本気の遊び 2b
おとなしく受け入れるか。
それとも、無駄でも抵抗するか。
―無駄でも抵抗する
結果は変わらない。それでも、おとなしくやられるのも、無理矢理やられるのも、どちらもごめんだ。
俺は不意をつく勢いで、ランサーの脚目掛けて、思い切り蹴りつけようとした。
が、俺が何らかの行動を起こすことは、ランサーにしっかりと見透かされていたようで、
ランサーは慌てもせずに振り上げた俺の脚を、手で掴んで止めた。
「くそっ!」
唸る俺に、獰猛な笑みを浮かべ、ランサーは。
「なるほど、手荒いのが好みってわけだな。」
そう言って、掴んだ俺の脚をランサーは自分の方へ引き寄せる。
そうされると流石にバランスなどとれず、俺は床に転倒した。
「つぅっ」
肩を打ちつけて呻いた俺に、ランサーがのしかかってくる。
とっさに逃れようと四つん這いになった俺は、ランサーにそのまま上から押さえ込まれた。
「はなせっ、このっ」
喚く俺に、ランサーは喉の奥で笑うだけ。
そして手早く俺のシャツを引き抜きにかかる。
たくし上げ、頭からシャツを引き抜き、腕にシャツを絡めさせたまま、その行動は止まった。
丁度腕を縛られたような、そんな状態になる。
何を、と俺が思った直後、だん!と音を立て、俺の目の前に突き立てられた、何か。
滲み出る魔力にざっと血の気が引いた。
床と、シャツを縫いとめるように、俺の腕はきれいに避けて、
ランサーの槍、ゲイボルクが、突き立っていた。
「あ…」
「ヘタに動くなよ、坊主。ケガしたくなけりゃな。」
ランサーに言われるまでもなく、俺は固まった。
槍からの魔力に中てられる。もちろんそれだけでなく、
胸を貫かれた記憶によっても身体は無意識に震え、ぱた、と嫌な汗が滴り落ちた。
おとなしくなった俺の身体にランサーは手を滑らせはじめる。
ランサーの左手がまた俺の心臓部分に触れて、爪をたてられて。
可笑しいくらいに俺の身体はびくんと跳ねた。
ランサーが喉の奥で笑う。そのまま少し引っかき、手をずらして、次は胸を、赤い尖りを捉え、捏ねる。
「っ、」
敏感なその部分に触れられて、声が漏れそうになって。
とっさに唇を噛んだ。その唇を撫でてくるランサーの右手。
「口、開け。坊主が濡らせよ、指。」
ランサーが俺の耳元で囁く。頑なに俺が応えないでいると。
「……徹底的に、手荒な方がいいのか?坊主が舐めねぇなら、このまま突っ込むぞ。」
ランサーはそういうと、まだ乱されていない俺の下肢に、ランサー自身を押し付けてきた。
ランサーもまだ服は着たまま。
だが、それでもわかった。すでにランサーの中心は張詰めていて熱い。
ぞっとする。ランサーの言葉に嘘は無いだろう。
俺が舐めなければ、本当にランサーはそのまま――
頭の中が冷える。
ここで抵抗したところで、結果は散々な目にあって、それは後々にまで響くような有様になるだろう。
周りにだって気付かれる。それは避けたかった。
一度、ぎり、と歯を噛み締めて。
俺は観念して、唇を薄く開いた。
「利口になったようだな、坊主。」
ランサーがまるで褒めるように、俺の唇を軽く撫でて。
そうして指を二本、差し入れてきた。その指で、口内を愛撫される。
「っぅ、ん、んっ…」
蠢く指に、俺は舌を絡めて、必死に濡らした。
一度折れてしまえば、あとはもう、早く終わってくれと思うだけだ。
ランサーの、俺の胸を弄っていた左手が下腹におりていく。
それはすぐにズボンにたどり着き、下着ごと片手で器用に脱がされた。
ズボンも脚から引き抜いてしまわずに、足首のあたりまでおろされただけ。
両腕両脚を縛られたような格好になる。
むき出しにされた中心はまだ変化はなかった。そのことに少しだけほっとした。
その安堵は、すぐに意味の無いものになったが。
ランサーは俺の中心を左手で掴み、すぐに扱いてきた。
「っ、ぅっ」
男なら、直接そこを弄られれば、誰だって反応する。
そういうものだ。だから、容赦なく竿を扱き、先端を親指でぐり、と抉り、
