貴い愚かさ 2



 

「こんにちは、お兄さん。」
深山町と新都をつなぐ大橋の所で、俺は金ぴか子供と出会った。
「あ、ああ。こんにちは。」
つられて挨拶をかえす。金ぴか子供ーギルガメッシュはそんな俺を一度じっと見て、ゆっくりと近付き。
「…身体の方は、平気ですか?」
信じられないことを、問いかけてきた。
「随分、無茶をしたみたいでしたから…その後、身体に異常はありませんか。」
「っな、なんでお前っ…待て。あの夜のことを…どこまで」
なんでもなにもない。同一人物なんだから、この子供が知っているのも当然だ。それはわかってる、わかってるけど…!
「ああ、落ち着いてください、お兄さん。すみません。突然すぎましたね。えっと、大丈夫ですよ。
 今のボクにはあの夜のことは他人事のような感じですから。」
「……あ〜…」
なんだ、本当に申し訳なさそうに俺の目の前に立つ金ぴか子供。
俺は悪くは無いはずなのに…とんでもない犯罪を犯した気分になるのはどうなんだ。
「…身体は、今はもう大丈夫だ。なんともない。」
気づけば正直に答えていた。
「そうですか、安心しました。」
そう言って、子供は邪気のない笑顔をみせるから、うん、本当に別人だったら良かったのになぁなどとしみじみ思ってしまった。

「…なぁ、お前はさ。その…でかい方の自分が何を考えてるかとか、そういうのは、わからないのか。」
橋の欄干に寄りかかりながらなんとなく俺は子供に聞いていた。
「…そうですね。残念ながら、よくわからないです。
 元は同じはずなんですけど…なんであんな風になっちゃったのか。…お兄さんが聞きたいのは、理由 ですか。」
子供はじっと、その赤い瞳で俺を見る。
「…ああ、うん。理由は、あるんなら知りたい、かな。」
「理由があれば、許すんですか?お兄さんは。」
少し呆れた風に子供が言う。
許す?そんなつもりはないが、いや。それ以前の問題なのか。
「…好き勝手されて頭にはきたけど。なんて言うんだろうな、多分、俺があいつを嫌うように、あいつだって、俺のこと
 なんて興味もなかっただろうし。だから、不思議なんだよ。なんでわざわざ、あんなことしてきたのか。」
「…お兄さんって…いえ、いいです。今更ボクが言うべきことじゃないですね。」
子供はそう言って、俺に倣って欄干に寄りかかり。
「さっきお兄さんが言った中で、興味もなかったって言いましたけど、それは違いますよ。」
子供はそこで、一度言葉を止めた。俺は数度瞬いて。
「違う…って?」
先を促した。子供は少し迷ったようだが、意を決して。
「認めることは無いでしょうけど…意識していました。贋作者、偽善者と散々お兄さんのこと貶してましたけど。
 それってよく考えなくても、意識してるって言いませんか。……当然です。贋物でも、その贋物だけで、お兄さんは
 ボクの世界を脅かしたんですから。ヒトである身で…」
そこまで言って、子供は押し黙った。何かを考える素振りをみせる。しかし、そうか。言われてみればそんなこともあった。
もちろんあれは、俺だけの力じゃない。結果的には俺があいつを倒したわけじゃないし。それでも、確かにあのプライドの
高そうなギルガメッシュには、赦せない出来事だったんだろうと思う。
それはわかったが、ならあれはやはりただの趣味の悪い嫌がらせだったんだろうか。随分身体をはった嫌がらせだと思うが…
「違いますよ。」
唐突に子供が俺の思考をよんだかのように言う。
「違うって、なにが。」
「お兄さんあれを嫌がらせじゃないかって考えたんでしょう。」
「う。そんな、顔にでてるか、俺。」
「はい。ですから、違います。…ボク、少しわかってきましたから。」
「理由、わかったっていうのか?」
「ええ。でも、これは教えてあげられないです。」
「え?」
「お兄さんが、ちゃんと考えてわかってくれると嬉しいです。」
子供はそれだけ言うと、それじゃボク、いきますね、と軽く言って立ち去ろうとする。
「っギルガメッシュ!」
思わず名を呼ぶ。子供は一度立ち止まり。
「たとえ生み出すものが 全て贋物でも。その業は その想いは ヒトの身を超えるもの。
 ……その 愚かさを…」
小さな呟きは、あとの方は聞こえず。
それだけを言い残し、子供は走り去った。
一人残された俺は、少しの間立ちつくしていたが。
「…帰るか。」
ぽつりと口にして、家へと足を向けた。

癒えたはずの傷跡が、ずきんと疼くような
そんな感じが した。




気に入ったから、抱いたんだよと。そういうことで。










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