触れて溢れる、想いの先に





辿り着いた宿は、多くのホテルや旅館が集まっている場所からは離れていた。 周辺は木々に囲まれており、さらに人避けの結界が張られているらしい。 タイホウは静かに小さな庭のような場所に降り立った。 俺はタイホウから飛び降りて目の前に建つ宿を見る。 小さいながらも手入れの行き届いた綺麗な旅館といった感じだ。 ヤマトがタイホウを帰還させて迷いの無い足取りで建物の入口に向かう。 扉を開けたヤマトは振り返って俺を促してきたので素直にそれに従った。 中に入るとすぐに宿を管理している人間だろう、お待ちしておりましたと ヤマトに頭を下げて、俺達を部屋に案内してくれた。 通された部屋は広かった。和室で畳と木の香りがする。 2部屋あって襖で仕切れるようになっていた。 洗面所、脱衣室と確認して、隣の風呂場を覗くと硫黄のにおい。 「ああ、温泉を引いてある、少し休んでから入るといい。それとも先に食事を済ませるか?」 ヤマトが問いかけてくる。 空腹だったことを思い出し、だが昼食というには遅く夕食というにはまだ早い時間。 座卓の上にお茶請けがあったことを思い出して、 「お茶してから入ることにする」 そう告げて、重いジプスのコートを脱ぎながら脱衣室を出た。 部屋にあったハンガーにコートを掛ける。ヤマトもコートを脱いでいるのが見えたので もう1つのハンガーを手にとってヤマトに向けて手を差し出した。 意図は伝わったようで、ヤマトは脱いだコートを俺に手渡してきて、それを同じ様にハンガーに掛けた。 座卓の前に腰を下ろして饅頭に手を伸ばす。 ぱくりと口に含めば餡の甘みが身体に染み渡った。 ことりと目の前に湯呑みが置かれて、お茶を注いでくれたヤマトにお礼を言って一口啜る。 人心地がついて、身体を弛緩させた。 ヤマトは対面に座って上品に饅頭を口に運んでいる。 落ち着くと、本当にヤマトと2人で旅行に来たような気分になった。 俺はヤマトに話しかけた。 「いつか…もっと落ち着いたら、ヤマトと旅行したいな。仕事抜きでさ、普通に遊びに行きたい」 当分は無理だろうけど、最後にそう付け加えて。 ヤマトは何度か瞬いた後、静かに微笑む。 「それは、友達同士の付き合いというものか?」 ヤマトの質問に俺は頷いて、 「友達同士の付き合いでもあるけど、友達ってだけじゃなくて、ヤマトと行きたいなって。  今も似たようなものだけどさ、俺が楽しいこと、ヤマトも楽しんでくれたらいいなって思ってる」 自分の気持ちを伝えた。それは楽しみだ、とヤマトは目を細める。 その答えに俺も笑みを浮かべて、2つ目の饅頭を手に取った。 ヤマトとこれからのことや何でもない事を話しているうちに1時間ほど経った。 そろそろ風呂に入ろうと腰を上げると、ヤマトが立ち上がって用意されていたらしい浴衣を渡してくれる。 先程覗いた風呂場を思い出して俺は、 「広いしヤマトも一緒に、」 入らないか、と言いかけて、咄嗟に口を噤んだ。 他意は無かった。裸の付き合いも良いんじゃないかと軽い気持ちで。 だがこの場合、他意が無いのが問題だということに気付いた。 ヤマトを意識していないわけではないが、こういうのを危機感が足りないというのだろうか。 それとも、全てを許していないのに誘うような真似をして、残酷というのか。 ぐるぐる考えていると、ヤマトがフッと笑う。 「魅力的な誘いだが、遠慮しておく。ゆっくり浸かって疲れを癒せ」 それだけ言って、ヤマトは俺から視線を外した。 謝るのも可笑しな気がして結局何も言えず、俺は小さな罪悪感を抱きながら風呂場へ向かうしかなかった。 