補充
公園で、ばったりギルガメッシュ(大)と鉢合わせた。
……なんでさ。
あ、やばい。目があった。
途轍もなく嫌な予感がして、俺はすぐさま、その場から離れようとしたのだが――遅かった。
俺が背を向けるより早く、いつの間にかギルガメッシュの手に握られていた鎖で、
俺の腕は捕らえられていた。
「良い時に姿を見せたな、雑種。」
「俺は全然良くない。」
「貴様のその微々たる魔力を、我に捧げさせてやろう。光栄に思うが良いぞ。」
「人の話を聞け。」
要するに、ギルガメッシュは何故か魔力が尽きかけていて、早急に補充が必要だということらしい。
俺が知ったことか。
「…悪いがギルガメッシュ。俺は、魔力をくれと言われても、はいと簡単に渡せるような
器用な真似は出来ないんだ。だから、他をあたってくれ。」
「何?使えぬ奴め。」
「使えない奴で結構だ。いいから離せ。」
「…………。」
沈黙が、不吉。
眉を寄せ、目を少し伏せ、何かを考えているギルガメッシュ。
こいつ、口を開かなければ、普通に美形だよな……。
「我の手を煩わせるとは……仕方あるまい。選り好みしてはおれぬし。」
そんな呟きと共に、ギルガメッシュは俺に絡めた鎖を引いて。
急に引き寄せられた俺は、つんのめりそうになって。
「っギル…!?」
文句を言ってやろうと顔を上げたところで、頭を乱暴に掴まれて
―――噛み付かれた。
あまりの衝撃に、思考が止まる。
いや、動け、動かせ。
そしてすぐに引き剥がさないと…!
「っん…!!」
ほら、口のなかに、ギルガメッシュの舌が潜り込んで。
えーと、うん。昼間の公園だけど、人気が無くて助かったなぁなどと現実逃避。
非力そうに見えるのに、腐ってもサーヴァント。
俺がどんなに暴れても、びくともしない。
それどころか、ますますがっちりと抱き込まれて。
「づ…!」
今度は舌に、思い切り歯を立てられた。
咥内に広がる鉄錆の味に吐き気がする。
唾液と混ざり合い、俺がそれを飲み下す前に、ギルガメッシュが啜り取っていく。
ああ、目的は、血か。
なら他に方法だってあるだろうに、なんでわざわざ、この方法をとるんだこの金ぴか。
嫌がらせか、そうだな。絶対そうだ、畜生。
「っう、ぅ、づぅ…っ」
血が薄まれば、再び舌に歯を立て傷口を抉ってくる
ギルガメッシュ。時折、唇に噛み付かれて、血を滲ませたそこを舐め取ってくる。
おそらく傷口から直接、血液に含まれる魔力を吸い取っているのか、
次第に身体から力が抜けていって……
「…こんなものか。」
唐突に、解放された。
俺の頭を掴んでいたギルガメッシュの手は離れ、腕に絡まっていた鎖も外されて。
俺は二三歩後ずさるようにギルガメッシュと距離をとって、口元を拭い、
恨めしげにギルガメッシュを睨みつけた。
効き目は全然、無いのだが。
ギルガメッシュは、ふむ、と頷き。
「なかなかのものであったぞ。喜べ雑種。これならば、次も我自ら、摂ってやっても良い。」
そう言って、満足げに笑みを浮かべ。
「む。こうしてはおれん。」
何かに気付き、足早に俺に背を向け立ち去った。
……なんだったんだろう。
俺はただ、公園を歩いていただけだったのに。
思ったよりも早く、ギルガメッシュの奇行(今にはじまった話ではないが)の原因はわかった。
ギルガメッシュが立ち去ってすぐに。
「ごきげんよう、衛宮士郎。」
「…こんにちは、カレン。」
法衣姿の少女、カレンが公園に現れたからだ。
俺はもちろん。
「ギルガメッシュなら、この先に行ったぞ。今すぐ行けば、追いつくんじゃないか。」
迷わずギルガメッシュの立ち去った方向をカレンに示した。
一瞬驚いたように、手を組み合わせて俺を見たカレンは。
「感謝します、衛宮士郎。それではまた。」
そう言って、くるりと背を向け歩いていった。
俺はそれを見送り。
「どうせなら、小さくなってた方が、賢そうだし、逃げ切れたと思うんだが。
なんでわざわざ、でかい方に戻っていたんだ、あいつ。」
ちょっとした疑問を口にしていた。
だが、まぁいいかと軽く頭を振って、多少ふらつきながらも、公園を後にしたのだった。
遠くで、悲鳴のようなものが聞こえた気がしたが。
俺には関わりのないことだ。
おバカなギルを、書いてみたくなって。
深く考えず、さらりと。
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