貴い愚かさ 5
「先日は、すみませんでした。」
玄関先。
俺の目の前で申し訳なさそうに、謝罪を口にしたギルガメッシュ(小)。
これが初めてではなく2度目というのは、どうなんだ実際。眩暈がする。
「あー、いや、うん。謝られても困る。」
同一人物だと解っていても、これだけ中身や見た目が違うと、どうしても同じとは思えない。
根っこの部分は同じ様だが。
「まぁお前も被害者みたいなものだろうし、あんまり気にしないでくれるとその方が助かる。」
そんな俺の言葉にギルガメッシュは、ぱちりと赤い目を瞬いて。
「被害者なのは、お兄さんでしょう?ボク自身はそんな風に感じてはいませんけど。」
心底不思議そうに言ってきた。
…どういうことだ?
――と思いかけて。
へたに考えない方がいいと即座に思考を遮断する。
「それより、上がってお茶でも飲んでいくか?」
せっかく、わざわざ来てくれたのだからと軽い気持ちで俺はギルガメッシュを誘った。
するとギルガメッシュは、はぁと呆れたような溜息をつく。
「む。何だよ。」
「ボクはお兄さんを酷い目にあわせた、あのヒトと同じなんですよ。……不本意ですが。」
「それは解ってる。」
「わかってないです。もの凄く無防備じゃないですか。」
「無防備……って。」
何か悪い方向へ話が進んでいるような気がしてきたが。
ギルガメッシュはこの話を切り上げるつもりはないようで。
「…今日はセイバーが居間にいるぞ。」
なんとなくそう答えてみたが。
そういう問題じゃありませんよと一蹴された。
「ギルガメッシュ。お前、確かでかい方とは趣味とか嗜好とか、違ってたはずだろ。」
前にそんな話を聞いたことがあったような気がするので確認してみる。
今のギルガメッシュはセイバーには興味が無くて、三枝のことが好きだとか言っていたような。
「そうですね…確かにあのヒトとは好ましく感じるモノが違います。
ですが、それはボクがお兄さんに全く興味がないといった理由にはならないです。」
今、さらりと、聞き逃せないことを、ギルガメッシュが告げた気がして。
俺は、え、と間抜けな声を出していた。
「ですから……もう、言っちゃいますね。ボクはお兄さんのこと、好きですよ。
意味の無い話ですけど、できるならあのヒトから守ってあげたいです。」
真摯な目で。ギルガメッシュ(小)に、告白されてしまった。
あ、身体が揺れる。ぐらぐらする。
こいつが冗談なんかで言ったわけじゃないことは、嫌でも解ってしまった。
「…それで。お前もあいつが俺にやったようなこと、したいって言うのか。」
平坦な声が意図せず出て。
俺は目の前の子供に訊く。
「そんなこと、しませんよ。お兄さん嫌がっているのに。
あのヒトと一緒にしないで下さい。」
少しむっとしながらも、返ってきた答えは否定で。
俺は安堵に小さく吐息する。
「…やっぱり、困らせちゃいましたね。」
ギルガメッシュは少し眉をよせて、心配そうな顔で俺の顔を下から覗き込んできた。
…こういう所を見ると、いいやつなんだと思うんだけどな。
と、すぐに絆されてしまうのがいけないんだろうか。
じ、っと赤い目で見つめられる。
「なぁ。なんでお前も、俺を好きだなんて言うんだ?」
疑問が口から零れた。
ギルガメッシュは俺を見ながら。
「お兄さんってどこか脆そうですから。それが一番の理由ですね。
そういう所に惹かれます。他にも色々ありますけど。」
そう言ってにっこり笑う。
なんか、不覚にも頬が熱くなる。
これが純粋な好意だったなら、複雑だが(脆いってなんだ)嫌ではなかったかもしれない。
どうにも言葉が返せずに黙り込んでしまった俺に、ギルガメッシュが、
「あの、そろそろ行きますね。
その前に、少し屈んでもらえますか?」
別れの言葉と共に、俺にそう頼んでくる。
俺は、本当に何も考えずに言われた通り、屈んで。
ギルガメッシュと目の高さが近づく。
「…忠告しても、やっぱりお兄さんはお兄さんですね。」
「なに――」
ギルガメッシュが苦笑いを滲ませて言った直後。
唇に、柔らかい感触。
近すぎる、ギルガメッシュの、顔―――。
何か、なんてすぐに解って。
手遅れと知りつつも俺は身体を後ろに引いて、口を手で覆った。
「っ、お、まえ…っ」
「これで少しはわかってもらえましたか?」
あははと悪びれずに笑うギルガメッシュ(小)。
「シロウ、どうかしたのですか?」
居間からセイバーの声。
俺が遅いので気になったのだろうか。
いや、ちょっと、今セイバーと顔を合わせるのも気まずいんだけど…!
などと俺が混乱している中。
「それじゃあ失礼します。また、会いに来ますね。」
ギルガメッシュはぺこりと礼儀正しくお辞儀して。
あっという間に俺の前から立ち去っていった。
「シロウ、誰か来ていたのですか。」
セイバーがゆっくりと歩み寄ってくる。
「あ、ああ。ギルガメッシュが…」
名前を口にした途端。セイバーの気配がぴんと張り詰める。
うわ、本当に嫌われてるなぁあいつ。
それで気が紛れたのか、落ち着けて。
「小さい方だよ、セイバー。」
そう付け加えると、そうですかと少しだけセイバーは肩の力を抜いた。
流石に小さいギルガメッシュには、それ程敵愾心を抱いてはいないようだ。
俺にとっては、そうも言っていられなくなったのだが。
「シロウ。熱でもあるのでしょうか。頬が赤い。」
ふいに、淡々とセイバーに指摘されて。
「な、何でもない。大丈夫だ。」
頬に手をあてながら、俺はセイバーに少し笑いかけながら慌てて言った。
本当に、大でも小でも。
ギルガメッシュはギルガメッシュだった、ということを。
俺は今回、身を以って知ったのだった。
ありがちな流れですが。小ギル参戦。
大ギルの一番のライバルは小ギルだった、とか。
実際、小ギル相手の方がガード薄いよ士郎……。
でも大ギルは力ずくで組み伏せてなんぼなので気にしてない。
ちょっとは意識してほしいなと思った小ギルでした。
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