かけ湯をした後、洗い場で軽く身体を洗って、湯船にまず半身だけ浸かった。 じんわりと熱が伝わってきて、ほうと溜息を吐く。 身体が温まってからもう一度洗い場でしっかりと髪と身体を洗って、改めて湯船に浸かる。 お湯はぬるめだったが気持ちが良く、俺は湯船の縁を枕にして仰向けになって目を閉じた。 「……早く、腹括らないとな…」 ヤマトとのことを考える。 ヤマトと触れ合うことに嫌悪感は無い。 それならヤマトに全て委ねてしまっても問題は無いような気はするが、 どうしても気になってしまうのが、女にあって男には無い、繋がる為の場所のことだ。 いくら男同士でも可能とは言っても代用するのは排泄器官だ。 ぶっちゃけ出す所であって入れる所では無い。 衛生的な問題だとか、慣らすのに時間がかかりそうだとか、男女間の行為よりも大変そうだ。 それでも、ヤマトが求めるのなら、受け入れたいとは思う。 今は積極的にそこまでしたいとは思えないが、ヤマトの気持ちは受け入れたい。 その時になって手間取らないように、予め俺に出来ること。 それを考えた途端、ぶわ、と顔が熱くなる。そこを洗うことはあっても外側だけだ。 幸いその方面の病院に世話になったことも無い。 内部を綺麗にする、という第一段階でもう心が折れそうだ。 「ごめん、ヤマト。先は、長い」 ぼそりと呟いて、俺はのぼせる前にと湯船から出ることにした。 身体を拭いて浴衣を身につける。 帯の結び方は知らないので適当に腰に巻いて誤魔化した。 部屋に戻ってヤマトにお待たせと声を掛ける。 ヤマトは俺の姿を見て少し眉を寄せた。 俺の傍までやってきて、開き気味だった襟を直される。 「帯を結びなおしても?」 問い掛けながらもヤマトの手は既に俺の帯に触れている。 俺は頷いてヤマトが動きやすいように両腕を浮かした。 するりと解かれた帯は手際良く再び俺の腰に巻かれて綺麗に結ばれる。 「ヤマトって着物とか着慣れてたりする?」 「ジプスの局長になる前は、家では殆ど和装だったな」 話しているうちに終わったらしい。ヤマトは満足気に頷いて軽く俺の肩を叩いた。 「髪はしっかり乾かしておけ、風邪を引く」 そう言ってヤマトは浴衣を持って風呂場へと歩いていった。 俺は言われた通りタオルで濡れた髪を拭う。 「……ヤマトって、やっぱり年下に見えない」 思わず呟いた声は拗ねたような響きを帯びていた。 ヤマトの年齢を知らない人が俺達を見たとき、確実に俺の方が年下に見られる気がする。 ただ、年相応に生きられなかったのだと思うと複雑な気持ちになる。 だからこそ時折見せてくれる年相応の表情が、凄く好きなのだが。 「高笑いする時、八重歯が見えて可愛いんだよな」 その様子を思い出して小さく笑いながら、俺は髪を拭いつつ部屋の隅にある小さな冷蔵庫を開けて 中にあったペットボトルの水を取り出し、伏せてあるガラスのコップに水を注いで一息に飲み干した。 携帯を弄りながら座卓の前に座って待っていると、脱衣室の戸が開いた音がして振り返った。 出てきたのは勿論湯上り姿のヤマトで、俺と同じように浴衣を着て首に掛けたタオルで髪を拭っている。 「ユキト、どうかしたか」 ヤマトの声に、凝視していた事実に気付いて軽く首を横に振った。 普段は白いヤマトの肌が、湯上りの為ほんのり赤く色づいている。 何時もはジプスのコートの襟で隠されている項に、しっとりと濡れた髪が張り付いているその様が 何ともいえない色気を醸し出していて、男の項にもこういう破壊力があるのだと初めて知った。 そう感じるのは俺がヤマトに対して特別な気持ちを抱いているせいなのかもしれないが。 