交われた、運命



 

「ギルガメッシュ。」
俺が名前を呼ぶと、ギルガメッシュはちらりと俺を見て、
だがすぐに視線を己が手に持つグラスへと移す。

そこは綺礼の私室だった。
姿が見えないのでどこに行ったのかと思いながらも、別段探す気は無かったのだが、
別件で綺礼の私室に足を運んだら、こうして遭遇した、というわけだ。
ギルガメッシュは何も言わずソファに悠然と座っている。
俺に失せろとも、ここにいろとも、言わない。
だから俺は、綺礼の私室に足を踏み入れた。
まだ、この部屋からは綺礼の気配がするようだ。
ぐるりと室内を見回す。変わらない部屋。10年前からずっと。
そういえば昔は、この部屋にわりと足を運んだ気がする。

ギルガメッシュは、目を閉じ、グラスを揺らす。
中に注がれている液体が波打つ。
おそらくは、ここにある酒のひとつだろう。
ギルガメッシュと綺礼の付き合いは、前回の第四次聖杯戦争の時からだと聞いている。
俺よりも少しだけ、綺礼との付き合いが長かったギルガメッシュ。
この英霊にも、綺礼の死に、何か思う所があるのだろうか。

「…なぁ、ギルガメッシュ。」
気になったので、俺はギルガメッシュに声をかけた。
返事を待つ。
「…許す。続けよ。」
ギルガメッシュが閉じていた目を開き、俺を促した。
「……綺礼の死は、残念、か?」
どう言おうか迷い、結局口にしたのは、そんな言葉。
俺の問いにギルガメッシュは。
「実に、興味深い男であった。そういった点で言うならば、残念、とも言えるか。
 あの男に、自らの内にあるモノと向き合わせたのは、我だからな。
 ああ、存分に、愉しませてもらった。」
そう言って、実に満足げに笑った。

…自らの内にあるモノと、向き合わせた?

「…それ、綺礼のあの、悪癖のこと、か?」
そう。あの、人の不幸にしか至福を感じることができない、という。
「そういうことになるな。」
ギルガメッシュは肯定する。

それはつまり。
ギルガメッシュさえいなければ、或いは綺礼は、別の生き方をしていたのかもしれない、という事。
そう。不思議だった。神父としての信仰心には、嘘が無かったのだから。
ギルガメッシュとの出会いが無ければ、綺礼は本来あるべき神父としての在り方のまま、
静かに一生を終えたのかもしれない。
だが、周りにとっては迷惑極まりない綺礼の悪癖は。
気付き、受け入れた綺礼自身にとっては、ある種の救い、だったのかもしれない。
綺礼にとって、ギルガメッシュとの出会いは、喜ばしいモノであったのかもしれない。
…けれど。

「…本当に、性質が悪いな、ギルガメッシュ。」
出した声は、心底恨めしげな響きだった。
そう言いたくもなる。あの最悪な綺礼と、10年も向き合わされたのだから。
そんな俺の様子を面白そうに見やり、ギルガメッシュが、
「雑種。お前をここへ、導いたのも、我だぞ。」
そんな爆弾発言を落とした。
「……な、に。」
「お前を綺礼に引き合わせたのは、我だと言っておる。
 初めは無視できぬ、ある魔力の残滓を感じた為だったが。
 ……お前も、実に我を愉しませてくれる。」
くつくつと喉奥で笑う、英雄王。

成る程。ギルガメッシュの介入が、
言峰士郎の生か、衛宮士郎の生か。
それを決定付ける重大な要因だったってわけか。
俺は天を仰いだ。本当に、なんて縁だ。

「…悔やむか、我の目に映ってしまった過去の自分を。」
ギルガメッシュが真っ直ぐに俺を見据えてそう言ってくる。

その、血の色のような赤い瞳に、惹かれてしまったのは、
いつからだったか。
自分の口が、笑みの形に歪むのを、感じた。

「…それが、俺の運命だろう。俺は言峰士郎に、なるべくしてなった。
 後悔も何も、無い。ああ、そうだなギルガメッシュ。
 お前が俺の、運命そのものだ。」
俺はギルガメッシュの傍に立った。
ギルガメッシュが空いている方の手を伸ばし、俺を引き寄せる。
抗わずに身を屈めて、俺は、ギルガメッシュの唇を受けた。
強いアルコールの匂いに、くらりとする。
この部屋に来ると、いつも酒の匂いに酔っていた気がする。
口を開き、ギルガメッシュの舌を誘う。
咥内に入ってくる熱い舌。
「っ、ん…ぁ…んぅ」
意味の無い音が、口から漏れる。
しばらく貪られて、僅かに唇を離される。
至近で合う視線。
ふ、と笑みを俺が零せば、ギルガメッシュも目を細めて笑った。

「俺も、少し飲むか。」
言って、棚を見る。
見つけたのは、そう、これだったはずだと、俺はギルガメッシュから離れて、その酒を取りに行った。
それは、この教会へ来たばかりの頃に、初めて綺礼の部屋で口にしたモノ。
少しの感傷に浸ることぐらいは、いいだろう。
綺礼をこの手で倒したことに、後悔は無い。
けれど。別に俺は、綺礼が憎くて、そうした訳じゃない。
寧ろ、それは―――。

