たった数日の



 

――A

「…全部、手放した。お前をずっと、ここに繋ぎ止めておける訳じゃ、ないのにな。
 …馬鹿だ。でも、それでも俺は。…アーチャー、お前が、好きだよ。」

それが、言峰士郎が最期に辿り着いた、答え。
言葉通り、言峰士郎は全てを手放した。
ギルガメッシュを己が手で、還し。
言峰綺礼を己が手で、倒し。
この男が繋ぎ止めておきたかったであろう、ランサーとセイバーも、戦いの果てに還っていった。
そうして、辛うじて姿を留める私に。
黄金に包まれる夜明けの中。
言峰士郎は、言った。

そのまま、消えるつもりだった。
この男は、衛宮士郎ではない。
衛宮士郎の片鱗のようなものは、見える。
けれど、この男は、私の過去では無い。
関心は、それ程無かった。
一度、二度、剣を向けはしたが、それだけ。
殺すにまでは至らず。
その理由が、この男が自分ではないと思った為なのか。
それとも、他に理由が、あるのか。

「…士郎。」
名を呼べば。
今にも泣き出しそうな顔に歪むくせに、強く笑みを見せて。
「俺は、お前じゃない。衛宮士郎じゃ、ない。
 お前を否定できはしないし……お前の想いを晴らすこともできない。
 お前にとっての俺が、たいした存在じゃないってことは、わかってる。
 …わかってる。俺に出来ることは、想うことだけ。
 お前を無理矢理、繋ぎ止めることが出来るだけの魔力だって無い。
 だから、想うだけだ。
 俺は。アーチャー、お前が、好きだ。
 お前が厭う、お前の過去も、お前を構成する全てが。……好きだ。」
それは、告白。
最期の、この時に。或いは相応しいものなのか。

私は、揺らいだ。
消えようと決めていた意志が、揺らいだ。
…惹かれて、いたのかもしれない。
この、言峰士郎という、存在に。
歪さは、衛宮士郎と変わらないだろう。
だが、衛宮士郎には無かったものが、この男にはあった。
衛宮士郎が、最後に選ぶのは自分ではなく他人。
その果てに、英霊に、なった。
この男が、最後に選ぶのは、己自身。
それが、決定的な差。
その差に、絶望し、羨望したのは、いったい、誰だ。


冷静に、この身の状態を、探る。
あと数刻ならば、現界が可能。
その間に魔力供給を受ければ、さて、果たしてどれほど保つものか。
結果は変わらない。遠からず、この身は還る。――座に。
それでも、ほんの僅かな時でも、この男が、望むのならば。

「…望みは、あるか。」
私の問い掛けに、士郎は真っ直ぐに視線を向けてくる。
私の真意を探るように。
「お前は、私のマスターだろう。サーヴァントであるこの身で叶うことならば。
 …マスターの意思に、従おう。………命を。マスター。」
結局の所、私達に相応しい関係は、この時点では主従の形でしか無い。
だから、私が口にしたのは、そんなことだ。
その言葉から、何を読み取ったのか。
士郎は数度、瞬き。
「…教会に、戻るぞ。俺の今ある魔力、全部、くれてやる。
 だから、それまで意地でも保たせろ、アーチャー。」
マスターとしての言葉を、告げた。
「…了解した、マスター。」
私は頷き、士郎の身体を抱きかかえ、地を蹴った。
触れた士郎の身体は、一瞬強張り、だがすぐに、強く私を掻き抱く。
その意味に、眩暈を感じながら。

私は、言峰士郎の、手をとった。






――S

今の、この状態で渡せる魔力など、たかが知れている。
下手をすれば、俺自身の命ごと持っていかれるかもしれない。
そうして、今なんとか繋ぎ止めても、たいした時間は保たないかも、しれない。
ああ、それでも。
今、失うことだけが、嫌だった。
今、俺は、こいつを、アーチャーを繋ぎ止めたい。
言ってやりたいことが、まだ、あるんだ。


教会に戻り、俺の使う部屋に辿り着く。
アーチャーは俺をベッドに降ろす。
すぐにその身体が、覆い被さってきた。
血液による魔力摂取では、埒があかない。
ならば取るべき手段は、ひとつだけ。
意思確認など無く。
お互いが望む行動が、重なり合う。
唇を重ね、舌を絡めあい、唾液を交換する。
アーチャーが俺の下肢を覆う衣服を取り去り、中心に触れて、掴み、擦りあげる。
俺もアーチャーの下肢、前を寛げ、中心に触れ、同じように撫で上げる。
「っあ、…ふ、ぅ、っん……ん、っぅ…」
「は……っ、」
唇を重ね合わせたまま。獣のような息づかい。
俺の息を奪うように、アーチャーの息を、奪うように。
「つ……!」
徐に、俺の後孔に差し込まれたアーチャーの指。
俺が中心から零した腺液のみを纏わせたその指に滑りは足りず、ぎちりと内部が悲鳴をあげる。
「ぐ…っは……ぅ、っ」
内臓を抉られる不快感に呻く。
アーチャーはそんな俺を見て、指を引き抜き、俺をひっくり返した。
ベッドに腹這いになったかと思えば、腰を引き上げられ、四つん這いに。
何を、と思う間もなく、俺の後孔に熱い息が吹きかかり。
「…ひ……っ」
熱い滑り。
アーチャーの舌が、そこに触れてきた。
指で広げ、舌をねじ込み唾液をなかに注ぐ。
ある程度、唾液を送り込んだ後、再び指を一本含ませてくる。
比較的、すんなりと受け入れ、アーチャーの指を締め付ける後孔。
すぐにもう一本増やし、ぐるりとなかをかき混ぜてくる。
「あ…っ、あっ、ふ…う、」
ぐちぐちと濡れた音が鳴り響く。
指の質量に慣れてきたそこから、アーチャーが指を引き抜いた。

