歪な盾 5



  ああ、本当に、エミヤシロウという男は。 旅立つ前に、二人が挨拶に来てくれたのは良しとする。 まぁ、当然のことだけれど。 問題は。いかにも、うまくいきました、というか。 言ってしまえば付き合い始めの幸せな雰囲気を振りまくカップルにみえてしまう所だ。 いや、結婚報告に来た二人か。 どちらでも同じだ。意味も無く殴りたくなる。 なので、わたしはガンドを至近距離で撃ってやった。 避けることを見越して、あたるようにわざとずらして。 なのに、こいつらときたら微動だにしなかった。 「ちょっと。何で避けないのよ。せっかくあててやろうと思ったのに!」 「……遠坂?」 「…凛……」 わたしが文句を言えば、士郎もアーチャーも少し青ざめた表情で名を呼んでくる。 まったく、この二人ときたら! 「士郎。良かったわね。長年の片想いが報われて。」 にっこり。極上の微笑みを浮かべて言ってやる。 士郎は今度は赤くなった。相変わらずわかりやすいというか、実にからかいがいのある男だ。 横に立つアーチャーは呆れた顔で士郎をみているけれど。 「アーチャー。あなたもさぞかし、熱烈な告白を受けたんでしょうね。」 わたしがそう話を向ければ、アーチャーは、む、と唸る。 うん。覚悟はしていた。していたけれど。 わたしの元、弟子と、元、サーヴァントが、こんな関係になるのを見る羽目になるなんて。 エミヤシロウの幸せを望んだのは本心だけれど。 もともとこの男の幸せの形は歪だった。 それを考えれば、少しは自身に向けた幸せの形になったのかもしれない。が。 片や、一度は否定した、自身の未来の形 片や、何度も殺意を抱いた、自身の過去の形 事情を知るだけに今のこの二人の関係の異常性には眩暈がする。 でも。お互いの存在を赦し合えた、その形、というのであれば。 ああ、祝福しないわけには、いかないじゃない。 「アーチャー。士郎のこと、しっかり見てなさいよ。  ほっといたら、道が無いのに走り出して転げ落ちるような奴なんだから。」 「…ふ、承知している。」 「遠坂…お前、俺のこと、そんな目でみてたのか?」 「あら、今頃気がついたの?  だから心配でずっと、傍でみていたんじゃない。」 「…ああ、うん。そうだった、な。」 そうして、わたしは。二人を見送る。 最後にひとこと。 「士郎、アーチャー。わたし、あなた達を愛しているわ。  だから、絶対に、誰よりも。幸せになるのよ。いいわね?」 言って、エミヤシロウ二人一緒に抱きしめた。 わたしより背も高いし体格もいい二人を一度に抱きしめることなんて出来ないので、 実際は、並び立つ二人に腕をまわしただけだけれど。 そうしたら。 「「ありがとう、遠坂」」 見事に重なった二人の声。 その後の、わたしの髪を一房すくい、軽く口付けを落とした行動まで、ぴったり重なって。 二人は意図せず同じになった言葉と行動に、軽く驚いていたようだが、すぐにお互いよく似た笑みを零す。 が、わたしは流石に、それどころではなく。 やられた、と思う。 アーチャーが、そういう気障な真似をするのには、なんとか平静でいられる。 けれど、士郎にやられるのには、参る。 逆に、士郎に遠坂と呼ばれるのは当然だけれど。 アーチャーに遠坂と呼ばれるのは、くすぐったくて、参るのだ。 ああ、本当に、二人はエミヤシロウなんだなぁと思う。 きっと、顔は赤くなっているだろうけれど。 わたしは、改めて二人に言った。 「じゃあ、行って来なさい。戻ったら、ちゃんと、顔を見せに来なさいよ。」 「…ああ。行って来る。」 「…ではな。」 士郎とアーチャーは頷き、手をあげて歩いていった。 遠ざかる二人の背中を少しだけ見送って。 わたしは晴れやかな気持ちで空を見上げた。 エミヤシロウに負けてなどいられない。 そう、強く思いながら。  見上げた空は とても 蒼かった 凛視点の後日談です。 この話での凛の二人への愛情は、恋愛ではなく親愛のようなものです。なので、こんな感じに。 トゥルーEDまではゲーム通りで、その後に士郎がアーチャーへの想いに目覚めて〜という妄想をしてみた。 気持ち的にレアルタのトゥルーED。それなら凛とも清い関係っぽいし。 さすがにPC版で考えるといたたまれない。 小話・雑感部屋へ戻る