ギルガメッシュの座るソファ。
隣に腰掛ける。
ギルガメッシュは再び、黙ってグラスを傾けていた。
持ってきたそれを、俺はグラスに注ぐ。
――全ての夜を、憶えている。
俺はグラスを軽く掲げて、一度、祈るように目を閉じ。
――俺には祈る神など、いないけれど――
そうしてグラスに口を付けた。
喉を灼くアルコール。胃に落ちて、そこさえも灼く。
あの日を思い出す。 大火事。 灼けた身体。
俺は一度死に、甦り、今ここにいる。
その運命に、感謝を。

この身を救った 衛宮切嗣に
この身を攫った 英雄王に
この身を育てた 言峰綺礼に


程よく酔いがまわった頃。
「士郎。」
ギルガメッシュが俺の名を呼ぶ。
随分それは、久しぶりな気がした。
俺は自分のグラスをテーブルに置き、
ギルガメッシュが手にしていたグラスも奪い、テーブルに置いた。
直後。ソファに押し倒される。
俺を見下ろす赤の瞳。長い睫毛。通った鼻梁。
神々に祝福された存在。
そのギルガメッシュが、俺を俺として見てくれている。
そのことを、今は素直に嬉しく思える。
落とされる口付け。肌を這う舌は淫らで、俺はすぐに乱される。
「は…ぁ、ぁ」
「ふ、淫乱に、なったものだな。」
「おま、えがっ、変えたんじゃ…ない、かっ…ぅ…」
「ああ、そうだ。光栄に思えよ、士郎。我に愛でられることをな。」
ギルガメッシュは震える俺の身体を満足げに撫で、服を剥ぎ取り、露わになった肌に唇を這わせる。
強く吸い付き、俺の肌に紅い華を咲かせていく。
敏感な胸の尖りに爪をかけ、指の腹で押し潰す。
そのたびに跳ねる身体。
下肢を覆うものも奪われ、全てを晒されたそこへも唇を這わされる。
脚の付け根に歯をたてられ、吸い付き、舌で舐められ。
直接触れられてもいないのに、俺の中心は熱を持ち、どくんと脈打つ。
「あ…っふ、ぅ…ん、ん…っ」
口元に手を当てて堪える。
舐めるように俺を見るギルガメッシュのその視線にさえも、感じる。
ギルガメッシュの指が、つ、と竿に触れた。
びくと震える俺を、喉奥で笑う音。
先端を咥内に含まれる。
ちゅ、と吸われ、腰が震える。
ゆるゆると与えられる快楽に、思考はどろどろに融けていく。
中心を嬲りながら、ギルガメッシュの指が後ろの窄まりを擽る。
すぐにそれは、なかに埋め込まれた。
入り口が僅かに抵抗を見せるだけで、呑み込んでしまえば、
絡みつくように俺のそこはギルガメッシュの指を締め付ける。
指が、二本三本と増え、濡れた音が響き、中心を嬲る
ギルガメッシュの手が追い上げるように強く竿を扱き上げて、
後孔の中の前立腺を、指が抉り――
「っあぁっ!!…ぁ、」
ギルガメッシュの咥内で、俺は果てる。
余さず俺の白濁を飲み干すギルガメッシュ。
この瞬間は、いつも、なんとも言えない。慣れない。
胸を上下させて荒い息をつく。
ギルガメッシュがようやく俺の下肢から顔を上げて、後孔からも指を引き抜いた。
「ぅん…っ」
喪失感に小さく声を漏らす。
ギルガメッシュが自身の前を寛げる気配。
俺の脚を抱え、融けきったそこに、あてがい。
「ぅ…っく、あ、っ、あぁ、あ!」
ずぶりと奥まで貫かれる。
容赦などなく、すぐに揺さぶられる身体。
それについていこうと俺は与えられる快楽を必死に追いかける。
「あ、ぁっ、は、はっ、あ、あぅっ」
突き上げられれば声を上げる。
ず、じゅぷ、と粘ついた音が耳に届き、それさえも、俺を快楽に堕とす。
徐にギルガメッシュが身体を倒して、俺の息すら奪う。
重ねられた唇。絡められる舌。苦味。俺の残滓の味。
流し込まれる唾液と共に、自らの内に飲み下す。
「んっ、あ、ぁ、あっ――!!」
最後とばかりの強い突き上げに、俺はなかの快楽だけで達し、内部の熱を締め上げ、
ギルガメッシュも、俺の最奥に、熱を叩き付けた。
同時にギルガメッシュへと流れる俺の魔力。

「は…ぁ……あ…」
脱力した俺の身体を、ギルガメッシュが起こす。
その身を繋げたまま。
座るギルガメッシュに跨る格好。
身体を支える為に、ギルガメッシュに縋れば、
ギルガメッシュが俺の背を撫でてくる。

傲慢で、無慈悲な王が見せる、自らが愛でるモノに対してのみ見せる意外な寛容さ。
結局、そういう所に、俺はすっかり絆されてしまっている。
いつまでギルガメッシュが現界していられるのかは、わからない。
先のことは、何も、見えない。
だから俺は、今を甘受する。
この王の望むままに、この身を捧げよう。
俺も、この王に奪われるだけでなく、
与えられてもいるのだから、文句など無い。


もし、神が本当に存在するのならば。
俺は心から感謝しよう。
ギルガメッシュと、こうして交われた、運命を。








その後、金士ED。
あんまり深く考えてなかったけど、これは、
ギルだけ残ったと考えたほうが色々平和っぽいですね。
アーチャー残ってたら、ラインで士郎の状態だだ漏れ…













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