にせものとほんもの



 

「貴様も懲りぬな。」
「…うるさい。」

俺は手に持った剣もどきを無造作に横に投げた。
がらんと音を立てて、残骸の山が崩れる。
俺はまた、夢で見る剣の投影を試みていた。
結果は、ギルガメッシュが呆れ混じりに声をかけてきた通り。
残骸の山が出来ただけ。
むぅと唸る。
何が足りないのか。
きっと何もかもが足りない。
ただ躍起になっているだけでは、いつまでも成功しない。
それはわかっていたが、それでも、何もしないでいるよりはマシだろうと、
そう思って俺は必死に夢の中の剣の記憶を辿り投影し続けた。
一度集中してしまうと、時間も忘れる。
それこそ自分の中の魔力が尽きる寸前まで。

ギルガメッシュの声が届いたことで、俺は現実に戻ってきた。

なんでわざわざ声をかけてくるんだろうと思う。
俺が投影することを、ギルガメッシュは面白くなさそうに見る。
俺は自分の部屋にこもって投影の練習をしているから、
見たくなければここへこなければいいだけの話だ。
ギルガメッシュのことは、やっぱりよくわからない。

ふ、とひとつ溜息のようなものが聞こえて、俺は顔を上げた。
ギルガメッシュが俺の傍にやってくる。
「…なんだよ。」
俺がそう訊くと、ギルガメッシュは赤い瞳を細めて、
「雑種。貴様に本物を、見せてやろう。」
そう告げると、右手を掲げた。
空間が軋む。ギルガメッシュの背後が歪む。
水面のように揺れる、何も無い空間から、ソレは現れてきた。
一振りの剣。
それには見覚えがあった。
同じなのに、違うモノ。
それでもソレが本物だと、わかる。
目が、離せない。
「貴様が創り出そうとしているモノは、これであろう。」
ギルガメッシュが柄を手に取り、空間から完全に引き出して俺にその剣の先を向けてくる。
俺は魅入られたように、瞬きすら忘れて、その剣を見た。
「…なん、で、それ、ギルガメッシュが、持っているんだ?
 いや、俺が夢で見る剣とは、違う、けど、でも同じ…?」
俺はやっとそれだけを呟いた。
「フン。見る能力には長けておるようだな。
 これは、原型<オリジナル>。
 この世にある全ては我のモノだが、
 その中でも原型<オリジナル>だけは、今も我自身が所持している。
 これで思い知ったであろう。
 貴様が創り出すモノは所詮、贋作。本物に届くことは、無い。」
ギルガメッシュの言葉は、俺の中に、あまり入ってこなかった。
見る。その、美しい剣を、見る。
ギルガメッシュは無理だと、無駄だと言うが。
俺は創り出したいという想いをさらに強めた。
それと共に、今の自分では絶対に届かないことも、痛いほど理解する。
今、自分がすべきことは、魔術の鍛錬。それしかない。
そうすればいつか、届く。
創ってみせる。

ギルガメッシュには、俺が考えていることなど、バレていると思う。
けれど、特に何も言わなかった。
どんな気紛れだろう。
俺がこんな風に心を決めることは、きっと解っていただろうに、
どうして俺に、本物を見せてくれる気になったのか。
本物を持つ身なら、偽物を嫌うのも、わかる。
だから俺に投影を止めさせたいのかと思っていたが、どうもそれだけではないらしい。

「…ギルガメッシュ。触ってみても、いいか?」
駄目もとで訊いてみる。
ギルガメッシュは、少し考える素振りを見せた後、軽く頷き、その剣を俺の目の前に突き立てた。
鈍く光を放つ鋼。
迷わず俺は、その刃の部分に右手を置く。
手を滑らせると、小さな痛みが走った。
多分、薄く手のひらを切ったんだろう。
血で汚すとギルガメッシュが怒りそうだなと思い、右手を離して、今度は左手を触れさせる。
鋼の冷たさ、感触を、しっかりと記憶する。
いつか、必ず、投影してみせる。
そう何度も心に刻んで、俺は手を離した。
「ギルガメッシュ、ありがとう。」
俺は素直に礼を口にした。
ギルガメッシュは俺に答えず、突き立てた剣を手に取り、
一度、ぶんと振ると、あっという間にそれを空間へ納めた。

そして、俺の右手を掴んでくる。

「…やはりな。」
「う。」

右手のひらは、血で滲み、真っ赤になっていた。
ギルガメッシュはそこに躊躇わずに唇を当ててくる。
あ、前もこうしたな、と思い出す。
俺は黙ってギルガメッシュに自分の血、魔力を捧げた。

「本当に、懲りぬ雑種よ。」

俺の手に唇を当てたまま、そう言ったギルガメッシュは、随分、愉しげだった。







<一人遊び>後日。
聖剣投影を諦めない士郎に呆れつつも、
後押ししてやろうという気紛れをおこした
ギルガメッシュ、でした。
現実に本物を見て、理解すれば、まず何をすべきか
見えてくるだろうと。
出来上がる投影物には全く興味は無いが、その過程には
興味がある、という。

















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