望むままに貴方を乞う





「ああ、良い夢を」 そう囁いて、ヤマトは俺の部屋を出て行った。 俺は暫く立ち尽くした後、ばたりとベッドに倒れ込んだ。 シーツに顔を埋める。顔が、熱い。 「………危なかった……っ」 零れた声は掠れていた。 先程のヤマトとの遣り取りを振り返る。 墓穴を掘ってしまった。 もしかしたら、俺への気持ちを考え直す切っ掛けになるかもしれない、 そんな軽い気持ちで、それこそ男友達同士がやるようなノリで、 俺は自分の素肌にヤマトの手のひらを導いた。 ひんやりとしたヤマトの手のひらを胸に感じた瞬間、あ、駄目だ、と思った。 平静を装っていたが、心音でヤマトには気付かれたかもしれない。 ヤマトの俺に対する想いだけが問題じゃなかった。 俺の想いもとっくに引き返せないぐらい特別になっていたことに漸く気付いた。 ヤマトに対する気持ちが友達以上のものになっていることは自覚していたが、 それが恋愛感情と呼ぶものとはどこか違うと思い込もうとしていた。 ヤマトのことは好きだが、自分はヤマトとは違って、所謂性的な触れ合いは望んでいないと。 そう思っていた、けれど、自らの行動によってそれが偽りであると思い知らされた。 素肌を撫でたヤマトの手のひら。これがヤマトでなければ何も感じなかったと思う。 俺の肌を確かめるように撫でるヤマトの手のひらに、ぞくりと甘い痺れが走った。 鼓動も高まって、本気で拙いと思って、俺はヤマトと会話することで必死に取り繕った。 会話の中で一つ思いついて、ちょっとした冗談のつもりで、 『例えば、俺がヤマトを抱きたいって言ったらどうする?』 そんなことを聞いてみた。多分、嫌がるか困るんだろうなと思っていた俺は、 それも良いかもしれない、と、それでも構わない、と真摯に応えたヤマトに完全に敗北した。 ここまで真っ直ぐに求められて、それが嫌でないなら、俺も逃げずに向き合うべきだと。 それでも、こんな感情を抱くことは初めてで、キス以上の未知の行為に対する不安も色々あって、 俺はヤマトに待ってほしいと言って、ヤマトもそれを受け入れてくれた。 よくよく考えると、失敗したかもしれない。 もしヤマトが俺の言葉通り待ってくれるのだとしたら、覚悟が決まったとき、 俺は自分からヤマトに言わなければならない、ということだ。 いっそ勢いで行くところまで行ってしまった方が気持ちは楽かもしれない、と思いながらも、 男同士の行為は男女のそれよりも色々準備が必要だろうということはなんとなく判るので、 トラウマになるのも嫌だし、とそこまで考えて―――、 「…………シャワー浴びて、寝よう」 これ以上考えても仕方がない、俺は身体を起こして着替えを用意し、シャワールームに向かった。 身体を洗えば、肌に残るヤマトの手の感触も消えるだろうか、そんなことを思いながら。 手早くシャワーで汗を流した後、シャワールームから出て、力尽きたようにベッドに横になる。 結局、ヤマトの手の感触は消えていない。 寧ろ身体を洗うことで余計に思い出してしまった。 意識一つで自分がこんなに変わるとは思わなかった。 それからもう一つ、俺はすっかりヤマトを受け入れる気になっていることにも気付いた。 そう。ヤマトが相手なら、女の役割を受け入れてもいいと。 「…インターネットが使えるようになったら、調べてみないと……」 ぽつりと呟いて、目を閉じる。 ヤマトは経験があるらしいが、それはあくまでも男女間の真っ当な行為だろう。 男同士のあれこれを知っているとは思えない、というか知らないでいて欲しい。 こんなことで悩む日が来るとは思いもしなかったな、などと考えているうちに、 俺の意識はゆっくりと沈んでいった。 ふぁ、と大きな欠伸を零しながら昨日の報告書を手に部屋を出た。 早朝といっていい時間だったが、朝に弱い自分とは違いヤマトは起きているだろう。 俺はヤマトの私室へと足を向けた。 静まり返ったジプスの施設内に自分の足音だけが響く。 正直あまり寝た気がしない。