本気の遊び 3



 

買い物帰りに、ばったりランサーと出くわした。

「よぉ。その後、腰の調子はどうだ、坊主。」
出会い頭にまるで挨拶するかのような気軽さで、そんなことを言ってきたランサーに。
俺は。
「アンタのおかげで絶不調だ。いいからもう、さっさと座に還れ。」
とびきりの笑顔で、答えてやった。



「何だ、まだ調子悪いのか?」
ランサーが意外そうに訊いてくる。
あの、ランサーに散々遊ばれた日から、まだそんなに日は経っていない。
あからさまな痛みは無くなったものの、まだ時折、疼痛はある。
入口付近だとか、その奥だとか、腰だとか。
「あれだけ無茶やられて、簡単に痛みがひくわけないだろ、馬鹿。」
話しているうちに、あの時のことを思い出してしまって、
俺は両手に提げている買い物袋を持ち直しながら、目を少し泳がせた。
拙い。顔、赤くなってるかもしれない。

「ふーん。なんなら坊主、オレが薬でも塗ってやろうか。」
「断る。絶対、それだけで終わらないだろ、アンタ。」

申し出をばっさり切り捨てた俺を、
ランサーは面白そうに見てきた。

「流石に警戒するか。」
「当然だ。」
「そのわりには、妙な所で隙だらけだよなぁ、オマエ。」
「は?」
「とっくに間合いに、入ってんだが。」
「え。」

ランサーに指摘されて、ようやく気付く。
ランサーは俺の目の前にいて、肩を掴んできて。
俺は買い物袋を持っていて、両手が塞がっている状態なので、どうすることもできず。
いや、それ以前に、俺がまともな反応を返す前に。
ランサーは俺の唇を――――舐めて、きた。
「――っ!!」
反射的に買い物袋を振り上げてランサーを殴りつけかけたのを咄嗟に押し止める。
危ない。生卵が台無しになる所だった。
ランサーは少し顔を離して、にやりと笑う。
「…アンタのせいで、買ってきた食材駄目にするところだったじゃないかっ!!」
睨みつけて俺は唸る。
―と、ランサーは一瞬、呆気にとられて。
「っく、怒る所、そこかよ坊主!やっぱり面白ぇ奴だな!」
そう、心底楽しげに笑った。
言われて、確かに今の発言はずれていたと、顔が熱くなる。
「…そんなに愉しいか、俺のこと、からかって。」
自然と声が低くなる。顔を赤くしながら言っても効き目は無いだろうが。
ランサーの態度は変わらない。
機嫌良さそうに、口元を緩めている。
「からかってるだけじゃ、ねぇんだがな。
 あの時抱いたのも、坊主がどんな反応返してくるか、興味あったからだし。
 けどよ、初めはともかく、最後の方は坊主もちゃんと、愉しめただろ?」
ランサーが、ふと思い出した様に、そんなことを言ってきた。
「っ」
「イイ声で啼いてくれたしな。気持ち良かっただろ、坊主。」
言葉を返せない俺に、追い討ちをかけてくる。

完全に、あの時の、快絶を思い出した。
確かに、最後の方は信じられないぐらい、感じた。
けど、あれは仕方ないじゃないか。そういう風に感じる場所なんだから。
と、俺は自分自身に言い訳をする。
そりゃ、ランサーのことは嫌いじゃないが、それとこれとは話は別だ。

「思い出したか、坊主。泣きそうな顔してんぞ。」
「だっ、誰が泣くか!」
ランサーが俺の目元を指で擽ってくるので、俺は顔を振ってその指から逃れる。
こんな反応を返すから、からかわれるんだということはわかっているが、どうしようもない。
恥ずかしいものは、恥ずかしい。

「坊主、結構オレのこと、好きだろ。」
「な」
「本気でオレを拒んでねぇこと、ちゃんと自覚してるか?」
突然、ランサーがにやにや笑いながら、そんなことを言ってくるので。

頭の中で、ぷつんと何かが、キレた。

俺は買い物袋を持ったまま、片手でランサーの胸倉を掴んで引き寄せ、
少し背伸びして――そうしなければならないのは物凄く悔しかったが
――そうしてランサーの、鼻のてっぺんに、噛み付いてやった。
ランサーの目が、驚いたように見開く。
すぐに顔を離し、ランサーの胸を押して。

「ああ、好きだよ。悪かったな。」

きっぱりそう言い捨てて。
俺はくるりとランサーに背を向け、大股で歩き出した。

散々好き勝手されたあの日。
それでも、そのことを流せてしまった、理由。
別に、恋愛的にどうこうってわけじゃない(と信じたい)が、ランサーの人間性は、好きだから。
それぐらい、わかっていた。
だが、それをランサーに指摘されると、頭にくる。
そうしてしばらく大股で歩いていたのだが。
気持ちが落ち着いてくると途端に、勢いで言ってしまったことを、俺は後悔した。
幸い、ランサーが追いかけてくる様子は無いので、それに少しほっとする。
うん。流してくれてるといいな、などと思いながら、
俺は足早に、自分の家に向かって歩いた。




で、残されたランサーは。
「……っハ、なんだよアレ!行動、可愛すぎるだろ…!!」
あー、ヤバい、ハマりそう、などと呟き、肩を震わせて、
くつくつと笑っていた。






この槍士は、順番が逆というか。やることやってるのに、
お互いまだ恋愛的には目覚めてない、というか。
好意は普通にあるんですがね!うーん、目覚めるんだろうか。
前に書いた、魔力供給?な話とは対極ですな、ある意味。
これはこれで楽しい…。














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