ヤマトはぼんやりしているだろう俺を不思議そうに見つめた後、 「まだ髪が乾いていないだろう?ドライヤーは脱衣室にあった」 そう言ってプラグをコンセントに挿して、ドライヤーを俺に手渡してくれる。 「ヤマトもまだ乾かしてないみたいだけど」 「君が乾かすのが先だ。風邪を引かれでもしたら私が困る」 ヤマトの髪もまだ濡れているようだったので気になったが、 どうやら俺が先に乾かさないかぎりヤマトも乾かす気がないようなので、 俺はありがたくドライヤーのスイッチを入れた。 癖毛の為、半乾きだと翌日爆発するので念入りに温風を髪に当てる。 タオルで水分は拭きとっていたし時間も経っていたので、それ程かからずに髪は乾いた。 一度スイッチを切って、傍で俺の行動を見守っていたらしいヤマトを手招きした。 「背中向けてここに座って、ヤマト」 俺は自分が座っている目の前を指しながらヤマトに言った。 「ユキト?」 「髪乾かすの、俺にやらせて」 「良いのか?」 「うん、やりたい」 少し迷う様子を見せたヤマトに自分がやりたいのだと告げる。 では頼もうと口元を緩めてヤマトは俺の前に背中を向けて正座した。 俺は膝立ちになってドライヤーのスイッチを入れ、温風をヤマトの髪に当てた。 手櫛で整えながら乾かしていく。乾いてくると頭頂部の髪の毛がひょっこり立ってくる。 独特な髪形だよなと思いながら丁寧に乾かした。 乾かしながら、やっぱりヤマトの項って色っぽいなと思ったことは秘密だ。 「はい、終わり」 ドライヤーのスイッチを切って、ヤマトに声を掛ける。 ヤマトは確かめるように自分の髪に何度か触れて、頷く。 「ご苦労、君は何をやってもそつがないな」 そんなヤマトらしい労いの言葉に俺は小さく笑ってドライヤーを片付けた。 待望の夕食は豪勢なものだった。 このご時世、元々一般人だった俺としては少しだけ申し訳ない気分にもなったが 正当な労働の対価として、美味しく頂いた。綺麗に平らげたのは言うまでもない。 食後のお茶を飲み、歯も磨いて後は寝るだけという状態になると途端に眠気が押し寄せてきた。 布団は宿の人が既に敷いてくれている。横になったらあっという間に落ちるだろう。 眠ってしまうのが勿体無く感じて、俺は座卓に上半身を預けた状態でヤマトの声を聞いていた。 ヤマトは今電話中だ。相手は多分ジプスの誰か、マコトかもしれない。 ヤマトの様子から差し迫ったものでないことは判る。 おそらく報告なのだろう、時折何かの指示を出しながらヤマトは会話を続けている。 ヤマトの声は低音で、心地良い。 目を閉じてその声を聞いていると、通話は終わったようでパチンと携帯を閉じた音が耳に届いた。 「ユキト、疲れているのなら休んで構わんぞ」 「んー……」 優しく肩に手が置かれて、俺はヤマトをぼんやり見上げた。 ヤマトの顔は思っていたよりも近くにあって、俺は何度か瞬きをする。 ヤマトの身体が一瞬固まって、ユキト、と俺の名を囁いた。 自然に瞼が落ちる。すぐに唇に温かいものが重なった。 ちゅ、と音を立ててそれは直ぐに離れる。ん、と喉を鳴らすと再び今度は深く重なってきた。 控えめに差し出した舌に同じものが絡む。吸ったり、甘く噛んだり。 何度か繰り返して、最後に下唇を柔く食まれて離れていった。 何かを言おうと口を開きかけた俺の身体はふわりと浮く。 背中と膝の裏にヤマトの手の感触。所謂お姫様だっこでヤマトは俺を布団が敷かれた部屋へと運んだ。 敷布団の上にそっと横たえられる。指先で俺の頬をなぞりながらヤマトが見つめてきた。 そのヤマトの貌を見ていると、脳裏に餌を前に必死に待てをしている犬の様子が浮かんで消えた。 