今日もまた、俺はヤマトの髪を弄る。 ヤマトはワーカホリックだ。 誰が何を言っても休憩を取ろうとしないヤマトに、半分脅迫のような形で 『じゃあ俺もヤマトと一緒に仕事する。  局長が休まないのに局長の片腕である俺だけ休めないし。  もしそれで俺が過労で倒れても自己責任だからヤマトは気にしなくていいよ』 そう言うと、ヤマトは眉間に皺を寄せて暫く俺を睨み、 だが深い溜息を吐いた後休憩を取ることを了承した。 ヤマトが折れてくれたのは、俺に甘いという理由もあるだろうが 俺の真意――ヤマトを案じる気持ちがきちんと伝わっているからでもあるのだろう。 そんなわけで、昼食と夕食の間に俺とヤマトは少しの休憩を入れることになっている。 本当は俺とヤマト、交代で休憩を取ったほうが良いのだろうが、 ヤマトは見張っていないと休憩時間も仕事をするので仕方がない。 局員の皆もヤマトのオーバーワークについて常々心配していたので、 ヤマトをちゃんと休ませる為の協力は惜しまないでくれる。 とにかく少しでもゆっくりさせることが目的なので、休憩する時は大抵ヤマトの私室に行く。 ヤマトの私室は、世界改変後に新たに大阪に建設したジプス大阪本局タワービルの最上階にある。 最上階のフロアはヤマトと俺の私室があるだけで、このフロアに足を運べるのは 実力主義の初期賛同者であるマコト、フミ、ケイタ、元々ジプスに勤めていたオトメ、 後は俺の友人ということで現在もジプスに協力しているダイチ、イオ、ジョー、ヒナコ、アイリ、ジュンゴ といったポラリスへ力を示した面々ぐらいだ。 緊急の時は内線か、マコトやフミが直接ここへ知らせに来る。 ある程度のことならばヤマトの手を煩わせることなく処理できるぐらいにはジプスの局員も育ってきているし、 国内の経済状態や悪魔による被害、反抗勢力の活動等も落ち着いてきていることもあって 最近はヤマトも休憩を取ることを受け入れているようだ。 休憩時間は2人でお茶を飲みながら、とりとめのない話をすることが多い。 お茶はその時の気分で緑茶、紅茶、珈琲、ジュース等様々だ。 あれは何時だったか、思いつきで俺はヤマトに髪に触ってもいいかと聞いて、 ヤマトは不思議そうにしながらも構わないといってくれたので、 ヤマトが腰掛けているソファーの横に座ってその髪に俺はそっと手を伸ばした。 ヤマトの髪は白金色というのか、光の加減で淡い紫色にも見えてとても綺麗だ。 クセッ気なのか頭頂部の髪は跳ねている。項を覆う後ろ髪は初めてヤマトと出会った頃よりも少し長い。 頭頂部の跳ねているあたりを触ってみると柔らかな手触り。そのまま指でヤマトの髪を梳く。 さらさらとした感触が心地良くて、何度も繰り返した。 ふと、ヤマトの表情を窺うと、ヤマトは目を閉じていて気持ちが良さそうに見えた。 今までにもヤマトの髪に触れたことはあるが、無意識だったりそれどころではない場合が多かったので こうしてただ髪を梳くというだけのスキンシップも悪くないなと思う。 グルーミングのようなものなのかもしれない。 以来、休憩時間にヤマトの髪を弄るのは、いつの間にか俺の日課のようなものになっていた。 「楽しいか?」 ぱたんと読んでいた本を閉じて、ヤマトが聞いてきた。 指先にヤマトの髪を絡めたまま俺は頷く。 「ヤマトも俺の髪、触ってもいいよ?」 俺が提案してみると、ヤマトは少し考えた後、静かに頭を振って、 「今は止めておこう。髪だけでは済まなくなるだろうからな」 夜にでも。そう付け加えてヤマトは艶のある笑みを浮かべる。 その意味を正しく理解した俺は、 「……えっち」 ヤマトの耳元に囁いてから、指に絡めた白金の髪に唇を押し付けた。 どちらがだ、というヤマトの言葉は黙殺する。 確かにヤマトに自分の髪を触られたら妙な気分になるかもしれないなと思いながら 俺は厭きずにヤマトの髪を梳いた。 まるで動物を愛でる感覚に似ているな、という感想は黙っておくことにした。 夜のヤマトは間違いなくケダモノだと思うが。 数年後。少し後ろ髪伸ばしてるといいなぁという妄想。