組み手



 

「はっ!」
力を込めて、俺は綺礼に拳を打ち付ける。
綺礼はそれを微動だにせずにするりと受け流す。
間髪いれずに振り上げた脚も難なくかわされて。
「くそっ、逃げんな綺礼!!」
俺がそう怒鳴っても綺礼は素知らぬ顔。
いや、少し口元が愉しげに歪んでいる。

教会の中庭。一応俺と綺礼がやっているのは、組み手のようなもの。
綺礼は神父のくせに格闘技(中国拳法の八極拳というやつだ)を身につけていて。
いや、もうわかってる。綺礼を神父というくくりで考えても無駄だと。
やたら体つきがいいのである日なんとなく訊いてみたら、
綺礼も気が向いたのか答えてくれて。
それ以来、俺は綺礼に拳法もどきのようなものを教えてもらい、
こんな風に時間をつくって相手をしてもらっている。
基本は教わったが、あとは勝手に綺礼の動きをみて真似ているのだが。
綺礼はもちろん本気じゃない。
そうでなければ俺など向き合った時点で倒されている。
だから綺礼が自分から動くことは殆ど無い。俺の振るう拳を、脚を、ただ受け流すだけ。
そして頃合をみて、最後に一発だけ俺にあててくる。
それは拳であったり脚であったり、その時々でかわるのだが、その一発も、
かなり綺礼にしては力を抜いているのだろうが、受け損なうとこれが結構キツい。

今日はここまで、と腹に一発くらって、俺が腹をおさえながらうずくまって荒い息を吐いていると。
「お前は格闘技の方は、あまり向いていないようだな。」
綺礼がずばりと言ってきた。
……薄々そんな気はしていたが、面と向かって言われるとちょっとへこむ。
「凛はなかなか素質があるようだが。」
さらにへこむことを綺礼は言う。
遠坂も綺礼に格闘技を教わっていた。なんとなく嫌な予感がして、
遠坂と一緒に綺礼に教わっているわけではないのだが。
「…向いてなくても、体を鍛えることにはなるだろ。俺はやめないぞ。」
俺が綺礼を見上げながら、半分意地になってそう言うと。
「ああ、別にやめろとは言わんよ。
 ただ、どうせなら向いているモノを身につける方が良かろう。
 そうだな…剣でもとってみるか?」
「剣?…あんたが使う黒鍵とかいうやつのことか?」
「いや、アレは特殊だからな。お前には向かんだろう。
 私が言っているのは一般的な刀剣のことだ。
 投影魔術でよく創っているだろう、おそらくお前の属性は剣なのだろうな。
 ならばそれを巧く使えばいい。」
「…俺が剣を使ったとして、綺礼は何の武器も持たずに俺の相手をするっていうのか?」
「今の段階ならば別段、問題はなかろう。お前の腕があがれば、その時に考えればいいことだ。」
「む。」
俺がどんなものを使って綺礼に挑もうとも、全て受け流せるとそういうことを綺礼は言っている。
…悔しいが事実だ。でもやっぱり悔しい。
それが顔にでていたのか。綺礼は上機嫌だ。こいつは俺がもがくのを心から愉しんでいやがる。
「…わかった。次から剣を使ってみる。けど、拳法の方も続けるからな。」
俺がそう答えると、綺礼は目を細めて、
「ふ、好きにするがいい。」
それだけ言って、そうして綺礼は俺に背中を向け。
「さて、今日は泰山の麻婆豆腐でも食うか。」
問題発言を残していった。
「っま、待てっ綺礼!飯なら俺がつくるっ!!」
「無理をするな。今日は多少、力を込めたからな。腹が痛むだろう。
 お前の分も私が用意しよう。待っているといい。」
「いつもよりキツいと思ったけど、それが目的か!?何度も言うけどな、食えるかあんなもの!!」
「私は好きだが。」
「あんたと一緒にするな!」

そんなこんなで、初めは不安極まりなかった教会での生活。
綺礼との親子関係も、普通とは決して言えないが、それなりにうまくやっていけている……はずだ。







このあと、きっとギルも交えてマーボー食わされたんだよ。
綺礼と士郎の組み手の話は、ずっと書きたいなーと思いつつ、
組み手部分を書くのにてこずって結局は書くの逃げましたが。
なんというか、戦闘シーンを書けるようになりたいなぁ。

















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