「なんだ坊主、オマエ、女とやったことねぇのか。」 ランサーが顔に驚きを滲ませる。 だが、すぐに納得したように頷く男を殴りたくなったが、それは叶わない。 俺、なんで頷いたんだろう、なんて後悔しても、遅い。 適当に入ったホテルのベッド。 俺はランサーに押し倒されている。 両手はランサーに掴まれてベッドに押し付けられて、身動きがとれない。 ランサーは俺の上に覆い被さってきて、はたと気づいたように俺に訊いてきた。 所謂、経験はあるのかと。 あったら今、こんなことにはなっていないだろう。 どうせすぐにバレるような嘘をつく気にもなれず、俺は正直に無いと答えた。 そうしたら先程の反応が返ってきたわけなのだが。 「女とやったことねぇのに、先に男にやられちまうわけか。」 「元凶が言うな。」 ランサーの言い様にむっとして、つい文句を言ったら、違いないと男は軽く笑う。 「で、坊主は本当にそれで良いのか?」 ランサーが再度、確認してくる。 「…今更、どうしようもないだろ。」 そう、ランサーが止める気が無いなら、 俺を抱きたいと言ったランサーの言葉に頷いてしまった以上、逃げるつもりは無い。 ランサーの気が変わったっていうなら、それはそれでほっとするけど、そんなことは無さそうだし。 ランサーは何かを考え込んでいる。 ちょっと意外だった。 俺に経験があろうとなかろうと、ランサーには直接関係はないっていうのに。 気にしてくれているようなのが。 「…そうだな。いっそ先に、坊主がやるか?」 「………は?」 ランサーが妙なことを、言ってきた。 「何だって?」 「坊主だって男だ。やりてぇって思うだろ。……まさか、思わないのか?」 「そんなわけあるか。」 「だよな。だから、先にやらせてやるって言ってんだよ。」 「…先にやらせてやる、って」 「先に坊主が、オレに突っ込んでいいって言ってんだが。」 「……………なんでさ。」 ようやくランサーの言っている事を理解して――――理解、できない。 なんでそんなことを、言ってるんだろう。 「女がいるなら話は別だが。まぁそれは無さそうだしな。 オレ相手に勃たねぇならこの話は無しになるが。 坊主になら、やらせてやってもいいぜ。」 実に淡々と、何でもないことのように、ランサーは言ってくる。 俺が、ランサーを、抱く。 予想外の展開だ。 しかも、おそらくランサーを抱いた後、今度は俺がランサーに抱かれるんだろう。 あ、目眩がする。 ……が。 そう言われて。 俺だって男だから、勿論興味はあって。 ランサーを見る。 自分よりも背は高いし、体つきだって俺よりしっかりしているが。 何か、心臓が、跳ねた。 見下ろしてくる目は、俺の答えを待つようで。 「……いい、のか?」 結局、俺はそうランサーに訊いていた。 ランサーは笑って、 「だから、さっきからそう言ってるじゃねぇか。」 言って、俺の上から体を退けた。 ばさ、とランサーが上着を脱ぎだしたので、俺も同じように上着を脱いだ。 そうして顔を合わせる。 「えっ、と……」 どうしたものかと言葉を濁す俺に、 「坊主の好きにすりゃいい。」 ランサーはベッドの上に足を投げ出した格好で座って、俺を促すように手招きしてくる。 俺は恐る恐る近付いて、ランサーの正面に体を移動させた。 膝立ちになってランサーの顔を少し上から見下ろして。 目を開いたまま、顔を近づけて、ランサーの唇に自分の唇を押し付けてみた。 至近距離でランサーと視線が合う。 少し唇を離して様子を窺うと、ランサーがちらと舌を見せた。 誘われるように俺も舌を出して、ランサーの舌に触れて。 ランサーが俺の腰を抱き寄せてくるから、俺はランサーの後頭部に手をまわして引き寄せて。 深く口付けを交わす。 抵抗を感じないのが、不思議だった。 自然に俺は、ランサーと唾液の交換なんてことをしていた。 ――――ああ、そうか。 「俺、ランサーのこと、好きなんだな。」 ランサーと唇を合わせたまま、ぽつりと呟く。 ランサーは、ぱちと瞬きして、可笑しそうに目を細めた。 「坊主、オマエ、鈍いなァ。」 「…む。悪かったな。」 ランサーの言葉を遮るように俺はもう一度深く口付けて。 時折、吐息と共に零れる声にぞくりとする。 唇を吸いながら、俺は手をランサーの肌に滑らせていった。 胸を手のひらで撫でて、唇をあてて、肌を吸って。 言葉通り、ランサーは俺の好きにさせてくれた。 