歪な盾 7



  「たわけ。」 「つ…!」 傷ついた俺の身体に包帯を巻いていくアーチャー。 眉間には深い皺を刻んだまま、苛立っているだろうに、優しく丁寧に。 「…身体が勝手に動いたんだから、仕方ないだろ。」 俺はとりあえず言い訳をしてみるが、 無茶をしたということは承知しているので、自然と声は小さくなる。 アーチャーは溜息をつき、言う。 「英霊を庇う人間なぞ……ああ、ここに馬鹿がいるか。」 「ぐ。」 反論できずに、俺は押し黙る。 アーチャーを狙って突き出された刃物を、俺は自分の身体で受け止めていた。 無意識に。 本当は、逆にその相手を倒すことで、それを防ぐことができていれば良かったのだが。 頭が真っ白になった。 いつか見た、あの、アーチャーの最期。 無数の鋼に貫かれた背中を、思い出したせいで。 「…見たく、ないんだよ。お前が傷つく姿。」 俺の身体に包帯を巻き終えて、アーチャーの手が離れかけた所で、 俺は顔を俯けて、ぽつりと零した。 深い傷を負ったのは、背中側の左肩付近。 未だじわりと血が滲む。 聖杯戦争時に見せた回復力は今の俺には無い。 だから酷い傷を負えば、死ぬだけの、普通の身体。 この体が剣で出来ているのだとしても。 ぎり、と歯軋りする音が聞こえた。 次の瞬間、俺は乱暴に押し倒された。 ベッドに腰掛けて手当てを受けていたので、そのままベッドに押し付けられる。 「何する…」 文句を言おうとアーチャーを見上げた俺は、途中で言葉を止めた。 俺の両肩に指を食い込ませて、のしかかってきたアーチャー。 その顔は、激情を堪えるように、歪んでいた。 怒りとも、哀しみとも、とれるような貌。 「…貴様は、…オレも、貴様と同じなのだとは思わんのか。」 「アー、チャー」 「…この身体が、オレ以外のモノの手で傷つくなぞ、赦せると思うか?  ああ、いっそオレの手で、引き裂いてやろうか。」 「っ、」 アーチャーの手が、俺の傷口に、包帯の上から触れて、ぐ、と爪をたててきて。 俺は痛みに息をつめる。 だが、その痛みは、どこか甘かった。 本当に俺はアーチャーに参っているらしい。 殺意にも似た激情をぶつけられて喜ぶなど。 「…俺が、悪かった。  二度とこんな失敗はしない…とは言い切れないけどな。  次からはもっと、気をつける。」 俺は素直に謝った。約束は出来なかったけれど。 しばらくアーチャーは俺を見下ろしていたが、 ふ、と諦めたように小さく息を吐いて、俺に覆い被さってきた。 腰に腕を巻きつけてきて、強く抱き締められる。 俺もアーチャーの背中に腕をまわした。 感情的になると、アーチャーは自分のことを『オレ』と言う。 おそらく生前、そんな話し方をしていたんだろう。 最近は、それが多くなってきたように思う。 人間性が色濃く出てきた、というか。 もちろん俺の前でだけ。 それが、俺には、たまらなく嬉しい。 「なぁ、アーチャー。俺、死ぬ時はお前の手にかかりたい。  他の誰でも無く、時間、でもなく。  まだまだ、死ぬつもりは、無いけどさ。」 俺にとっては限りなく本心だったが、冗談混じりに、そうアーチャーに言ってみた。 アーチャーがそれをどうとったのかは、解らなかったが。 「……たわけ。」 アーチャーはそれだけ呟いて、俺を抱く腕に力を込めてきた。 重なり合う熱が心地よくて。 俺は傷口が訴える痛みも忘れて、アーチャーの体温に目を閉じ、浸った。 その後の二人。傷。 メンタル面では士郎よりアーチャーの方が弱くなってます。 受が攻を支えるのって好きです。へたれ攻万歳。 小話・雑感部屋へ戻る