最期の宴




 
その身体に拳を沈める。
潰す肉の、砕く骨の感触が、脳に心地よく届く。
脚を、頭部を狙い振り上げる。とっさに庇うため上げられた腕を叩き潰す。

士郎は。
自らの姓を与え、自らの手で鍛えた義理の息子は。
その中で身につけた、急所だけを確実に庇う方法で、
自らが壊れることも厭わず、躊躇無く、こちらに踏み込んで拳を繰り出してくる。
その拳が、この身体に中れば僅かに内臓に響く。
なけなしの魔力でも込めているものか。

士郎の身体を壊したという確かな手応えを得ていようとも。
どのようなからくりか、瞬時にその身体は回復している。
ふいに10年前を思い起こす。
衛宮切嗣。
あの男も、そうだった。
愉悦に口元が笑みの形に歪む。
あの時得られなかった決着を、この子供が叶えてくれるとは。
私の元で、英雄王の元で育った子供。
この10年。身体も精神も余さず侵し尽くした。
だというのに、最後まで壊れることも無く。
それらを全て受け入れ、魂の最も深い部分だけは、変わることなく。

幾度、その首を絞めあげたか。
幾度、その身体を抉ったか。

どれだけ 自らの手で 殺したいと 渇望したか

それが、今、叶う。
ああ。この強い想いを、ヒトは、『愛』と、呼ぶのだろう。
これが、私のヒトを愛する形。


見れば、士郎の貌も、凄絶な笑みを湛えている。
それは英雄王の笑みに酷似しており、
或いは私の笑みにも、酷似しているのだろう。

「ああ……愉しいものだな。」
意図せず言葉が零れた。
「…ずっと、アンタを殺したいと、思ってた。綺礼、アンタを殺すのは俺だと。」
愛を語るように陶然と、士郎は謳うように告げる。
「…10年、この刻を待ち望んだ。さぁ、続けようか、士郎。」
迎え入れるように両手を広げ、自らの息子に告げる。

それは、死の宴。
私か士郎か、もしくはそのどちらもか。
死によってしか幕は閉じない。
それは、なんという、至福の刻――――。

私は確かに息子を愛している。
私の手で、苦しみもがく様は、とても愛おしい。
いつも鮮やかな怒りを向け続け。
私を理解してなお、傍にいた。
今、私と同質の感情で、向き合っている。

士郎の身体が動く。
地を蹴り私に向かって飛び込んでくる。
怖れもせず。

願わくば、この刻を、一秒でも永く。

そして士郎の拳は、掲げた私の腕を打ち、
私は士郎の腕を砕く。

肉を潰す、骨を砕く音は、心地よく響き―――。



宴は続く。最期の刻を迎える瞬間まで。








言士的コトシロさんは、対綺礼、対ギルに関してのみ、
斃すことこそ自分を育ててくれたことに対する心からの感謝、愛情の形だと、
心底から想ってます。なのでこれ、正真正銘両想いです。
きっとギルの屍を越えてきていることでしょう。
弓兵は、アインツベルン城で表舞台から退場。
言峰士郎を最期まで見届ける為、霊体の状態で残ってます。
対綺礼、対ギルには歪みまくってますが、普通のヒトに対しては、
真っ当な感情を返せる所が、綺礼とは根本的に違うところかなと。
トゥルーEDは綺礼を斃し、士郎は生き残る。
ノーマルEDはきっと相打ちとか。そんな感じで。
綺礼が生き残り、士郎が斃されたらバッドED。綺礼的にはトゥルーですか。
書いてて愉しかったです…。










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