普段よりも随分早く目覚めて、2度寝も出来なかった。 原因は言わずもがな。昨夜のあれこれは俺の安眠すら奪ってしまった。 そういえば、と思い出す。ヤマトと改めて話そうと思った切っ掛け、 昨夜、大阪本局に戻った俺に、出迎えたヤマトは常に無い強引さでキスしてきた。 切羽詰った様子に何かあったのかと思ったが、今考えてみると昨日は出かける前に ヤマトとすれ違ったきり、その時は2人きりではなかったのでヤマトからの接触は無かった。 それが原因だとしたら――――ヤマトの想いの深さを改めて実感する。 昨夜のキスを思い出して指先で唇をなぞる。唇を重ねられた瞬間、食われる、と思った。 熱い舌、熱い吐息。いつもは感じられる余裕がその時のヤマトには無かった。 一心に求めてくるヤマトの姿に、確かに自分の胸が熱くなったのを覚えている。 不安なのだろうか、ヤマトは。考えてみればヤマトの告白の後、 俺は常に受け身で、嫌ではないから受け入れている、そんな態度で接してきた。 自分から行動したのはヤマトに寝込みを襲われた時に半分寝惚けながらしたキスと、 昨夜のあれこれぐらいだと気付く。 自分の意思はほぼ固まった。自覚によってある欲求も芽生えてきている。 「俺、恋愛してるんだろうな…相手がヤマトなのが今でも信じられないけど」 そっと呟く。そう、名付けてしまえばこれは恋であり、愛だ。 そしてヤマトの俺に対する想いも同じものなんだろう。 男同士であっても、お互いにその想いが何か解らなくても。 どちらかが女であればここまで悩むことも無くあっさりと解ったのかもしれない。 ただ、俺は別に男女間ならばゴールである結婚のような、そんなものは望んでいない、と思う。 俺が願うのは、自分の命が尽きるその時まで、ヤマトの隣で生きていくこと。 結婚と何が違うんだ、と言われればうまく説明できない。 そういえばヤマトが昨夜言っていた、性別など些末な問題だ、というのが 結局自分にも当て嵌まるのかもしれない。 ヤマトが男でも女でも、俺はきっと惹かれたのだと思う。 アルコルが俺を『輝く者』と呼んだが、俺にとっての『輝く者』はヤマトだ。 ああ、ヤマトの俺に対する執心を笑えない。俺のヤマトに対する執心も相当なものだ。 問題はヤマトにそれがうまく伝わっていない、ということ。 ちゃんと伝えたつもりだったが、あの時は半分寝惚けていたのでヤマトは半信半疑なのかもしれない。 自分の態度が淡白なのも原因だろうか。ちょっと自覚はある。 こればかりは性格なので仕方がない。急に変えられるものではないが、 ヤマトの不安を除くために少しは自分から何か行動を起すのもいいかもしれない、 ぐるぐると考えているうちに、いつの間にか俺はヤマトの私室の前まで辿り着いていた。 「ヤマト、起きてる?」 声をかけてドアをノックすると、すぐにドアは開いた。 姿を見せたヤマトは僅かに目を瞠っていて、 「君がこの時間に起きているとは…何かあったのか?」 眉間に皺を寄せて問いかけてきた。 こんなに驚かれることだろうか、と俺は苦笑いしながら手に持っていた報告書をヤマトに押し付けて、 「なんか目が覚めたから昨日の報告がてら、一緒に朝食でもどうかと思って」 そう提案すると、ヤマトはすぐに目を細めて、 「では、君の朝食も用意させよう」 嬉しそうに微笑んで俺を部屋に迎え入れた。 ソファーに腰を下ろして、向かい側のソファーに座って報告書に目を通すヤマトをぼんやりと見る。 ヤマトは灰色のワイシャツに黒色のズボン、流石にコートは着ていなかったがいつも通りの姿で、 その顔も寝起きというものとは程遠く、いつ眠っているのだろうかと不思議に思う。 早くに目が覚めたといっても睡眠量は全然足りていない俺は、 気を抜けばうとうとしそうだと思いながら欠伸を必死に噛み殺していた。 「…やはり、早急に都市の結界を復活させねばならんな」 その声に視線を向けると、ヤマトは手にしていた報告書をテーブルにおいて俺と視線を合わせてきた。 