滲み出る腺液をぬりこめる様に動くランサーの手に、俺が感じてしまうのも――
「ああ、心と身体は別モンだ。だから、素直に感じとけ。」
ランサーがそう俺の耳に吹き込んだ。
その声色は、優しげ。
俺の心を見透かしたように言ったランサーの言葉に、俺は抵抗、出来なかった。
「ふ…んっ、んぁ…ぁっ…」
ランサーの指を舐めながら、堪えていた喘ぎが口から零れていく。
目の前に槍が突き立っていることを忘れて。
快楽に、溺れて、いく。
「へぇ…いい声出すじゃねぇか。」
言いながらランサーは俺の耳を舐め、耳朶を銜えて軽く噛む。
「ぅん…」
ぞく、と身体の芯が熱くなる。
ランサーはくぐもった声で笑い、俺の耳から口を離して、目尻に一度口付けてから、身体を引いた。
口の中からランサーの指が引き抜かれる。
「あ…」
放心したような俺の声にはかまわずに、ランサーは俺の唾液で濡れた指をおろしていき、
俺の窄まりに、あてがった。
びく、と身体が跳ねて、反射的に逃げようとした身体を、
俺の中心から離した左手でランサーが押さえつけてくる。
「あんまり暴れんな。顔、切れてもしらねぇぞ。」
ランサーの言葉に、俺は思い出した様に、呆然と目前の槍を見つめた。
そんな風に、俺を気づかうくせに、槍をどける気はないようで。
よく、わからなくなる。
その隙をつかれたのか。ランサーは俺の窄まりにあてがっていた指を一本、ずぶりと差し込んできた。
「った……っ」
「…もうちょい、力抜け、坊主。」
「無理、いうなっ…!」
ひきつれるような痛みに先程までの快楽は、全部吹き飛んだ。
この先を思って、ぞっとする。指一本でこの痛さなのに…!
ランサーの指は、俺の内を解すように蠢く。
時折、くちゅ、と湿った音が聞こえて。
俺のそこからしている音なのだと理解すると、死にたくなる。
耳を塞ぎたい。……痛い。
「確か、このあたりだと…思ったんだが。」
ランサーの呟き。なにかを探しているよう。
それは、すぐに、わかった。
ランサーの指が、ある一ヶ所を抉った瞬間――
「っあ……!!」
俺は声をあげた。強い快楽によって。
「ここ、だな。」
「っゃ、ぃや、だ、そこっ」
ランサーは俺の反応を確認すると、重点的にその部分を責めてくる。
前立腺、だ。聞いたことはある。
ここまでのものと、自分の身で知ることになるとは、思ってもみなかったが。
痛みで萎えていた俺の中心も、また、熱を持ち始める。
しんじ、られない。
「あ…ぁ、ッア、あ」
ろくに堪えることもできず、喘ぐ。
指が一本増えた。入り口を広げられる痛みはあったが、
それも初めだけで、内に入ってしまえば快楽に紛れた。
ぐちゅ、くちゅ、とひっきりなしに濡れた音が耳に響く。
床に爪を立てて、その快楽に耐えようとしても、耐えられるわけではなく。
唐突に、指が、引き抜かれた。
はぁっ、と熱い息を吐く。
背後で衣擦れの音。
すぐにランサーの両手が俺の腰を掴んできて、
ランサーに引き寄せられて、俺の後孔にあてがわれた、熱。
「っ、らん、さーっ、いや、だ…っ!」
「は。そう言われてやめる男なんざ、いねぇだろ。今更だ。諦めて力、抜いてろ。」
俺の拒絶の言葉に、ランサーは隠しきれない欲を滲ませた声でそう吐き捨てて。
「あ、あっ、あぁっっ、い、づ…ぅ!!」
灼熱で、引き裂かれた。
本当に、そう、感じた。
一度だけ途中で止まって、だがそのまま強引にねじ込まれる。
奥の、奥まで。
「あ、あ、ぁ…」
「っ、ふ…」
その動きが、やっと止まる。
痛みで思考が麻痺する。
「…少し、裂けたか。」
その言葉と共にランサーが、接合部を、つ、と撫でてきた。
みっともないぐらいに、俺は震えた。
裂けていても、おかしくない。それだけの痛みは、あった。
これで終わらないことは、俺だって男だから、わかってる。
ならいっそ、もうさっさと終わらせてほしいという思いと、
痛みがひくまで待ってほしいという思いが、交互に押し寄せて。
