おやすみなさい
※死にネタ
柳洞寺地下。崩れ行くそこを、ひとりの白い少女が歩く。
そして最深部に辿りついた。
そこには、ふたつの、少し前まで人であったものが横たわっていた。
手前の黒い服を身にまとった者には、一度だけ視線をなげて通り過ぎ、
より最深部に近い、崩壊も酷い地に横たわる人物のもとに歩み寄り。
「…シロウの、ばか。」
ぽつりと少女、イリヤは呟いた。
それは衛宮士郎の抜け殻。身体はまだかろうじて生きているようだが、
心がもう、壊れて、消えてしまっている。開いたままの瞳は虚ろ。
イリヤは膝をつき、汚れることも、士郎の身体から突き出た鋼に傷つくことも構わず、
士郎に手を差し伸べて、頭を自分の膝に置いた。髪をそっと、撫でる。
「シロウに、生きてて、ほしかったよ。」
どうしてあと少し、待っていてくれなかったの、と小さく不満を零す。
士郎はわかっていたはずなのに。何度目の投影で、自分がなくなってしまうのか。
ああ、それでも。
「うん。頑張ったね、シロウ。」
言って愛おしげに頬に触れ。
「アーチャー、あなたも、頑張ったね。」
シロウの左腕―アーチャーの腕。
未だ、身体を生かそうと、ギチギチと音をたてている、突き出た鋼にも、触れた。
そうしてイリヤは士郎の頭を抱きこむように覆いかぶさって。
「もう、やすんでもいいよ。おやすみなさい、シロウ。」
やさしく、やさしく、囁いた。
まるで応えるように、ギチン、と鋼が、鳴った。
最期に士郎は、闇に囚われた。
言峰綺礼の持つ闇に。
神父にむけて、最後に投げかけた言葉。
その言葉が呪縛になったかのように。
強迫観念にも似た想いで。
アレは自分自身が壊さねばならないと。
それだけが強く、頭に残り。
アレを消せば、桜は笑える。
あいつの最期の希みのアレを消すことで、完全に言峰綺礼と決別できる。
本来抱くべきだった想い。
生きて帰るという、自分を待つものがいるのだという、
最も大切なことを、横にやってしまった。
そうして、最後の一線をこえてしまう。
最期の投影を、実行に移して。
致命的な間違いに気づかないまま。
衛宮士郎を構成していたものは 消えた。
HFルート、ラストのVS言峰戦〜ノーマルEDへのネタ。
言士エンド、とか。(すみません)
実際に先日やらかしたことです。
VS言峰戦をリプレイしていて、言峰戦後の、士郎が言峰に投げかけた言葉、
容赦なくおまえの希みを壊してくる、とかいう、そのセリフがやけに頭に残ったせいで、
ラストはトゥルーエンドみるつもりだったのに、最後の選択肢の存在を素で忘れていて、
どっちだったかなーとか思いながら、ああ投影しなきゃとうっかり勢いでそっち選んでしまって。
あれ、イリヤこないよとか思ってたらノーマルエンドに突入してやっと気づいた間抜けです。
そのあとちゃんとトゥルーみましたが。
言峰と殴り合いした後の投影なら、イリヤがきてくれるかな、とかふと思って。
イリヤに、ぼろぼろになった士郎を、アーチャーごと抱きしめてあげて欲しいなとか。
で、書いてみました。
初プレイ時に先に見たのはノーマルエンドでした。
調子にのって、セイバーVSライダー戦で余計な投影してしまったせいで。
言峰戦もなく、投影一直線だったかな。
ノーマルエンドもわりと好き。トゥルーあるからこそですが。
ノーマルではアーチャーの腕と最期まで一緒だから(そこか)
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