貴い愚かさ 4



 

俺は、なんでまた、繰り返しているんだろう。
これでは、あの夜の、焼き直しじゃないか。


今はまだ昼間で。
たまたま他のみんなは出払っていて、俺は時間を持て余していたので、
魔術の鍛錬でもしようかと、土蔵に来ていた。
――精神集中に入る。
土蔵の入り口の扉が閉まる音がするまで、その男の存在に、俺は、気付かなかった。
なんて、間抜け。

入り口を塞ぐ形で、そこにはギルガメッシュがいた。
なんで、と思う。
いや、目的はわかってる。
だから俺は、ぎり、と歯を噛み締め、相手を睨みつける。
あの夜と違うのは、俺の身体は自由に動くし、頭もはっきりしているということ。
「喰らいに来てやった。喜ぶがいい、雑種。我の糧となれることを。」
ギルガメッシュはそんなことを、言ってきた。
冗談。あの日のように、簡単にやられてたまるものか。
だが、どうする。
俺一人の力では、ギルガメッシュに勝てはしない。
だからといって、今はバックアップも期待できない。
ひとまず、この土蔵から、出なければ。
幸い、一度精神集中に入っていたので、投影魔術なら、すぐにでも使える。
「ふん、抗うか。まぁ良いだろう。前回は些か、呆気なかったからな。刃向かうことを、赦そう。」
俺の様子を見て、ギルガメッシュは俺が何かを仕掛けようとしているのを察したようだ。
そう告げると同時に、ギルガメッシュの背後が揺らぐ。
―王の財宝―ゲート・オブ・バビロン―!
「っ、投影、開始!」
俺はすぐさま干将莫耶を投影する。
ギルガメッシュの貌が、愉しげに歪む。
俺は躊躇わずにギルガメッシュの懐へと、一歩足を踏み出そうとして―
「ぐっ、」
王の財宝から射出されてきた宝具を、双剣で弾く。
次々と襲い掛かる武器の群に、必死に双剣を振るう。
土蔵の壁や床に、弾いた武器が突き立っていく。
「っは、はぁっ、は―」
荒い息をつく。幾度防いだのか。
その間に何度か双剣は形を無くし、俺はその度、投影しなおしていた。
そのせいもあって、俺は疲弊していた。
対するギルガメッシュは、余裕の表情で、俺を眺めている。
「固有結界は、使わぬのか?」
俺がそれを使えないことは、気付いているだろうに。
ギルガメッシュはわざわざそう、訊いてくる。
俺が唇を噛み締めてギルガメッシュを睨みつけていると。
「…頃合だな。」
ギルガメッシュのその呟きと共に。
「っ!?」
ギルガメッシュの背後から鎖が伸びてきて、俺の両腕に巻きつき縛り上げられる。
その際に手にしていた双剣も、手から零れ落ちた。
鎖の端をギルガメッシュが引いて、俺はなすすべも無くギルガメッシュの前に引き寄せられる。
片手で顎を掴まれて、上向かされる。
「っ、くそっ…!」
俺がそう毒づいても、ギルガメッシュの顔は愉しげなまま。
俺は真っ直ぐにギルガメッシュを睨みつける。
ギルガメッシュが淫靡に嘲笑う。
「ふ…。快楽にどろどろに融けた目も、なかなかであったが。良い、赦す。
 今日は最後まで、その目を我に向けていろ。
 ああ、ひとつ、安心させてやろうか。
 今、この場には誰も寄せ付けぬ結界を張っておる。思う存分、乱れるがいい。」

