お前の色に染まる
学校帰りに、食料の買出しに新都に寄ってから、我が家である教会に帰宅する。
軋む扉を開け、中に入る。
礼拝堂には、見慣れた金の髪と赤の瞳を持つ男、ギルガメッシュの姿が。
「戻ったか、雑種。」
俺を視界に入れて、ギルガメッシュが声をかけてくる。
「…ただいま、ギルガメッシュ。」
一先ず、そう挨拶して。
めったにこの教会に人は訪れないが、昼間からこの男が礼拝堂なんかにいるのはどうなんだ、
などと思いつつ、俺は礼拝堂の椅子に座るギルガメッシュの横を素通りしようとした。
――が。
「待て、雑種。」
ギルガメッシュが、俺が横に来た所で、呼び止めてくる。
ああ、またか……。
「貴様、懲りずにまたその身を他の雑種共に触れさせたのか。
我の断り無く、その身を他の雑種に触れさせるなと何度も言ったはずだが。」
不機嫌そうに吐き捨てるギルガメッシュ。
「…だから、それは無理だって俺も、何度も言ってるだろ。
学校に行けば他の人間は沢山いるんだから、
すれ違う時にぶつかったりもするし、
挨拶を交わす時に軽い接触だってあるんだ。」
俺はギルガメッシュにそう告げて、溜息をつく。
ギルガメッシュは最近、こういった妙なことを俺に言ってくる。
「ならば学校とやらに行かなければ良い。」
「断る。」
「む。」
ギルガメッシュの提案を即座に却下する。
このやりとりも、何度目になるのか。
「…貴様に触れる雑種共を、悉く殺すか。うむ。そうすれば話は早い。」
そう言って立ち上がるギルガメッシュに、
「悪かった。」
俺が慌てて謝罪を口にすることも、いつもの流れ。
ギルガメッシュは本当にやりかねないので、ここはしっかり止めなければならない。
不服そうに目を眇めて、俺を見てくるギルガメッシュ。
ああ、本当に、何なんだか。
「…ギルガメッシュ、お前が、この身体に触れて、上から塗りつぶせば済むことだろう。
すぐにこの身体は、お前の色に染まる。」
真っ直ぐに相手を見据えて、そう告げた俺を、ギルガメッシュは少し意外そうに見て。
「我の手を、煩わせる気か。」
声低く、言ってくるので。
「…もう俺に、触れる気はおきないか?」
俺は少し口元に笑みを浮かべて言ってやる。
「…ふ、随分、言うようになったではないか。」
ギルガメッシュは愉しげに笑い、俺の頬に手を滑らせ、
「ここは、触れられてはいないようだな。」
俺の唇を親指でなぞった後、軽く唇を重ね合わせてきた。
「……こんなこと、してくる酔狂な奴は、お前ぐらいだ、ギルガメッシュ。
それと、俺がこういう風になったのは、間違いなく、お前と綺礼のせいだ。」
俺はなげやり気味に、そう答える。
「…身体を洗い流してこい。
ああ、そうだな。他の雑種共の匂いがつかぬぐらいに、その身体、我が染めてやろう。」
ギルガメッシュは、俺の耳にそう囁くと、礼拝堂の奥へ歩いていった。
まったく。俺の身体など、初めてこの教会に来た日から、
既にギルガメッシュのモノなのに、何を今更。
或いはもう、身体だけでは、ないのかもしれないが。
とりあえず、機嫌を損ねると厄介なので、俺は言われた通り、
身体を流す為にギルガメッシュの後に続き、奥の扉をくぐった。
今日は、夕飯の準備が、遅くなりそうだ。
そう、この身体、血肉は、全て、王の一部。
ギルガメッシュに真っ先に殺されそうなのは、きっと慎二と一成。
特に慎二。一応言峰士郎でも、この二人とは仲いいです。
自分が目をかけている雑種から、違う雑種の匂いが混じるのが大層気に喰わないみたいです。
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