林檎
小気味良い咀嚼音。
先程から延々と続いている。
俺は黙々と林檎の皮を剥いて、切り分けて、目の前の皿に載せる。
皿が林檎で埋もれてしまうよりも、目の前の男の咥内に消えていく方が早い。
セイバーの食べっぷりも気持ちがいいけど。
ランサーも凄いな。
ぱくぱくと林檎を食べるランサーを目の端に入れつつ、俺は林檎を切っていく。
藤ねぇが大量に置いていった果物は林檎だけではなかったが、
とりあえずといった感じで林檎から取りかかった。
このペースなら結構消費できそうだ。
「お、これ何だ?」
ランサーが声をかけてくる。
指差した先にあるのは、所謂うさぎ林檎。
「一応、うさぎの形に見えるだろ。そういう切り方があるんだ。」
俺はそう答えながら、皿にまた、うさぎ林檎を追加する。
へぇ、と口にしつつ、うさぎ林檎の頭部分からランサーが噛り付く。
しゃく、しゃく。
実に旨そうに食べる。
「オマエは喰わねぇのか。」
食べつつランサーが訊ねてくる。
「あとで食べる。今は林檎、切ってるし。」
そんな答えを返して、新しい林檎を手に取り皮を剥いていく。
ランサーなら、丸ごと一個そのまま渡せば、皮ごと食べるだろうなと思いはするが。
だから結局これは、俺が好きでやってることで。
ふーんとランサーは呟いて。
八分の一の大きさの林檎を口に半分くわえて、噛み切って。
「?」
残り半分を、俺の口元に持ってきた。
ランサーは咥内の林檎を咀嚼し終えてから。
「口、開けろ。」
ほら、と俺を促してくる。
右手には包丁。左手には林檎。
両手は塞がっている。
わざわざそれを置いて、手で受け取るというのも妙だなと結論づけて。
俺は促されるままに口を開いた。
ランサーは満足げに目を細めて、俺の口の中に林檎の欠片を押し込んでくる。
「む」
危うく林檎を持つランサーの指まで噛みそうになる。
気にせずにランサーは俺の口に指も一緒に突っ込んできて、
こぼれないように林檎を奥に入れてから、指を引き抜いた。
ちょっと咽かけたが、咥内に入った林檎を噛み砕く。
甘い果汁が口の中に広がる。
ランサーは俺の口に入れてきた指先を舐めていた。
今更ながら、僅かな羞恥に頬が火照る。
俺は視線を手元に移して、何事もなかったかのように、再び林檎の皮を剥きはじめて。
「甘くて、旨いな。」
笑い混じりのランサーの言葉を、俺はわざと聞き流した。
ナチュラルに甘い。
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