「多分、暴走携帯のせいだろうけど、悪魔による被害が増える一方だな」 俺は昨日のことを思い出して溜息混じりに呟く。 ヤマトは頷いて、 「結界があれば、下位の悪魔に手を煩わされることは減るだろう。上位の悪魔には直接手を下さねばならんが」 そう言った後、目を伏せて何かを考えるように黙り込んだ。 昨日は東京で悪魔との戦闘に1日費やした。 悪魔の出現は各地で起きているが、昨日はジプスの局員では対処しきれないぐらいの悪魔が数箇所で現れ、 東京にいるダイチとイオ、2人だけでは心許無いということで、俺はマコトと一緒に応援に駆けつけた。 出現した悪魔の中には中位ぐらいのものもいて、なかなか骨が折れた。 悪魔を倒すだけでなく、出現の原因の1つでもある暴走携帯の所在を突き止めるのにも一苦労で、 大まかな場所はジプスにある設備で分かっても、結局現地で地道に探す必要が出てくる。 俺とマコト、ダイチとイオ、二手に分かれて、片方は悪魔と戦い、片方は暴走携帯を探す、 というように役割分担しながら東京を駆け回った。 ある程度落ち着いた頃にはすっかり日も暮れて、マコトとはジプス東京支局で別れて、 俺はダイチ、イオ、2人と食事を取りつつ話し込んでいるうちにすっかり遅くなってしまって、 その後は昨夜のあれこれに繋がる。 俺はソファーに身体を沈めて、考え事をするヤマトの顔を見詰めた。 ヤマトは美人だ。もう何度か思ったが、美しい人だ。 女性的、という意味ではない。ちゃんと一目見て男であることは判る。 初めて対面した時は、生きているという熱があまり感じられなくて、 どこか人形のような美しさだと思った。 今はそうは思わない。判りにくくても喜怒哀楽がある、血の通った人間だと知っている。 そんな人間のヤマトを俺は好きになった。 ふいにヤマトが顔を上げて僅かに首を傾げた。 「何か、言いたいことでもあるのか?」 どうやら俺の視線が気になったらしい。特に言いたいことは無かった筈だが、 「キスしたいなって思って見てた」 俺の口からはそんな言葉が零れていた。 言ってしまってから、それが本当に今の自分の望みであることに気付いて、 俺は立ち上がるとヤマトの傍に歩み寄った。 ヤマトは何度か瞬いて、俺の行動を目で追う。 隣に立った俺を見上げてくるヤマトの視線が新鮮だった。 ソファーに座って顔を少し上向けているヤマトの顎に指先を滑らせて、 俺は身を屈めてそのまま自分の顔を近づけた。 互いの唇が重なる直前で瞼を閉じて、その感触を味わう。 吐息、熱、濡れた音。何度か角度を変えて、ちゅ、ちゅ、と軽く啄んで、すぐに顔を離した。 瞼を開けば、随分無防備なヤマトの顔が目前にある。 「……朝から君には驚かされてばかりだな」 ふ、と1つ息を吐いてから言ったヤマトの顔は柔らかい。 「こういったことを望んでいるのは、私だけかと思っていたが…」 続けられたヤマトの言葉に、やっぱり不安だったのかと少しだけ申し訳ない気持ちになって、 俺はヤマトの正面に立って、膝の上に、ヤマトの腰を両脚で挟むようにして座ってそのまま抱きついた。 「今まで自分の気持ちも良く解ってなかったんだよ。  普通に女の子が好きだと思ってたのに、気付いたらヤマトのことが一番大事になってて、  それでも暫くは、友愛みたいなものだと思ってた。  考えてみれば、ヤマトに初めてキスされた時、嫌じゃなかったことが全てだったんだよな。  自分でも遠回りしたと思ってる」 漸く辿り着いた答えをヤマトにぶつけると、ヤマトはフ、と笑って、 「では、今は私を求めてくれるのだな」 俺の耳元で囁いてから項に熱い吐息と共に、多分唇が押し当てられた。 ぞく、と妙な痺れが身体の中を駆け巡る。 俺も負けじとヤマトの項を覆う髪を払い除けて、晒された白い肌に唇を押し当てた。 その肌の滑らかさに驚いて、もっと触れてみたいと思う。 昨夜、熱心に俺の肌に触れていたヤマトの気持ちが解った。 ヤマトの肌の感触に感動していると、もぞりと胸元で動く何かに気付く。 