多少はある知識を総動員させながら―勿論それは、普通に男女間で行う場合の知識だったが ―俺はランサーに触れた。 時々、僅かに呼吸を乱すランサーを意識しながら。 正直、羨ましいという気持ちの方が、強かった。 自分よりも背が高く、筋肉もしっかりついていて。 引き締まったいい体をしているな、と思うと。 羨ましいやら、悔しいやらで、眉間につい力をこめてしまう。 喉の奥で笑うランサーに目を向けると。 「複雑そうな顔だな、坊主。」 そう言って俺の頬を撫でてくるから。 その手をとって、指を軽く噛んでやった。 「…ほっといてくれ。」 呟いた俺を、ランサーは目を細めて見てくる。 何となく視線を合わせられず、俺は再びランサーの体に触れ始めた。 腹に唇を押し付けて、舐める。 ランサーのズボンに手をやって、流れのままに前を開き、ランサーの中心に触れた。 僅かな兆しを見せていたそれに、ちゃんと感じてくれていたのだとわかって、少し嬉しく思う。 そのまま顔を近づけた。嫌だとは思わなかった。 「…無理にすることは、ねぇぞ。オレは嬉しいがな。」 ランサーが声をかけてくる。 「別に、無理はしてない。したいと思ったんだけど。……変か?」 「可笑しかねぇけどよ。……ただされっぱなしってのも暇だし。オレもしてやる。」 「…え。」 ランサーの言葉に、俺は目を瞬かせた。 してやる…って、それはつまり。 「坊主。こっちに足向けて、オレの横に寝ろ。」 ランサーはぽんぽんと自分の隣を叩いて促してくる。 えーと、それはつまり、所謂69、というやつ…か? 俺がなかなか動かないのに焦れたのか、ランサーは徐に手を伸ばしてきて、俺の足首を掴んで。 「う、わっ、」 ぐい、と思い切り引っ張られて、俺は驚き、間抜けな声を上げた。 「ついでに慣らせよ。流血が好みってんなら、まぁ止めねえがな。」 好きにしろ、とランサーは軽く言って、 あっという間に俺の前を寛げて、俺の中心に顔を、埋めてきた。 下着から引き出され、ランサーの口内に包まれ、る。 「っ、あ!」 ぞくんと腰が震えた。 熱く濡れた感触。滑るランサーの舌が、俺の熱をどんどん煽って、いく。 「っ…」 湧き上がる快感に抗いながら、俺もランサーの熱に顔を寄せた。 このままだと、自分の方が先に達してしまいそうで。 それはあまりにも情けない。 口を開けてランサーの中心を含む。 勿論こんなことをするのは初めてで、俺は自然とランサーの動きをなぞっていた。 自分の中心に与えられる愛撫を真似て。 口内に広がってくる独特の苦味も、気にならなかった。 正直、よくわからなくなる 下肢から全身を痺れるような快楽が、俺の体を蝕んでいく。 口に含んだランサーの熱は質量を増していくから、感じてくれているのだとわかるが、 どうしたってランサーの方は、余裕があるように感じて悔しい。 ふっ、と思い出す。 『…あ、慣らさない、と。』 ランサーの熱の、竿の部分を擦っていた手はもう十分に濡れていて。 俺は右手を奥に滑らせていった。 『ここ、だよな』 そうして辿り着いた箇所を、そっと指で擽った。 ランサーの体が少し跳ねる。 だが、それだけで咎める声は無い。 かわりにランサーは俺の熱を、じゅ、と吸い上げてきて。 「ん……!!」 ぎりぎりのところで、なんとか衝動を堪えた。 なんとなく、下から含み笑いが聞こえたような気がして。 俺はお返しとばかりにランサーのそれに軽く歯を立てて、指を少し、そこに埋めた。 く、と息をつめる気配。 「ぁ、…大丈夫、か?」 ランサーのものから口を離し、念の為訊いてみる。 「ああ。構うな。…続けろ。」 ランサーも俺から口を外して、軽く言ってきて。 「何ならオマエも、慣らしとくか?」 そんなことを言いながら、ランサーは俺の後ろに、つ、と指を這わせてきた。 それで改めて、俺も後で同じ目に合うのだと、思い知った。 「……後にしてくれ。絶対、負ける。」 強がっても仕方がない。俺はランサーにそう頼んだ。 今やられたら、絶対に俺の方が呑まれてしまうのは目に見えている。 ランサーはくつくつ笑って、 「わかった。後でな。」 言って、再び俺の中心に顔を寄せた。 色々思う所はあったが、とりあえず俺も再開する。 ランサーのなかに、少しずつ指を埋めていく。 入口は硬くて狭い。だが、なかは熱く、俺の指を締め付けてきて。 本当にできるのか不安もあるが、それ以上に、なかの熱をもっと感じてみたいとも、思った。 