それが、開始の言葉、だった。


「っ、う…ん、ん」
唇を重ねられ、口内を舌で蹂躙される。
何が悲しくて、俺はまた男にいいようにされているのか。
腕はきつく鎖で縛り上げられていて、動かすたびに、皮膚に鎖がくい込んでくる。
身体をよじって逃げようとしても叶わず、顎をきつく掴まれている為、
口を閉じることも、噛み付くことも出来ない。
あの夜とは、なにもかも違う。
全てがリアルで、気が狂いそうだ。
口内を這い回る舌。服を力任せに全て破き、直接肌に触れてくる指の冷たさ。
それは、俺の下肢にまで及ぶ。
脚をばたつかせると、ギルガメッシュが俺の舌にきつく噛み付く。
食いちぎられそうな程の強さで、目尻に痛みで涙が溜まる。相手の顔がぼやける。
それでも俺は、力を込めて睨み続けた。
ギルガメッシュに言われたからじゃない。
ただ、あの夜のように、堕ちるのが、嫌で。
「…いつまでそうしていられるか。見物だな。」
唇を僅かにはずして、ギルガメッシュが囁き、
「あっ、っう…!!」
ギルガメッシュの手が、俺の中心を掴んできた。
すぐにギルガメッシュの手は俺を追い上げるものに変わる。
竿の部分を擦りあげて、先端を抉るように弄る。
「っ、ぅ…っく」
俺は唇を噛み締めて、零れそうになる声を堪える。
ギルガメッシュは俺の様子に喉の奥で嘲笑い、胸の尖りへと俺に見せ付けるように、舌を這わす。
びくんと身体が跳ねて、じゃらと腕の鎖が鳴った。
ぴちゃ、と音をたてて赤い尖りを舐られる。
軽く歯で挟み込み、そのまま引っ張られる。
「んっ、う…っ、っ」
じん、と身体の奥が疼く。
胸への刺激と同時に与えられていた俺の中心も、どくんと震え、抉られる先端から蜜を零す。
それを塗りこめるように、さらに容赦なく動く指。

ギルガメッシュの唇が、下肢へ降りてくる。
何をされるのか、わかるだけに、ざっと血の気が引いて―
「っぃ、やだっ、っ」
俺は蹴りつけようと脚を振り上げる。
だが、易々とギルガメッシュの手は俺の脚を掴み、大きく広げて押さえつけてきた。
「っ」
息を、呑む。
俺の表情を見ながら、ギルガメッシュが俺の中心へと顔を寄せて、
その赤い舌で、ゆっくりと、舐めあげてきた。
「ひ……っあ、ぁっ」
声を噛み殺せず、与えられた強い快楽に、視界が一瞬白くなる。
俺の中心は、ゆっくりギルガメッシュの口内へ、呑み込まれていく。
じゅ、ときつく、吸い上げられて。
「あ、あっ、は…ゃ、ぁ」
俺は何度も弱く頭を振った。
もちろんそれで、ギルガメッシュの行動が、止まるはずも無く。
ギルガメッシュは俺の中心を嬲りながら、そのさらに奥の窄まりに、指を這わせた。
そこを何度か揉み込み。
ずぶ、と、何の前触れも無く、指を一本、沈み込ませる。
「づっ…い、つぅ…!」
快楽に融けかけていた頭が、一気に冷えた。
裂かれるような、痛み。
そんなもの、あの夜は、感じなかった。
ぐる、と内をかき混ぜるように動く指。
なにかを探すように蠢き。
「っ!!」
その指が、ある場所を抉った瞬間。
俺は達しそうになり、それを見越したギルガメッシュの指が、俺の根元を戒めた。
「は、ぁ…あ」
痛みと快楽。その切替についていけずに、俺は呆然と目を瞬く。
溜まっていた涙が幾筋か、零れた。
たいして解されないまま、ギルガメッシュの指が後孔から引き抜かれ、
俺の中心を一度だけ吸い上げて、ギルガメッシュの口もそこから離れていく。
これで、終わりじゃない。その、先。
脚をギルガメッシュの肩に担ぎ上げられて、
ギルガメッシュが、自身の熱を取り出し、俺の後孔に、それを擦り付けてきた。
「っ…」
怯みそうになる心を抑え付けて、俺はきつくギルガメッシュを睨んだ。
何の意味も持たないことはわかっている。
それがギルガメッシュを愉しませていることも。
それでも視線に、力を込める。
「まだ、堕ちぬか。愉しませてくれるものよ。」
く、と嘲笑い、ギルガメッシュは、俺の身体を。
その熱で、引き裂いた。
「ぐ、ぅあ、あっ、づ…ぅ…!!」
口から零れるのは悲鳴。
滑りなど足りないままに、少しずつ、埋められていく凶暴な熱。
視界が赤く染まるかのような、痛み。
途中で進まなくなったようで、ギルガメッシュが舌をうつのがかろうじて耳に届く。
徐に、痛みに萎えた俺の中心を掴み、性急に擦りあげて煽る。
激しい痛みの中に混じり始める快楽は、とてつもない誘惑だった。
それに縋れば楽になれることは、わかる。
じゃらとなる鎖の冷たさ。
力の入らない腕は役立たず。
ただ荒い呼吸を繰り返す。
俺が受け入れないと、多分ギルガメッシュも辛いだろうなと頭のどこかで思って、
ほんの少しだけ、気が晴れる。
ああ、くそ。このまま、意識を失うことが出来たら、知らない間に終わってくれるだろうか。
けれど、そんなことを、ギルガメッシュが赦すはずなどなく。
「っふ、ぅ…」
中心に与えられる快楽が強くなってきて、痛みに強張っていた身体から力が一瞬、抜けて。
その隙を見過ごすことなく、ギルガメッシュが、一気に腰を入れてきた。
「あ、ああぁっっ!!」
「っ、手こずらせおって。」
俺の上げた声にかまわず、ギルガメッシュがそう毒づくと。
「さて…ゆっくり、味わわせてもらうぞ、雑種。」
獰猛に、嗜虐を存分に滲ませて。
ギルガメッシュは震える俺の唇を舐めた。
肉食獣に喰われる草食獣。
そんなイメージが浮かび、ああ、まさにその通りだなと、もうろくに考えられない頭で思って。
それでも視線だけは、強くギルガメッシュに向けていた。
突き上げが始まり、徐々に快楽に塗りつぶされていっても。