好きな相手にここまで想われて、求められて、嫌な気はしない。胸はじわりと熱くなる。 さて、どこまで自分を相手に委ねられるのだろうか、そんなことを考えていると ヤマトはどう受け取ったのか、目を閉じて小さく息を吐いて俺から離れようとした。 それを俺はヤマトの浴衣の袖を軽く引いて止めた。 目を瞠るヤマトに微笑みかける。 「昨日、ヤマトと触り合っただろ?あれ、結構気持ちよかった、から。  だから、あと少しなら進んでもいいかなって…」 はっきりと言葉にはしにくくて、俺はかなり曖昧な言い方をした。 正確に伝わったかどうかは分からないが、ヤマトはいいのか、と口にする。 答えの代わりに俺は伸び上がってヤマトの首に腕を回して唇にキスをした。 ヤマトは仰向けに寝そべった俺の上に覆い被さってきた。 顔のあちこちにキスしながら、ヤマトの手は俺の腰に回って帯を解いていく。 そして衿のあわせを開いて、晒された素肌に手のひらを這わせてきた。 鎖骨を指がなぞり、耳朶を食まれ、首筋を唇で確かめるように辿られる。 ヤマトの顔は下りていって、鎖骨に軽く歯を立てられた瞬間小さく身体が跳ねた。 「痛かったか?」 ヤマトの言葉に頭を振る。ヤマトは謝罪するように先ほど歯を立てたそこを舐めてきた。 「っ、ふ…」 くすぐったい感覚と、じわりと熱く痺れるような感覚に身体を震わせて口元に右手の甲を当てる。 ヤマトは熱心に俺の肌に唇を落としていく。 その唇が胸の先端を掠めた時、あ、と溜息のような声が零れた。 俺の反応に気を良くしたのかヤマトはそこを口に含んで吸い上げてくる。 「っ!」 思わずヤマトの後頭部の髪を掴んで弱く引っ張ってみるが、 ヤマトは俺の抵抗を無視して口に含んでいない方を指で摘んできた。 「ふ、ぁ…っ」 抵抗の為にヤマトの後頭部に回した手はいつの間にかただ添えるだけになっている。 俺が嫌がっていないことはヤマトには分かっているんだろう、 事実、俺はただ与えられる刺激に戸惑っているだけで嫌悪感を抱いてはいない。 ヤマトは硬くなった胸の尖りを舌で、指で愛撫する。 舐めて、吸って、甘く歯を立てて。擽って、押しつぶして、軽く引っ掻いて。 「っあ、あっ、ん…っ、ぅ…っ」 下腹部に熱が溜まっていく。堪えようとしても声が出る。 ちゅうと最後にきつく先端を吸って、ヤマトの動きが止まった。 俺の胸元から顔を上げたヤマトと視線が合う。 熱を孕んだ視線、濡れた赤い唇。男の貌をしたヤマトに身体が無意識に震えた。 ごくりと口内に溜まった唾液を飲み込む。ヤマトは眩しそうに目を細めて、俺の唇に口付ける。 『ヤマトの、かたく、なってきてる…』 密着した身体はお互いの熱を伝える。 ヤマトだけでなく俺のそこも反応し始めていて、それは相手にも伝わっているだろう。 「っは、ぅ」 浴衣の裾からヤマトの手が入ってきて、内腿を撫でられて声が漏れた。 軟らかいそこを堪能するようにヤマトの手が上下する。 脚の付け根まで上がってきた手に身体が大きく震えた。 「嫌か、ユキト」 唇を僅かに離してヤマトが俺に聞いてくる。 迷ったのは一瞬だった。 「下着、汚れるから…」 流石に脱がせてとは言えず口籠り、ヤマトの顔を見て息を呑んだ。 嬉しげに笑みを浮かべて俺の頬を撫でるヤマトを直視してしまって、咄嗟に顔を背けて目を閉じる。 俺の顔は多分真っ赤になっているだろう。 ヤマトは躊躇いなく浴衣の裾を割って、俺の下着に手を掛けて引き下ろした。 反応した自分自身を他人に見られるのは勿論初めてで、恥ずかしさで死にそうだ。 手際よく下着を取り去ったヤマトは俺の膝を立たせて開かせ、その両脚の間に身体を入れた。 