自分の唾液とランサーの中心から零れるものをつかって、ゆっくり解していく。 マッサージをするみたいに。 時々ランサーが熱い息を吐き出す音を聞く。 それが苦痛なのか、快楽なのかは、俺には判別できなかった。 「…そろそろ、いい、だろ。」 ランサーの声に、俺は埋めていた指を引き抜いた。 ずっと中心の熱を弄られ続けていたが、どうにか吐き出すのを堪えることができた。 ランサー自身も高まってはいるが、達しはしていない。 ランサーは枕を掴んでそれを自分の腰の下に潜り込ませた。 そうすることで、ランサーの腰は少し浮いて。 促されるままに、俺はランサーの足の間に体を入れる。 「…なんて、いうか。全然、抵抗無いんだな。」 男に侵されることに、とは口にしなかったが。 俺は自分が抱かれるのだと思うと、今でもやっぱり腰がひけるのに。 ランサーはあっさり受け入れているので、ついそんな風に声に出してしまっていた。 そんな俺をランサーは真っ直ぐに見てきて。 「言ったろ。オマエなら、構わねぇってな。 別に誰に対してもってわけじゃない。オレも相手ぐらい、選ぶぜ。」 そう言って、笑みを見せるから。 俺はこの男には敵わないなと、心底思った。 今からこいつを抱いて、抱かれるのだと、強く意識する。 ごくんと口内に溜まった唾液を飲み込んで。 俺はランサーの、先程解した場所に、自分の熱をあてがった。 「…、いく、ぞ。」 「ああ。」 ランサーの了承を得て、俺は。 ぐ、と腰を押し付けるようにして、ランサーのなかを、穿ってい…――― 「…っ、く、ぅ……!!!」 「っ、は」 …甘くみていた。 そこは、物凄く狭くて、ぎちぎちと締め付けてきて。 とにかく、きつかった。痛かった。 実際、呻いたのは貫かれたランサーではなく、貫いた俺自身で。 普通はランサーの立場の方が辛いと思うのに、ランサーは僅かに眉を寄せて、 汗を少し浮かべるだけで、受け入れるようにゆっくり呼吸している。 「…、あー、辛そうだな、坊主…」 呑気なランサーの声。 「っ、あ、アンタ、何で、そんな平気そう、なんだ、よっ!」 納得いかず、俺は文句を言う。 やっと半分埋まった。 ああ、くそ。なんか涙目になってないか、俺。 「別に、平気ってわけでも、ねえけどな。ま、体、裂かれてるわけじゃねーし。」 ランサーは楽しそうに俺を見てくる。 「頑張れよ坊主。まだ全部、入って、ねぇぞ。」 「っ、わか、ってる…! もう少し、力、抜けよ…っ」 「抜いてんだがなァ…」 「ぅ、っ…く」 「しかし、何だ。どっちが、突っ込んでんのか、わからねぇな、コレ。」 「っ、そんなの、俺が、ききたい…っ」 色気の無い言葉の応酬。 俺はとにかく必死で、ランサーは気楽で。 それでも少しずつ、俺はランサーのなかに入っていった。 だんだん、きつくて痛みしかなかった中に、それ以外のものも、感じ始める。 そして。 「っ、は…ァ、…入っ、た」 「入った、な。」 やっと、全部おさめることが、できた。 「入れて終わり、じゃねえよな、坊主。」 「わかっ、てる、けど……ちょっと、休ませて、くれ…」 ランサーの突っ込みに力無く答えて、俺ははあと大きく息を吐き出した。 なかの狭さに慣れてくると、なんともいえない感覚が腰からじわじわ這い上がってきた。 ようやく、気持ちがいいと感じられるようになってくる。 ランサーのなかが、俺に熱く絡みついて、持っていかれそうになる。 汗か涙かわからないものが、俺の頬を伝う。 ランサーが手を伸ばしてきて、俺の頬を撫でた。 「なぁ、気持ち、イイか。」 そう、訊いてくるから。俺は頷いた。 そうだ。気持ち、いい。 「…ランサー、は。きつく、ないのか…」 きついにきまってる。 わかっていながらも、俺はそう訊いていた。 「まだ、イイとは、言えねぇが、これからの坊主次第、だろ。しかし、悦い貌する……可愛いもんだ。」 ランサーはそんなことを言ってきて。 なんか本当に、俺がランサーに抱かれているみたいな気分になってくる。 この後、実際にそうなるわけだが…。 「…男が可愛いなんて言われて、嬉しいと思うか。」 「褒めてんだから、素直に受け取っとけよ。」 俺の不満はさらりと流されて。 ランサーの手が、俺の腰を撫でてきた。 ぞく、と甘い痺れが走る。 「さて、しっかり動いて、ちゃんとオレも、悦くしてくれよ、坊主。」 