そして、あてがわれたアーチャーの、熱。
何度か擦り付けられて、息を呑む。
は、と息を吐き出し、俺が力を抜くと同時に、
ぐち、と音を立て、巨大な質量が、俺の後孔を――貫いた。
「――っ!づぅ…っあ、あ!!」
喉から零れた苦鳴。
アーチャーは俺の腰を強く掴み、最奥まで一息に押し込んできた。
初めて受け入れた、その熱と質量に、俺の身体は悲鳴をあげる。
いや、それだけじゃ、ない。
確実に、そこには歓喜も、ある。
身体は痛みを訴えるが、心が、悦んでいる。
「は、はぁっ、あ、あっ、あぁっ」
軽く揺さぶられて、声をあげる。
なかで脈打つアーチャーの熱。
シーツを握り締めた俺の手を、アーチャーが上から掴んできた。
アーチャーの少し乱れた息づかいを感じる。
首筋にアーチャーの息がかかり、獣の性交のように、俺の首筋に噛み付いてきて――
「うぁっ…あ!あっ、んっ、んっぅ…!」
そのまま、強く俺を突き上げて、きた。
俺が喘ぎを零すほどに、なかのアーチャーの熱は質量を増すようで。
その熱で前立腺を擦り上げられ、意識が削り取られるような快絶に、俺は喘ぐ。
達しかけた俺の中心の根元を、アーチャーが、手で掴み戒める。
吐き出せないことで、さらなる快楽が身体の中を暴れまわる。
「あ、あっ、くぅっ…ぅん…っ」
次第に自分の喘ぎが、泣き声じみてくるのに気付いたが、どうしようもなかった。

この熱を、知ってしまったのに。
すぐに俺は、こいつを失うのだと。
わかりきったことに、今更、強く気付かされて。
本当に、俺は、馬鹿だ。

「あ、アー、チャー、っ」
なんとか名前を呼ぶ。
そんな俺に何を感じたのか。
アーチャーは突き上げを止めて身体をおこし、俺の脚を掴んで、
「え…ぁ、ま、て…!っむりっ、あ、あァっ!!」
繋がったそのまま、強引に、俺の身体を仰向けにした。
「づぅ…!っおま、えっ、なにす、っん!」
俺の抗議は、すぐにアーチャーの唇によって封じ込められた。
やや乱暴に塞がれる唇。
俺はすぐにそれに、溺れた。
至近距離で俺を見るアーチャーの目に、今映っているのは、俺だと。そう、思えたから。
再び腰を打ち付けてきたアーチャーの身体に、俺は腕をまわし、しっかりと抱きつく。
のぼりつめるまで、あと、少し。

俺は、この熱を身体に刻んで、生きていく。
だから、なぁ、アーチャー。
こんな馬鹿な奴が、いたんだと、少しでいいから、憶えていてくれ
結局全てを失うのに、この刹那の為だけに、自ら全てを手放した、馬鹿な俺を。

「っあ、あぁっ…!!」
「く……ぅっ!」

訪れた絶頂と共に、俺にあった残り少ない魔力が、アーチャーに流れていく。
全てを渡しても、満たされない。足りない。
それでも、殆ど空だったアーチャーの身に、俺の魔力が流れ込む。
それを見届けて、俺は意識を手放してしまった。
最悪、これが最期かもしれないと、覚悟しながらも―――






――A

足りない。
身体が無意識に、その命ごと喰らおうとするのを、強く戒める。
注がれた少量の魔力は、甘い蜜のようだった。
身体が訴える。もっと、喰らいたい、と。
自分の腕の中。最後に縋るような目を向けて、意識を失った士郎を、強く、掻き抱いた。

――おかしな話だ。こうして身体を重ねて、ようやく気付く、想いがある。

士郎が、意識を取り戻すまでは、保つだろうか。
たとえ、そこまで保った所で、繰り返すだけ。
少し回復した士郎の魔力を喰らう為に、また抱くのか。
自嘲の笑みを浮かべる。
今更だ。どうにもならないことはお互い承知済みだというのに。
士郎の多少血の気を失った、その閉じた瞼に口付けを落とす。そして、唇にも。






それは、言峰士郎が望んだ、たった数日の、繋がり。









その後の弓士ヴァージョン。
魔力供給を繰り返して、数日後に目覚めた士郎の隣に
アーチャーの姿はもうなかった、という最後です。
きっと初夜のタイミングが悪かったんだね。
最終決戦前にすませないと駄目なんだよ。
フラグがたりなかったんだな。そんな弓士ED。
たまには悲恋もいいかな、とか。










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