そして緩く勃ち上がった俺の中心の熱に白い指を這わせてきた。 根元から先端へゆっくりと撫ぜられて、直に与えられる刺激に俺は唇を噛み締めて耐えた。 自分でする時とは全然違う、どんな風に触られるのか想像がつかなくて緊張する。 心臓の音が煩い、身体中が熱くてぞくぞくする。 「ユキト、唇を噛むな」 耳元で声が聞こえて、閉じていた目を開くとヤマトが俺の顔を覗き込んでいた。 右手は俺の熱に指を這わせたまま、左手の親指で俺の唇を撫でる。 促されて薄く開いた唇を割って、口の中にその指が入ってきた。 「辛ければ噛め」 そう言った直後、なぞるだけだったヤマトの右手に軽く握られて、擦り上げられた。 「あ…っ!」 噛んでいいと言われても噛めるはずもなく、俺は声を上げた。 「もっと、君の声を聞かせてくれ」 ヤマトの声にふるりと頭を振る。ヤマトの手は容赦なく俺を追い詰める。 裏筋を擦られて、先端の窪みに親指の腹を押し付けられて、じわりと先走りが溢れ出すのが判った。 「んっ…あ、はっ…あぅ」 ヤマトの指が俺の口内も愛撫する。人差し指と中指で俺の舌を挟んで優しく擦ったり、 溢れてくる唾液をかき混ぜるように指を動かしたり。 そしてヤマトの視線は俺の顔と、俺の中心の熱を行き来する。 乱れた俺を見つめるヤマトの視線に、何よりも身体が昂って。 「は、ぁあっ、や、まと…、もうっ」 限界を訴えてヤマトに縋りつくと、 「ああ…、私の手に」 出してくれ、とヤマトが俺の耳朶を噛みながら囁き、一際強く擦って先端を抉ってきた。 「――――――ァっ!!!」 声にならない声を上げて、俺は吐精した。 いつの間にかヤマトの左手の指は俺の口内から抜かれて、 右手の上に重ねられて俺の吐き出した白濁を受け止めていた。 全身から力が抜ける。身体の内に溜まった熱を吐き出すように荒い呼吸を繰り返す。 「少し待っていろ」 ヤマトが俺に声を掛けてから立ち上がってどこかに歩いていく。 ぼんやりとその背中を見つめているとすぐに戻ってきて、 手に持った濡れたタオルで俺の汚れた下肢を拭ってくれた。 俺はゆっくり上半身を起こして横に置いてあった自分の下着を手にとって穿く。 肌蹴た浴衣をどうしようかと考えているとヤマトの手が伸びてきて衿に触れる。 「着直した方が良いだろう。不快ならもう一度、風呂に入ってくるか」 ヤマトはそう問いかけて、返答を待つように口を閉じて俺をじっと見つめた。 ほんの少しだけ目元が赤いヤマトの顔を見て、俺は思いだす。 「…ヤマトも、辛いだろ?」 先程、密着した時に感じたヤマトの中心は俺と同じ状態だった筈だ。 「私は構わない。直におさまる」 ヤマトの言葉でまだおさまっていないことが分かった瞬間、俺の身体は動いていた。 「っ、ユキト」 「俺も、ヤマトに気持ちよくなって欲しい…それとも、俺に触られたくない?」 「君は、嫌ではないのか」 「俺はヤマトに触るのも触られるのも、嫌じゃないよ。…恥ずかしいだけだ」 ヤマトには両脚の膝を立てて座ってもらう。 裾を割って開いた脚の間に俺は座って、ヤマトの下着に手を掛けた。 気持ちは伝わったらしく、ヤマトは黙って俺の行動を見ている。 硬く勃ちあがった中心を見られるのも触られるのも初めてなら、その逆もまた初めてだ。 下着の中から取り出したヤマトの熱塊は、俺のものよりも大きく感じた。 自分のサイズは標準だと思いたい。少しだけ逃避しながらヤマトの熱にそっと触れる。 触れた瞬間、ヤマトが息を呑んだのが分かった。 自分でする時を思い出しながら優しく掴んで手を上下に動かして擦る。 くびれを擽って、先端の窪みを少しだけ強く擦ると透明な体液が滲んできた。 