 ああ、また、この夢だ。
 もう、見たくないってのに。
 ギルガメッシュが友と呼ぶ、唯一の存在、エンキドゥ。
 あんた、凄いな。あのギルガメッシュを友と呼べるなんて。
 ギルガメッシュも、それを受け入れているのが意外だ。
 俺の知るあいつは、傲慢で、無慈悲で。
 なのに、エンキドゥと普通に、笑いあっている。
 そんなものを、見たくない。
 俺は、知らない。
 こんなギルガメッシュは知らない。
 知りたくない。
 こんな 記憶で 俺は ―――



意識が浮上する。
背中に誰かの熱。背中から抱き込まれているようだ。
両腕から鎖は外されていた。鎖がくい込んだ跡が残る。
俺のその片方の腕を持ち上げ、傷口に舌を這わせている背後の――
「…なんで、いるんだよ。」
ぽつりと、疑問を俺は口に出していた。
「気付いたか、雑種。」
ギルガメッシュはそう言いながら、俺の手首に口付ける。
「……なにが、したいんだ。」
止せばいいのに、俺は問いかけていた。
一度、音にしてしまえば、もう、止まらない。
「お前、俺のことなんて、なんとも思って、ないだろう?
 むしろ、お前にとって、俺は疎ましいだけの、はずだろう。」
なんで、と再度、問う。
俺はただ、そうであって欲しいと。
でなければ…。

下肢が鈍い痛みを訴える。
頭が痛い。喉も痛い。どこもかしこも、いたい。

「…解らぬか。」
ギルガメッシュが俺の耳元で囁く。
聞きたくない。聞きたい。自分がわからない。
「我が、厭うものに自ら、触れるわけがなかろう。」
ギルガメッシュはそう言って、俺の耳を舐める。
「我の寵愛を受けるだけの価値が、貴様にはあると、言っておるのだ……士郎。」
ギルガメッシュが、俺の名を、呼んだ。
それが、何よりも、俺に衝撃を与えた。
ぐ、と唇を噛む。
知らなければ良かった。戯れだと、思っておけば。
俺はこんな、わけのわからない感情に、囚われることなど、なかった、のに。

「俺は……お前なんて、嫌いだ。」
それだけ、やっと、口に出来た。
そうだ。俺は過去のお前なんて知らない。
今のお前しか、知らない。
こんな、傲慢で無慈悲な奴などに、俺は堕ちたり、しない。

ギルガメッシュがくつくつと愉しげに嘲笑う。
俺の感情など問題ではないと言うように。

俺が先にギルガメッシュに堕ちるか。
ギルガメッシュが先に、俺に厭きるか。
これはきっと、そういう遊戯。
ならば俺は、絶対に負けたりはしない。
心に強く、刻み込む。

けれど身体は、まだ、休息を俺に訴えていて。
魔力だって、根こそぎ奪われた。
俺は、ギルガメッシュに抱かれたまま、
結局再び、意識を手放した。



そして、俺はまた、あいつの夢を見る。
俺が知らない、あいつの側面を、知っていく。











この時点では士郎はギルを許せないだろう、と。
金→士は確実ですが、士郎はこれから。
案外、子供に優しいギルとか見たら、士郎もころっと絆されてしまうかもしれない。
一応ギルは、Fルート仕様で考えて書いたのでこんな感じに。
傍迷惑な愛情。ギルの、初めのセリフと終わりの告白が書きたかった。










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