ランサーはそう口にすると、俺の動きを誘うように、腰を軽く揺らしてきて。 「っ、努力は、する…」 上がりかけた声をなんとか耐えて、頷いて。 俺はゆっくり腰を動かし始めた。 引いて、押し込む。 それを繰り返す。 時折濡れた音が、繋がっている部分から聞こえる。 それに煽られるように、動きに遠慮が無くなっていく。 二人分の呼吸、熱。 「ラン、サー」 「っ、ん…?」 「な、あ。アンタ、も、きもち、いい…か…?」 「…ああ、イイ、ぜ。」 「なら、よかった。」 呼吸の合間に訊いて、ちゃんとランサーも感じてくれているのだとわかって、嬉しい。 ランサーの熱に、融かされる。 そうして近付く臨界点。 そろそろだと、俺はランサーのなかから引き抜こうとして――。 「っ!?」 ランサーに抱きつかれる。 体を引き寄せられて、ランサーの両足が俺の腰を挟み込んで。 そして何よりも、なかにある俺の熱を、ランサーが強く締め付けてき、て。 「っ、ランサーっ、も、出る……っ」 焦る俺のことなど関係ないとでもいうように、ランサーはべろと俺の耳朶を舐めてきて。 「我慢、すんなよ。ほら、イけって。」 囁かれて。 必死に耐えていた何かが、砕ける音がしたような、気がした。 「っ、ァ……―――!!!」 掠れた声をあげながら、俺はランサーのなかに、熱を吐き出した。 ランサーの体が小さく跳ねる。 溜息のような声が僅かに聞こえて。 腹に熱い飛沫。 ランサーの熱は、俺の腹にあたっていたなと思い返して。 お互いに達したのだと理解して、俺はそのままランサーの上に覆い被さった。 脱力感と疲労感。はあと息を吐く。 「……悪い。」 なかで出してしまったことが後ろめたくて、俺はランサーに謝った。…が、 「折角の魔力、外に吐き出すなんざ、勿体ねぇだろ。」 なかなか旨かったぜ、などとランサーは言ってきた。 俺は、ランサーがとった行動の理由を知り。 ……確かに、精は、魔力の塊なわけだが。 ランサーが気にしてないならいいかと頭を切り替えて、 俺は体を起こしてランサーのなかから自身を引き抜く。 名残惜しいような気持ちと、開放感と。 同時に感じて少し複雑だ。 もう一度、はぁっと息を吐き出す。 ――と、ぐら、と体がベッドに沈んだ。 原因は一つ。ランサーが俺の腕を掴んで、引き倒してきたからだ。 「ちょ、ランサーっ」 「今度は、オレの番だろ。」 「っ!もう、やるのか…!?」 「疲れてんなら、動く必要はねぇぜ。オレが全部やってやるから。 安心しろ。さっきの倍は悦くしてやるよ…」 「っ」 耳元で囁かれて、舐められる。 ランサーの手が、唇が、俺の体を這う。 呑まれるのは、あっという間だった。 そして俺は、ランサーにたっぷりと時間をかけて、抱かれた。 言葉通りに、俺がランサーを抱いた時以上の快楽を、体に教え込まれて―――。 「時間経つと、結構腰にくるもんだな。」 隣でランサーが自分の腰を撫でながらそんな風に言うのを、 俺はベッドにぐったり沈みこんで、聞いた。 結構どころの話ではなく。 なんでそんなに元気なんだと問い詰めたくなる。 正直、受け入れる方がこんなにキツいとは思わなかった。 それはランサーの様子を見ていたせいなのだが。 実際、自分がやられる側になると、 痛いのか気持ちがいいのか、混乱するほどの激しい波に浚われて、 なかの、ある箇所―多分あれが前立腺だろう―を熱で抉られると、気が狂いそうなほど、感じた。 ランサーだって同じように感じていた筈なのに。 結局、散々乱されたのは俺だけ、という有様だ。 「……ずる、い。」 ぼそりと呟いた声は、顔を埋めたシーツの中に消えた。 だが、それはランサーの耳に届いたらしい。 可笑しそうに喉奥で笑う声と共に、俺の頭を撫でるランサーの手の温もり。 それに目を細めてから、俺は目を閉じた。 本当に、疲れた。 こんな事はもうごめんだと思いながら、俺は意識を手放していく。 完全に意識が途切れるまで、俺の髪を梳くランサーの指先を、ずっと感じていて。 どうにも、照れくさかった。 少し前のチャで、槍なら士郎の筆おろししてくれそうだ、とかいう話になって。 ああ、そのネタなら士槍できそうだなーなどと思ったので、書いてみました。 槍士前提の士槍なので、とにかく槍士っぽい士槍を目指した結果。 こんなわけのわからないことになりました。楽しかったです…。 士郎は受のまま、槍は攻のまま。 ちなみに、レアルタ設定ですね、これ。