顔を上げてヤマトの表情を確認する。ヤマトは目尻を赤く染めて潤んだ眼で俺を見ていた。 「気持ちいい?」 「っ…、ああ…」 俺の質問にヤマトは頷いて、ぎゅ、と瞼を閉じた。 物足りないように見えて、もう少し強い方がいいのかと両手で擦ってみる。 ふと、思い立って俺は手の中でひくりと震えるその先端に顔を近づけた。 そして、ちゅ、と唇をそこに押し付ける。 「っ!」 驚いたらしいヤマトが俺の頭を両手で掴んできた。 「気持ち悪い?」 そう聞きながらも俺はぺろりと舌を出して、つるりとした先端を舐める。 ヤマトは暫く迷っていたようだが、熱い息を吐き出した後、俺の頭を掴んでいた手から力が抜けた。 優しく髪を撫でられる。続けても良いという合図だろう、俺は口を開いてヤマトの先端を口内へ迎え入れた。 全てを含むのは諦めて、くびれのあたりまで含んで、含めなかった部分には指を這わせる。 歯を立てないように、唇と舌で刺激を与えていく。指先に力を入れて擦る。 次第に独特の苦味が強くなってきた。 眉を寄せながらもヤマトが感じている証だと思うと嬉しくて、俺はその行為に没頭した。 「はっ…ユキ、ト…ん、はな、せ」 ヤマトが切羽詰ったような声で俺の髪を掴んでくる。 俺は悪戯心でヤマトのものを深く咥え込んできつく、吸い上げた。 「―――っ!」 ヤマトの身体が跳ねた。同時に俺の喉奥に熱くてどろりとしたものが吐き出される。 気管に入りかけたのか咽せそうになって、俺はヤマトの中心から顔を離して口元を押さえた。 「無理をするな、吐け」 ヤマトが先程俺の下肢を拭ったタオルを差し出してくる。 大人しく受け取って、俺はタオルを口元に当てて吐き出した。ついでに咳き込む。 ヤマトは軽く身なりを整えて、俺の背中を撫でてくれた。 「ごめん、飲めるかなって思ったんだけど」 もう少し量が少なければ飲めたかもしれない、そんなことを思いながら 僅かに口内に残った精の苦味を唾液と一緒に飲み込む。 「気にするな。…全く、私が君に触れているときはあんなに緊張していたというのに、  私に触れることには抵抗が無いのだな」 困ったように微かに笑いながら言って、ヤマトは俺の後頭部を撫でた。 「ヤマトだって、少しはそういう所あるだろ」 俺が言い返せば、多少はなと返ってきて、素直じゃないと俺は笑う。 「ヤマト、風呂一緒に入ろう」 俺は自然にそう誘って、ヤマトも今度は拒まなかった。 2人で脱衣室に向かう。その後は普通に2人で風呂に入った。 温泉に浸かりながら、一度だけ唇を重ねて。 口内を濯いでいなかったので、ヤマトは初めて自分の味を知ってしまった筈だ。 それを理解してか眉間に皺が寄ったヤマトを見て、俺は笑ってしまった。 風呂から出ると程よい疲労感に包まれた。 水分補給した後、携帯のアラームをセットして直ぐに敷布団の上に寝転がった。 ヤマトも電気を消して俺の隣の敷布団に身体を横たえる。 龍脈の力を扱っていたからヤマトも疲れているんだろう。 お互い疲れていた筈なのに、更に疲れるような事をしてしまったわけだが。 思い出すと顔が熱くなって、俺は掛け布団を顔のあたりまで引き上げて被った。 「おやすみ、ヤマト。寝過ごしたら叩き起こしてくれていいから」 「心配せずとも優しく目を覚まさせてやろう。おやすみ、ユキト」 眠る前の挨拶を交わして、なんとなくヤマトの言葉に不穏なものを感じながらも俺は目を閉じる。 あっという間に深い眠りに落ちていった。 翌日。 息苦しさに目覚めた俺の目に映ったのは、至近距離で上機嫌に微笑むヤマトの顔だった。 ここから最後に至るまで、時間がかかりそうです。