少し身体を離して確認すると、ヤマトの手が衣服越しに俺の胸を撫でていた。 僅かな凹凸を確認するように動く手が少しくすぐったい。 「直に触れても?」 ヤマトの問いかけに俺は一度目を閉じて、 「上半身だけなら」 きっちり釘を刺しておいた。 俺の返答が予測されていたのかヤマトは口元に笑みを浮かべて、 躊躇うことなく俺の上着の裾から片手を忍び込ませてきた。 手袋を着けていないヤマトの体温の低い手が素肌に触れる。 その手はすぐに俺の体温に馴染んで、不思議な気持ちになる。 ヤマトは俺の胸を撫でながら頬にキスしてきた。 そのまま唇は滑って首元に吸い付かれる。ん、と妙な声が出た。 胸を撫でる手はそのままに、空いた方の手が俺の背中をこちらは衣服越しに撫でる。 そうして何度か撫でられるうちに硬くなった胸の先端を、ヤマトの指が軽く引っ掻く。 びくりと身体が小さく跳ねた。 「、あ…っ」 溜息のような声が漏れる。俺のそんな反応に気を良くしたのか、 ヤマトは指先で何度も硬くなったそこに触れてきた。 擦ったり、押し潰したり、摘んだり。強弱をつけて与えられるそれに妙な気分になってくる。 「男でも感じるようだな」 ヤマトの声に、いつの間にか閉じていた瞼を開いて視線を合わせた。 声にも表情にも、俺をからかうような色は見えない。 「ん……、痛痒いような、変な、感じ」 だから俺も素直に感じるままを伝えた。 言葉だけでなく、実際にどんな感じなのかヤマトにも知ってもらおうと、 俺はヤマトのシャツのボタンに手を伸ばした。 動きを遮る素振りがないのを確認して、半分ほどボタンを外してから ヤマトが俺にしているのと同じ様に、片手をその白い素肌に這わせた。 ふ、とヤマトが小さく息を零す。そろりと手を動かして、胸の辺りを撫で擦る。 胸の一部が硬くしこってきたのが手のひらから伝わって、そこをそっと指先で擽る。 「……っ、確かに、妙な感じがするものだな」 しみじみとヤマトが呟くのが聞こえて、思わず小さく噴出してしまった。 ヤマトも同じ様に喉の奥で小さく笑う。 お互いの胸を撫で合ったまま、俺達は顔を合わせて再び唇を重ねた。 今度は深く、舌を絡めあう。ぴちゃ、と濡れた音が耳に届いて下腹部あたりがじんと疼いた。 口内を舐めあいながら、互いの手が互いの身体に触れる。 ヤマトの手のひらは胸から肋骨の辺りを確かめるように撫でて、腹に下りてくる。 俺もヤマトの動きをなぞる様に、軽く汗ばんできた気がする手のひらでヤマトの身体を撫でていく。 「っひぁ!」 腹の中心へ与えられた刺激にびくりと身体が跳ねて、変な声と共に重ねていた唇を離してヤマトを見た。 「どうした」 「どうした、じゃなくてっ、どこに、指入れて…っ」 ヤマトは悪戯に成功した時の子供のような顔で、俺の臍に小指を入れていた。 小刻みに指を揺らされて、なんともいえない感覚がじわじわと全身へと伝わっていく。 止める気配のないそれに対して、俺はお返しとばかりにヤマトの身体を撫でていた手を腹に移動させて、 小さな窪みに同じように小指を挿しいれた。小さく息を呑んだヤマトは、 「負けず嫌いだな、君は」 可笑しそうに口元を弛めて言ってくる。 「今更、だろ」 俺も口元だけで笑って、顔を傾けてヤマトの下唇に噛み付いた。 その時、ピーッと室内に電子音が鳴り響いた。 何事かと目を瞬かせていると、 「朝食の準備が出来たのだろう」 どこか名残惜しげに告げたヤマトに、そっか、と返して俺はヤマトの膝から素早く降りた。 ヤマトは肌蹴られたシャツのボタンをきっちり上まで留めてから、部屋のドアの方へと歩いていった。 気付かないうちにそれなりに時間が経っていたらしい。 ポケットに入れていた携帯を確認すると、確かに朝食に相応しい時間になっていた。 『…ま、助かったといえば助かったのか』 心の中で呟く。あと少し続けていれば、誤魔化せない男の部分が反応していた気がする。 『擦りあい…ぐらいなら出来るかも』 そんな、朝には相応しくないことを考えていると、漂ってきた美味しそうな匂いに腹がぐうと鳴った。 