ヒトの業
赤い世界。熱。
ヒトの肉が焼ける匂い。黒い塊。
かつて、ヒトであったモノ。
そんな中、自分一人だけが生きて、生きようともがいて。
助けを求めるヒト達を見殺しにして、歩き続ける。
あまり信じてはいなかったけれど。
これで俺は死んでも天国とやらには、いけないんだろうなと、思った。
そうして、目が覚める。
あれを悪夢、と呼ぶのはあんまりだな、と思い直す。
夢ではなくて、ただの記憶。俺の過去。
こうして目覚めてしまえば、特に何の感慨も無い。
薄情かもしれないが、既に終わってしまった過去に
縛られることに、意味など無いだろう。
自分一人だけが生き残ったことに対する罪悪感のようなものが、
全く無いとは言わないが、罪悪感を感じること自体も、おこがましい気がする。
ふぁ、と小さく布団の中で欠伸して身じろぐと。
「随分、魘されていたようだが。」
すぐ近くから問いかける声。
傍にはギルガメッシュの姿。
ああ、そういえば、昨夜は出ていかなかったなと思い出す。
そこでようやく、俺はギルガメッシュの腕の中に抱き込まれていることに気付いた。
どうりで触れる肌が温かいはずだ。
ギルガメッシュは、別に俺を心配して声をかけてきたわけじゃない。
貌を見れば、すぐにわかった。
その貌は、非常に愉しげで。
…今にはじまったことではないが。
「……嬉しそうに言う台詞じゃないだろ。本当にアンタといい、綺礼といい……。」
それでも愚痴ぐらいは、吐きたくなる。
ギルガメッシュはぞっとするほど綺麗に笑んで。
「我はヒトの業を愛でる。雑種、おまえは実に興味深い素材よ。」
そう言って俺の頬を撫でてくる。
こういうの、有り難迷惑って言うんだろうなと、ひとつ溜息。
俺の何がそんなに気にいったものかは未だに謎だが、
ギルガメッシュが俺に向ける感情の意味は、なんとなく察している。
問題はギルガメッシュのそういった感情は、常人には受け入れがたいということだ。
俺は、自分が常人だとは、胸を張って言えるわけではないが、
それでもどちらかと言えば、常人だと思うわけで。
正直勘弁してくれと思わないでもないが、なんというか。
慣れって怖いなぁと思う。
諦め混じりでも、俺はこの男が向ける感情を受け入れつつある。
いや、まだ受け流しているだけだと、自身の平穏の為に、思っておく。
「…それはともかく。起床時間だギルガメッシュ、離せ。」
俺の体を抱き寄せたまま離そうとしないギルガメッシュに俺は言った。
――が。
「寒い。動くな雑種。」
ギルガメッシュはそう口にすると、さらに俺を抱く腕に力を込める。
確かに寒いけど。俺は湯たんぽか何かか。
突っ込みたくなったが、結局脱力しただけで、
俺はもうしばらくは、この我が儘王様に付き合うことにした。
もしかしたら、外は雪でも降っているのかもしれない。
冬木市は比較的、冬でも暖かいが、今朝の冷え込みはかなりのものだ。
いつもよりも寒いことと、寝起きのせいで俺はまだ、脳が目覚めていなかったのだろう。
要するに、迂闊だった。
こいつがただおとなしくしているなんて有り得ないことだと、わかっていたはずなのに。
俺の背中に回されていたギルガメッシュの手が、つ、と動く。
「…ギルガメッシュ、お前なに」
俺の問いかけの声などお構い無しに、ギルガメッシュは手早く俺の体をベッドに押し付けてきた。
うつぶせの格好。何をされるか、なんてすぐにわかったが、抵抗するには既に遅かった。
下肢に身につけていたものを剥ぎ取られ、晒された後孔に、性急に捻じ込まれた灼熱。
「っァ、お、まえっ…こんな朝から……っ!」
悲鳴を噛み殺しながらギルガメッシュに抗議する。
昨夜散々嬲られた内部は、いきなりの挿入にもなんとか耐えたようだが、
裂けていなくても、辛いものは辛い。痛い。
奥まで一気に熱を捻じ込んだギルガメッシュは、は、とひとつ息を吐く。
「我が今、おまえを欲したのだ。ならばその身を我に捧げるのは当然であろう?」
そう言ってギルガメッシュは俺の肩甲骨に歯を立ててくる。
相変わらずの言葉。もうそれはいい。流す。それよりも――。
「…は…っ、魔力、渡す、のは……まだ、無理、だから、な…っ」
昨夜搾り取られた魔力は、まだたいして回復していない。
今、摂られれば、死ぬ。
…こんな死に方だけは、絶対に嫌だな。
俺の葛藤に気付いているのか、いないのか。
「魔力は満ちている。今はまだ、おまえを殺す気も無いぞ。安心したか雑種。」
ギルガメッシュはそんな風に俺の耳元で囁いてきた。
いや、じゃあ何で俺はこんな目にあっているのかと、新たな疑問が生まれたが。
それを口にするのはやめておいた。
どちらにしろ、このままギルガメッシュにやられることに、変わりは無い。
シーツを握りしめて、浅く呼吸を繰り返す。
俺が落ち着く前にギルガメッシュは腰を揺らしてきた。
零れかけた声をシーツを噛み締めることで堪える。
熱は下肢から全身へ。
内部を擦りあげるギルガメッシュの熱は、俺の弱い部分を知り尽くしていて、
すぐに、俺を、堕とす。
「っ、っぁ、あ、っ、ん…んっ、」
揺さぶられる動きに合わせて、喉から声が零れる。
ギルガメッシュが背後から手をまわし、俺の喉元を擽る。
もう片方の手で、胸の赤い尖りに爪を立てられて。
そうしながらも腰の動きはそのまま。そうやって俺を追い詰めていく。
触れられてもいない俺の中心は、もう張り詰めていた。
泣きたい。
「悦いか。」
「っ…」
「応えよ。我が訊いておるのだぞ。」
「…、よくないように、見えるのかよ……っ」
当たり前な、わざとらしいギルガメッシュの問いかけに、やけになって吼えれば。
ギルガメッシュは可笑しそうに、獰猛に喉奥で笑い。
「やはり、厭きぬな。」
そう呟いて、腰の動きを強めてきた。
翻弄される。本当になんで、朝からこんな。
考えた所でわかりはしないが。
信じてもいない教義上の神とやらに、俺は心中で毒を吐いて。
ギルガメッシュの与えてくる快楽の海に、全てを沈めて目を閉じた。
寒さももう感じない。
ここにあるのは、俺という熱と、ギルガメッシュの熱だけ。
その熱は、少しだけ、過去の炎を思い出させた。
ギルガメッシュに好かれるのって、大変だよねという話。
同じくらいアレじゃないと、付き合えないよ。
それを考えると、綺礼は凄いよな。
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