ひめはじめ
腰紐をしゅると緩められて着物の襟を掴まれ左右に開かれる。
素肌が外気にさらされる……って。
「ちょ、ランサー、アンタなにやって…っ」
「何って見て解んねぇか?服を脱がせてんだが。」
「それは解る。俺が訊いてるのは理由だっ!」
「?そりゃあ坊主を今から抱くからだろ。」
「年、明、けから……アンタは……。」
心底呆れて、それ以上言葉が出なくなる。
ランサーの手によってすっかり乱された着物。
服、というよりも布が手足に絡まっているような有様。
そんな俺をランサーは自分の方に引き寄せる。
ランサーが座る足の上に跨り座らされた姿勢。所謂座位というもの。
別に大人しく受け入れているわけじゃあ無いんだが。
いつの間にかこんな風に誘導されていて。
なんというか悔しい。
「観念したか、坊主。」
「………。」
ランサーの問いかけに無言で睨みつければ、ランサーの目は愉しげに細められて。
「ヒメハジメって言うんだろ、こういうの。」
そんな言葉を口にして、本当にいい貌で笑った。
ぐらりと眩暈がする。
「ん、違うのか?」
「いや……もー、いい……。」
ぐったりと項垂れる。
俺の1年が見えた気がする。また、この目の前の男にいいように振り回されるんだろう。
ランサーが俺の顎を手で掴んできて、視線が合う。
寄せられた唇を、俺は目を閉じて受け入れた。
結局の所、嫌では無いのだから。
「っ…あ、あ……ぅ…っ」
何時もより性急に後孔を貫いてきたランサーの熱。
座位のせいで自重によって、深く深く呑み込んでいく。
奥まで届くと、すぐにランサーは俺の身体を揺さぶってきた。
「あっ、ま…てっ、ぃあっ……はっ、ん…っん…」
目の前の男に抱き付けば、ランサーは喉を低く鳴らして俺の喉元に噛み付く。
歯を立てられ、舐められて、ぞく、と身体が震える。
そう、何時もより余裕が無いみたいに、手加減など無く、強く腰を叩きつけられて。
慣らされた身体は、後孔のなかで確実に快楽を拾う。
達しそうになって身体を痙攣させた時、それは押し止められた。
ランサーの手が俺の中心の根元をきつく戒めている。
「ぁ……な、んで…っ」
なかで荒れ狂う快楽を吐き出すことができない苦しさに喘ぐ俺に。
「…まだ、早ぇだろ。もっと、愉しもうぜ。」
ランサーはそう口にして獰猛に笑って。
根元を戒めたまま先端をぐり、と指で抉ってくる。
「ぃ……っや、…ァ…」
嬲るランサーの手を引き剥がそうと、その手に自分の手を重ねると。
その瞬間、下から強く突き上げられて。
結果、俺はただランサーの腕に縋るだけになって。
「んっ、く…ぅっ、う…あァ…っ」
「坊主のなか、すげぇ、気持ちイイ…」
「ァ…、な、に言って…」
「旨そうに、オレに喰いついてきて。」
「はっ……ん…っ」
「何だ、言葉ひとつでも、感じてんのか。今、なか締まったぜ、解るか?」
「う…るさ…い…!」
あからさまに俺を煽るような言葉。
それに簡単に煽られる自分が嫌になる。
ただいいように貪られるだけなのも嫌で。
俺はランサーの唇に噛み付いた。
堪えきれない喘ぎを零しながら、ランサーの咥内に舌を這わせる。
ランサーは構わず俺の唇を受けながら、突き上げてくる。
ひっきりなしに聞こえる接合部の濡れた音と、自分とランサーの息づかい。
それだけが全てで。
身体を揺さぶる動きがさらに激しくなって、
堪らず俺は唇を離してランサーの肩に顔を埋めて縋りついた。
肩に歯を立て、背中に爪を立てても、ランサーは何も言わず、ただ俺の身体をその熱で侵す。
「ぐ、ぅ…うっ、ん…ん…っ」
ランサーの肩に噛み付いたまま、小さく頭を振る。
本当にもう、限界で。吐き出したくて。
強請るようになかにある熱を締め上げれば。
ランサーの喉奥が、ぐ、と鳴った。
「解った。いかせて、やるから。そんな、締めんな。」
笑い混じりのランサーの言葉に、何か言ってやりたかったけれど、そんな余裕はどこにも無く。
根元を戒めていた指がはずされて、促すように竿を何度も扱かれて。
なかの前立腺も同時に抉られれば。
簡単に俺は、おちた。
「――っああァっ!!」
声も堪えきれず、高く喘いで、溜まっていた熱を吐き出した。
ランサーも少し後に、俺の最奥にどくどくと熱を注ぐ。
その熱さに震えながらも、全ての欲を呑み込んで。
ようやく全身から力が抜けた。
ランサーは手のひらで受けとめた俺の白濁を余さず舐めとり、
僅かに俺とランサーの腹に散った白濁もすくいとって舐める。
「…今日、なんか、余裕無かった、よな。」
そうランサーに問いかけてみれば。
「オマエのその姿、いつも以上に色があるからな。煽られた。」
そんな答えが返ってきて。
要するに。中途半端に引っかかったままの着物が、原因だったらしい。
なんというか。ランサーらしいといえば、らしいのだが。
俺は深く息を吐いて、ランサーの身体に寄りかかった。
「どうした、坊主。」
「…なんでも、ない。」
まだ繋がったまま。
自分の為にも早く身体を離した方がいいのだろうが。
行為後の気だるさが少し心地よくて。
そのままランサーの背に腕をまわして、長い髪を指に絡ませて遊ぶ。
ランサーは軽く笑って、俺の耳元に唇を押し付けた。
いちゃいちゃ。着物が乱れるのって、えろいよね。
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