用意された朝食は和食だった。 なんとなく洋食のイメージがあったので少し驚きつつ、ヤマトと共に席に着いた。 白い御飯、豆腐とワカメのお味噌汁、だし巻き卵、金平牛蒡の小鉢、鮭の塩焼き。 デザートにフルーツのヨーグルト。 いただきますと手を合わせると、ヤマトも手だけ合わせてから箸を持った。 「パンの方が良かったか?」 「時間が無い時はパンの方がいいけど、ゆっくり食べられるなら御飯かな。  腹持ちは御飯の方がいいしね」 御飯を口にする前に少しだけ話して、あとは食事時のマナーなのだろう、 ヤマトは口を閉ざして食べ始めたので、俺も黙って箸を動かした。 ジプスの食堂で食べるものよりも何となく上品な味付けの気がする。 おそらくヤマトお抱えの料理人がいるんだろうな、と思いつつ黙々と口に運んだ。 どの料理も見たことがあるし食べたこともあるが美味しかった。 デザートまでぺろりと平らげて、ごちそうさまでしたと心を込めて食後の挨拶をした。 「気持ちの良い食べっぷりだな」 同じく食事を終えたヤマトが口元をナプキンで拭いながら言う。 「んー、普通だと思うけど。ま、美味しかったからそう見えたのかも」 俺はお茶を飲みつつ答えた。口に合ったようで良かったとヤマトからの安堵の声が耳に届く。 その後、ユキト、と名前を呼ぶ声に俺はヤマトと視線を合わせた。 「明日、富士山へ視察に行く。君にも同行してもらう」 ヤマトの言葉にぱちりと一度瞬いてから、 「それはいいけど、富士山…もしかして龍脈絡み?」 そう問いかけると、そうだとヤマトは頷いてから話の続きを口にした。 「クサビを抜いた際に富士山は噴火し、おそらく富士のターミナルも施設も  使い物にはならないだろうが、念の為調べに行く」 「調べに行く…ってどうやって?」 「富士の麓までは一般的な交通手段を使う。その先は霊鳥の力を使えば良いだろう」 「……嫌な予感がするんだけど」 「察しが良いな、流石はユキトだ。  龍脈は富士山から広がるように流れている。現在は悪魔の溜まり場になっている可能性が高い」 「なるほど…それなら俺とヤマト、2人だけで向かった方が良さそうだな」 「そういうことだ。明日はおそらく本局に戻るのは無理だろう。  富士の近くの宿をとっておく、君もそのつもりで」 「了解」 話を聞き終えて、ふと思ったことに自然と頬が緩んだ。 正面のヤマトが訝しげな顔で何だ、と訊いてくる。 「不謹慎かもしれないけど、ヤマトと2人で旅行に行くみたいだ、  って思ったらちょっと嬉しくなった。悪魔退治で大変だろうけどさ」 思ったことをそのまま伝えると、ヤマトは何回か瞬いた後、目を閉じて小さく頷いて、 「そうか、そうだな。そのように考えると、確かに私も楽しみだ」 俺と視線を合わせて、柔らかく微笑んだ。 ヤマトはあの審判の日々の中でも俺に対しては隙のある表情を見せてくれていたが、 ここ最近はそれが随分多くなった気がして、色々心臓に悪い。 落ち着かない気分になるし、どうしようもなく嬉しくも思う。 なんだかまたキスしたい気分になってどうしようかと考えていると いつの間にか席を立っていたヤマトが俺の隣に居て、顔を上げた俺の唇にちゅっと音を立ててキスをしてきた。 「ヤマト」 「物欲しげな顔をしていた。私も口付けたいと思った。……違ったか?」 「……違わない」 そんなに判りやすく顔に出ていたのかと小さく笑って、俺は応えるように立ち上がってヤマトの首に腕を回した。 ヤマトの腕は俺の腰に回される。身体を密着させて、ヤマトとの身長差の分顔を上向ければすぐに唇は重なる。 本当に、昨夜あれだけ悩んだことが嘘のようだと思いながら、 俺は愛しい気持ちを込めて、目の前の男の唇を柔らかく吸った。 とりあえず、まだ人前ではやらないレベルです。 さて、これからどうなるか…。 1:その年のクリスマスあたりに最後までいく 2:次の年のヤマトの誕生日に最後までいく 3:いっそヤマトが20歳になる誕生日までお預け 全ては主人公次第。