白ねーさん(士郎と弓)





セイバーは頻りに肩を揉んでいた。 「…肩、凝ってるのか?」 気になったのでそう聞けば。 「胸が重くってなぁ。」 そう言っていつもの、――いつもよりも少し幼い貌で、にこりと笑って。 途端にまた、意識してしまう。 セイバーはセイバーだ。 それは解ってる。 解ってはいるが、あまりにも、今のセイバーは女の人、だった。 全体的に丸みを帯びた体、何よりもその、胸、に意識が向いてしまう。 今セイバーは私服姿で。 いつも通りの白いシャツが、なんともいえない。 シャツのボタンが弾けそうだ。 つまり、それほどまでにセイバーの胸は大きかった。 胡座をかく、その姿もいつも通りのはずなのに、妙な色気を感じてしまう。 いくらアーチャーやセイバーと、あんなことをしていようと、 もともとはごく普通の性癖だった俺としては、今のセイバーの姿は目の毒でしかない。 あと、その、なんだ。 「なあ、セイバー…。」 「ん?」 「あのさ…」 言いかけて一度口を閉じる。目を逸らす。 情けない話だが、結構ぎりぎりだ。 「何だよ、士郎?」 「っ!」 いつの間にかセイバーが俺の目の前まで、にじり寄ってきていた。 思わず直視してしまって、ぼっ、と顔に熱が集まる。 そんな俺を見て、どこか性質の悪い笑みを見せるセイバー。 嫌な予感がして、俺は立ち上がり逃げようとしたが―――遅かった。 首にセイバーの腕が巻きついてきて、そのまま引き寄せられて。 「う、あ」 思考が停止する。 柔らかいだけではない、確かな弾力。 俺はセイバーの胸に、顔を埋めていた。 「どうだ、気持ち、イイか?」 上からセイバーの愉しそうな声。 「――っ!!」 声が出なかった。 確かに気持ちいい……じゃ、ないっ! 俺の体はしっかりとセイバーに抱き込まれていて。 引き剥がそうとセイバーの腕を掴んで、いつもよりも細い、その事実に混乱して、 ばっ、とすぐに手を離す。 「セイ、バー!離せ…って」 「何だよ、こんな経験なかなか出来ないぞ。遠慮するな。」 「からかってる、だけだろっ!!」 「心外だな。俺はおまえを可愛がってるだけだよ。」 「っ」 勝てない。勝てるわけがない。 というか、いきが、できないん、です が。 「…その辺りにしておけ。それをお前に殺されては面白くない。」 「ん、おお。悪い士郎、大丈夫か?」 「っはあっ」 拘束が緩んだので慌てて俺はセイバーの胸から顔を上げた。 肺に空気を取り込む。 本気で苦しかった。 それより、いたんだよな、アーチャー。 いたんならさっさと止めろよ、という不満を込めて、 俺は素知らぬ顔をしている自分のサーヴァントを睨みつけた。 「うーん、意外と凶器になりそうだな。」 セイバーはそう口にしながら自身の胸を両手で掴んで持ち上げたりしていて。 勘弁してほしい。 俺がこんなに動揺しているのに、アーチャーは呆れた風だがいつもと変わらない様子なのが悔しいので。 「セイバー。アーチャーもさっきのやつ、やって欲しいみたいだぞ。」 俺はセイバーの矛先がアーチャーに向くように、そんなことを言ってみた。 「そうなのか?アーチャー、お前も男だったんだなぁ。」 「っ、衛宮士郎、貴様。」 セイバーはどうやら俺の言葉にのってくれるようだ。 アーチャーは少しだけ焦った声を出して俺を睨んでくる。 「遠慮しなくてもいいぞ、セイバー。」 「別に遠慮してるわけじゃなかったんだけどな。お前の反応も可愛いし。  ま、折角のマスターからのお許しだ。」 俺とセイバーは目を合わせて頷く。 「……付き合う義理は無い。」 アーチャーはこれ見よがしに溜息を吐きつつ、居間から出ようとしたが。 「逃がすか!」 まるで戦闘時の動きのような、むしろセイバーは普段より速い動きで、 アーチャーをあっという間に拘束した。 固まるアーチャー。 どうも、エミヤシロウというのは、こういった類のことに弱いらしい。 アーチャーを見て、女誑しになったなと思っていたが、根本的な所は変わらないということだろうか。 セイバーはちょっと、色々違う気もするが。 アーチャーの顔を自身の胸に押し付けているセイバーを見ると、随分嬉しそうな貌をしていて。 俺もつられて嬉しくなる。 パスを通してアーチャーの複雑な感情が流れてくる。 嫌というわけではないらしい。 「…気が済んだのならば、離せ。」 セイバーの胸元で、アーチャーがくぐもった声で淡々と言った。 うーん残念、などと言いながらセイバーはアーチャーをあっさり解放する。 「で、感想は?気持ち良かっただろ。」 セイバーが人の悪い笑みを浮かべながらアーチャーに聞く。 アーチャーはついと視線をセイバーと合わせ、 「否定はせん。」 それだけさらりと言った。 俺には無理なその対応に、少しだけ悔しく思っていると。 「これで寝てみるのも、面白そうだな。」 なあ士郎、と。 またセイバーが爆弾を落としてきた。 …早く、元に、戻ってほしい。 心臓に悪すぎる。 流せないほどにセイバーは、魅力的すぎた。 あと、下が透けて見えるから、せめて濃い色のシャツを、着てくれ。 なんだろう。士白への伏線か?