雨の中で



 

「何をしている。」
雨の降る墓地にひっそりと佇んでいた士郎に綺礼が問いかける。
士郎は傘をさしてはいなかった。全身濡れている。どれぐらいここに佇んでいたのか。
綺礼もすぐに戻るつもりだったので、傘をささずにきていたが。
「雨に濡れたい気分だったんだ。」
士郎は綺礼と目をあわさないままに答える。
そうかとだけ綺礼は返し、端的にここに来た理由を告げる。
「ギルガメッシュが呼んでいる。私は構わないが、あれをあまり待たせないほうがいいだろう。」
そう言った綺礼に士郎は向き直り、一言。
「なんだ、綺礼。あいつの使い走りか。」
「ふ。否定はせんよ。」
どこか可笑しそうに笑う綺礼。
「あんた、ギルガメッシュには甘いよな。」
呆れた風に士郎が言えば。
「確かにそうかもしれん。あれの生き様は見ていて興味深い。」
そう肯定する綺礼。
「お前もあいつも、どっちも最悪だよな。実際。」
溜息をつきつつ士郎が言う。綺礼は目を細め。
「そういうお前も、ここへ来た頃と比べれば、随分変わったものだ。」
感慨深く言葉にする。士郎は瞬き一つし、
「それはあれだろ、”子供は育ての親に似る”あんたに育てられた覚えはないけどな。
 何年も一緒に生活してれば、どうしたって似るだろう。
 …む、そうするとギルガメッシュもそれに当てはまるのか。どっちも嬉しくないよな。」
そう言って笑った表情は、ギルガメッシュのそれと、どこか似ていた。
あの大火災で、それまで士郎を形作っていたものが、一度白紙になったのだろう。
ならば、確かに士郎は自らの子と呼べるものかもしれないと綺礼は考える。
時折、凛が士郎をみて嫌そうにしているのは、自分とも似た部分がある為かと納得する。
「確かに、私の子供だな、お前は。」
綺礼が言うと。
「残念ながら、な。慣れって怖いよ。あんたのその性格にも、ギルガメッシュの王様ぶりにも
 すっかり慣れた。」
士郎はそう答えて、濡れた前髪を無造作にかきあげた。
「…さて。そろそろ王様のところに行くか。」
抑揚のない声で呟き、士郎は教会へと足を向けて。
「綺礼、あんたも戻るんだろ。」
振り向かずにそう声をかける。
「…そうだな。」
綺礼は頷いて、士郎の歩く少し後ろを、士郎と一定の距離を保ちながら歩き出した。

雨に濡れた二人。神父服は水をすって、黒く 暗く 重く。
だがそんなものを感じさせずに歩く二人。
その姿はきっと、第三者から見れば、よく似た親子のように映ったことだろう。



雨ネタ考えてて、エロじゃないネタが浮かんだので。
言峰親子。HFのラスト間際での、VS言峰戦での士郎の
独白をみてると、意外に言峰とも親子関係築けるんじゃ…
とか思ったり。名前の呼び方は、切嗣のことを名前呼びしたり
してたので言峰のことも綺礼と呼んでてもいいかな、と。
聖杯戦争が始まる一年か二年前くらいで。

















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