狗と猫
喉を擽られる。
次は耳の裏。
指先で何度も何度も。
喉と耳を行ったり来たり。
「…猫にでも、なった気分だ。」
俺の正面に座って、飽きずに俺の喉と耳裏を撫でるランサーにそう呟いたら。
「いっそ、鳴いてみるか?」
ランサーはどこか上機嫌に笑いを含ませて、言ってきた。
…なんで、俺は、乗ってしまったんだろう。
多分、喉を撫でるランサーの指先が、気持ち良かったからだ。
「にゃあ」
ぴたり。ランサーが動きを止める。
言ってしまった俺は、咄嗟に手で口元を覆ったが、もう遅い。
うん。どうか、してた。
「……聞かなかったことに、してくれ。」
顔を逸らし、俺はそう頼んでみた。
――が。
ランサーは、肩を震わせていた。
「………笑いたきゃ、笑え。」
「っくく、ははっ!まさか本当に鳴いてくれるとはなぁ!いや参った、坊主!」
腹を抱えて笑うランサーを、俺は恨めしげに見た。
そんなに笑わなくても、いいじゃないか……。
「やっぱり面白ぇな、オマエ。」
そう言うと、ランサーは抱き付いてきて、俺の肩に顔を埋めてくる。
「っ、ランサー!」
「にゃあ」
……鳴かれた。笑い混じりだが。
「…アンタはどっちかと言えば、犬だろ。」
「狗、ねぇ。」
あ…ランサーに『狗』は禁句だったか、と口にしてから思ったが
特に機嫌を損ねた様子は無く………?
「痛ぅっ!」
がぶりと、ランサーが俺の首筋に、噛み付いてきた。
多分、歯形がつくくらいに、強く。
「ランサーっ、は、なせっ!!」
肩を掴んで引き剥がそうとしても、
ランサーは、一度口を離したかと思うと、もう一度噛みなおしてきて。
だんだんランサーに首筋を喰い破られるんじゃないかとさえ
思い始めた頃に、ようやく離してくれた。
俺は、噛まれた首筋を手でさすった。歯形がついているのがわかる。
目の前のランサーを、痛みで潤んだ目で睨みつけると。
「狗、なんだろ?オレは。」
にぃと笑って、青い槍兵はそんなことを言ってきた。
…完全に、失言だったらしい。
「…躾のなってない狗だな。」
「へぇ、言うじゃねぇか坊主。」
「うわっ、伸し掛かってくんなっ!」
「躾がなってないからな。諦めろ。」
「!」
俺はまた、墓穴を掘ったらしい。
身体中、あちこちに噛み付かれた後、
そのまま別の意味で、喰われてしまった。
「……すぐ、盛るところも……」
「何か言ったか?」
「…なんでも、ない。」
ぐったりと横たわる俺の隣に座って、一服なんてしながら
ランサーが俺の髪をくしゃりと優しく掻き混ぜてくる。
気持ちよくて、なんとなく、もう一度だけ、にゃあ、と鳴いてみて。
ランサーが喉の奥で笑うのを聞きながら、俺は目を閉じた。
士郎に「にゃあ」と鳴かせてみたくなって(馬鹿)
えろ部分は割愛しましたが、多分、お決まりのごとく、
欲しいなら可愛く鳴いてみろよ、とかなんとか言われたりしたんだろうなーとか…。
いや、うん。いろいろごめん。楽しかった。
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