた刺激に俺はまた大和を締め付けてしまう。 「あ、だ…めだっ、やま、とぉっ…!」 「っ、ふ…、悦い、か?」 イイかと聞かれて俺は反射的に首を縦に振った。そうかと嬉しそうな大和の声が聞こえて、 俺を穿つ動きが速くなる。ぐり、と先端を親指の腹で擦られて、もう駄目だった。 「も、おれっ、ぅ、あ、あぁ―――――っ」 「っ、く……っ」 耐えることなんて出来ずに俺は達した。その直後、俺の内部で大和の熱も弾けたのが分かった。 内側で大和自身が震えながら吐き出している。奥深くで感じる熱さに俺は息を吐きながら身体を震わせた。 ずるりと大和のものが引き抜かれる。弛緩した身体がベッドに沈んだ。 うつ伏せに倒れていた俺の身体が引っ繰り返される。すぐに大和の唇が顔に降ってきた。 額、頬、米神や鼻の頭、あちこちにキスされて、最後に唇を吸われる。 ぼんやりそれを受け入れていた俺は、両脚を大和の肩に担ぎ上げられた時点で、漸く気付いた。 遅かった。手遅れだった。ぐずぐずになったそこに宛がわれたのは、先程散々俺の中を穿っていた大和の熱。 「ちょ、まっ―――ぅあ……っっ」 一度目よりもスムーズに大和のものが俺の中に挿入っていく。 大和は奥までおさめた後、すぐに動き始めた。ぐちゅんと大和が動くたびに粘着いた音が響く。 「あっ、ぁ、あ、はっ、あ」 「は…っ、こう、き…っ」 もう喘ぐ事しかできない俺に、大和が名前を呼びながら身体を揺すってくる。 文句は後で言うことにして、俺は諦めるように大和の体に腕を回して抱きしめた。 やまと、と名前を呼び返せば、苦しいぐらいに抱きしめられる。 目を閉じて、大和が与えてくる全てに身を委ねた。 「………しんじ、られない」 掛け布団を頭から被って俺は呻いた。酷い声だった。 身体を丸めて唸る。もう一度、信じられないと呟いた。 朝から!初心者相手に!2回も!! おかげで身体中の間接は痛むし、あらぬところはじんじんと疼くし、立てないし。 裂けてはいないようだが、そんなことは問題ではない。 この調子では昼からの仕事は完全に無理だ。 「今日はこのまま寝ていろ。仕事の方は迫に任せても問題ないだろう」 元凶の声が聞こえて俺は恨めしげに布団から顔を出した。 すっかり身支度を整えた大和がベッドの端に腰を下ろして俺の頭を撫でてくる。 満悦の表情を見せた大和に、俺はすっかり毒気を抜かれた。 「真琴さんに申し訳無い…どう説明するんだよ」 「体調が優れぬから休ませると言っておく。偽りではないのだ、君が気に病むことは無い」 「…………」 「どうした、怒っているのか?」 「ちょっとだけ。でも、もういい。結局俺も本気で拒めなかったんだし」 「そうか」 大和が俺の髪を梳く。額に口付けられて、くすぐったさに俺は目を細めた。 「……今でも、夢を見た理由とか、大和の事がこんなに好きになった理由とか、解らないけどさ」 俺の呟きに大和は静かに耳を傾けている。布団の中から出した手で大和の腕に触れた。 「もう運命でいいって、そう思うよ」 気持ちが伝わるように、俺は心から笑って言った。 「運命、か。……そうだな、こういった運命ならば、悪くはない」 大和も口元を緩ませて俺の言葉に頷いた。縮まる距離に瞼を伏せる。 優しく重なった唇に喉を鳴らす。 「…名残惜しいが、そろそろ行かねばな」 「……いってらっしゃい」 大和の言い様が可笑しくて、小さく笑いながら俺は手を振った。 それに促されるように大和は笑みを浮かべたまま立ち上がって、振り返らずに部屋を出て行った。 1人残された大和のベッドの上で、俺は掛け布団を被りなおして目を閉じる。 心も身体も満たされて、俺は気持ちよく眠りに落ちた。 そういえば、と今更のように気付いた。 大和と出逢ってから、あの不思議な夢を見なくなった事に。 END ■■■ 『人の想いとは素晴らしいものだね』 人の姿をした、人ではないその存在は、ゆっくりと表情を笑みと呼ばれる形に変える。 かつてこの世界は一度壊された。世界の管理者であるポラリスの手によって。 だが、管理者であるポラリスに抗う人間達がいた。 そして最後にはポラリスに力を示し、人間の可能性を認めさせ、望みのままに世界は復元された。 人間達の手で倒された筈の、ポラリスの剣であり、その摂理から外れた存在であった アルコルという名のセプテントリオンもまた、摂理からは外れたままに復元されていた。 遙か昔から人類を見守り、行く末を案じてきたアルコルは、自らを憂う者と名乗っていたが、 現在、復元された人の世を見つめるその顔に憂いは無い。 アルコルはポラリスに抗った者達を、ずっと見つめていた。人には知覚出来ない空の高みから。 世界が復元されたことで、ポラリスに抗い勝利した人間達の記憶は、 過去の自分たちのデータに上書きされ消滅したかに見えた。だが、そうではなかった。 ポラリスに抗ったその時の数々の経験は、確かに彼らの中に息づいていた。 中でもアルコルが『輝く者』と呼んだ二人の人間には、夢という形で記憶の一部が残っていたようだ。 その夢を道標に、彼らは再び出逢い、心を通わせるに至った。 滅び行く世界で結んだ強い縁が、二人を引き合わせたのだろうか。 アルコルは何もしていない。間違いなくそれは、人の可能性だった。 自身が抱いた望みとは別の物であったが、この世界ならば、ポラリスの管理から外れずとも、 人は人のままに生きてゆけるのかもしれない。 『見守っているよ、輝く者。そして私が愛してきた人間たち』 アルコルは目を細めて囁く。その姿は次第に空に溶けて消えていった。 ■■■ どうにか纏まった…かな。復元ED後の記憶が無いヴァージョンでした。 主人公と大和は他の皆と違って夢という形で少しだけ残ってたけど、イメージだけというか、 この先もその夢が現実に起こった出来事だったとは気付かないまま、 そのうち、かつての世界での縁に導かれて皆ともどこかで出会ったりしつつ、 主人公は大和の傍にいるし、主人公が大和の傍にいるかぎり、大和が暴走することもないだろうなと。 えろはいつもの通り最後は息切れしました。