後ろから貫かれたおかげで、顔を見られずに済んだことだけは良かったと思った。
視界が霞んでいるからきっと俺は泣いてる。
なんて、無様。
ランサーは、動かなかった。
ランサーの手が、優しく俺の腰を撫でている。腹も撫でて、
すっかり力をなくした俺の中心にも触れて、きた。
「あ」
小さな快楽の芽に、小さく声をあげる。
ランサーは、無理矢理貫いてきたことが嘘みたいに、優しく、丁寧に、俺に触れてくる。
先程までの酷い痛みに弱った心に、その行動はあんまりだった。
すがりたく、なる。
ランサーが、試すみたいに軽く、腰を揺らした。
痛みは勿論ある。けれど、幾分かおさまってもいた。
小刻みに、荒い息をつく。少しずつ混ざる甘さ。
それを確認しながら、ランサーの動きは徐々に遠慮のないものに、変わっていった。
その動きが、激しく突き上げるものに変わった時には、俺をしっかりと押さえつけ、引き寄せて、
俺が突き立った槍で怪我をしない様に。
もうその時には、俺は何も考えられなくなっていた。
ランサーの熱で前立腺を抉られる快楽を身体が知ってしまって。
快楽が痛みを凌駕した。中心に直接触れられていなくても、俺は内で感じていた。
そこを抉られるたびに、声をあげる。
少しずつ掠れていく、声。絶頂も、近付いてくる。
俺の声と、ランサーの荒い息と、濡れた音と、肌を打ちつける音。
それは前触れ無く、終わった。
最後とばかりに、強く、突きこまれて。
「あ、あっ、あ……!!」
「く、っ」
俺はどくりと白濁を吐き出し、ランサーも俺の内、一番奥に吐き出したのが、わかった。
そして、俺の魔力もランサーに流れていく。
…ちゃっかりしてるな、とぼんやり思った。
ずる、とランサーの熱が引き抜かれて、ランサーが内に注ぎ込んだものが
逆流して溢れ出る感覚に、ぶる、と震えた。
力なく床に倒れようとした俺の身体を、ランサーが俺の腹に片腕をまわして支える。
床に縫い止めていた槍を、ランサーが引き抜くと、それはすぐに消えた。
そうしてランサーは、俺の身体をおこして、後ろから抱きかかえて、
涙やら唾液やらで汚れた俺の顔を、その手で拭った。
俺はされるがまま。いまだ絶頂の余韻を引きずっていた。
ふ、とランサーと視線が合う。ランサーが、まるで何かに気付いたかのように、数度瞬くと。
「ん、む」
ランサーは、俺の唇へ、唇を重ねてきた。
重なるだけ。俺の唇をべろりと舐めて、ランサーは少しだけ顔を離し、
「まだ、やってなかっただろ。」
そう言って、悪びれない笑顔を俺に、見せた。
――毒気なんて、完全に抜かれた。
結局これは、先程の手合わせの続き。
ランサーにとっては遊びの延長で、俺は抵抗して、痛い目を見た分、損をしただけ。
ランサーにとっては俺の抵抗も、きっと犬猫がじゃれる程度の感覚だったんだろう。
「…お前な…。道場の、床、ちゃんと、直せよ。」
俺は、どうでも…よくはないが、そんなことを、呆れた風にランサーに言った。
「坊主、魔術師だろ。これぐらい、ぱっと直せるんじゃねぇのか?」
「俺は、そんな真似は、出来ない。」
「…なぁ、本当に魔術師、向いてないんじゃねぇか、坊主。」
「うるさい。だいたい、お前が持っていったせいで、俺の魔力、すでに空っぽだ。」
「あ〜、そういやそうだったな。いや、なかなか旨かったぜ、ごちそうさん。」
「人に断りも無く、勝手に持っていくなよ…。」
「初めは別に、そのつもりは無かったんだけどよ。この際全部、味わってみたくなってな。」
だらだらと会話する。
好き勝手にされたけれど、ランサーのこういう性格は、まぁ嫌いじゃないので、もう流すことにした。
ムキになって怒るのは、無駄のような気もするし。
腰やらあそこやらは、ずきずき痛むが。
狗に遊ばれ、咬まれた。
結局は、そういうことだ。
ランサーは、士郎を泣かせたかったわけではなく、
一緒に楽しみたいだけだったので最後は優しくなりましたと。
啼かせるつもりではありましたが。
小話・雑感部屋へ戻る