春の雨
大分暖かくなってきたと思っていたら、今日はまた寒さがぶり返して、
あげく雨まで降り出した。
買い物帰り、濡れて拙いものは無かったはずだが、
念の為、胸元に買い物袋を抱き込んで、足早に歩く。
自分が濡れるのは、とっくに諦めた。
次第に足下には水溜りが出来てきて、足を踏み出すとぱしゃんと音が響き
飛沫がズボンの裾を濡らす。
ふいに、頭に当たる雨の冷たさが、無くなった。
というか、ばさりと頭の上に何かが被せられて、驚く。
それはジャケットで。
目線を横に向けると、被せられたジャケットがずれて落ちそうになって、
それを咄嗟に掴み、俺の頭の上にあらためて持ってきて、隣を歩く男の姿。
「ランサー。」
名を呼ぶと、青い髪を濡らした男は、に、と笑う。
「よぉ…っと、結構濡れてんな。今更か?」
「いや、ありがたいけど…それじゃ、アンタが濡れるだろ。」
「人間みたいに英霊は風邪とかひかねぇが、オマエは拙いだろ。行き先は坊主の家だよな。」
雨に濡れるのは嫌いじゃない、とランサーはそんな風に言って、俺の雨よけになってくれる。
実際ランサーは、雨の冷たさなど気にしていないように見えて。
俺自身は、体が冷えてきていたので、ムキになって断るのもどうかと思い、
とりあえず、ありがとうと小さく礼を言って男の申し出を受け入れることにした。
釣りの帰りなのか――どこに帰るのかは知らないが――右手には釣竿とバケツ、
左手でジャケットを掴み、俺の頭の上に。
俺に付き合わなければ、ランサーならこんなに濡れることなど無かっただろうと思うと、
気にするなと言われても気になる。
「…風呂。」
「あ?」
「風呂ぐらい、入っていけよ。英霊っていっても実体化してるなら、人間とかわらないんだし。
体、冷えてるだろ?」
俺は少し強引に提案してみた。
ランサーは暫し顔を上向けた後、
「じゃ、坊主も一緒に入るか。」
にやりとたちの悪い笑みを見せて言ってきた。
「……風呂、広くないんだから、男2人で入ったら狭いぞ。」
「坊主ぐらいなら、女と変わらねぇだろ。」
「っ、自分がちょっとでかいからってこの…!」
男として多少気にしている、背丈や体格のことをからかわれるのは面白くなく、
じろりと睨めば、俺とは正反対に楽しげに笑う男の顔。
「まだ成長する可能性はあるかもな。ああ、だがあの弓兵みたいにはなるんじゃねーぞ。」
どこまで気付いているのか、ランサーはそんなことを言って、
ジャケットの上から俺の頭を乱暴に撫でてきた。
兄弟が、兄がいたら、こんな感じなのかなと漠然と思う。
それが少しくすぐったくて、
「…まあ、確かに性格面では、ああなりたくはないけどさ。」
思わず呟いた言葉は、本心だった。
俺の言葉にランサーは、そうしとけと喉奥で笑った。
カプじゃなくて、このぐらいのあっさりした関係も好きです。
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