歪な盾 2



  自分の気持ちと、すべき事が見えた そう言って士郎がわたしのもとを去って数年。 時計塔から冬木市に戻ってきた頃に、わたしは士郎と再会し、眩暈がした。 「えっと、久しぶり。遠坂。」 言って、笑う顔は。確かにわたしのよく知る衛宮士郎。 だが、その笑顔が、あの赤い弓兵が別離の時に見せたそれに、本当によく似ていて。 一度そう感じてしまえばもう駄目だった。 髪の毛の色が少し褪せている。 背丈は随分のびて。 見える部分の肌の変色は見当たらないが、服に隠れている部分はどうなのか。 黒のタートルネックにロングコート(赤系のコートでなかったのは幸いだ) その背中が、赤い弓兵と重なる。 「今までどうしていたのか。説明、してくれるわよね?衛宮くん。」 そう言ってわたしが笑えば。 「あ、ああ。そのつもりで、会いにきた。」 覚悟はできてると、まるで叱られることがわかっていて怯える子供のような顔で士郎が答えるから。 わたしは思わず苦笑いを零した。 士郎の話はこうだ。 紛争地域を転々として、現地の人を助けてまわっているという。 わりと衛宮の名は有名にもなっているらしい。 とにかく、助けるということに特化した行動。その為、苦手である防御用の兵装の投影、 ロー・アイアスを展開する鍛錬を主にしてきたとのこと。あとから気づいたとのことだが あの聖杯戦争の最後のギルガメッシュとの戦いで、固有結界を発現させる為、 自分が展開したのだと思っていたロー・アイアスは、あのアーチャーが創ったものだったのではないかと。 その後、自分ではあのアイアスを本来の7枚という完全な形で展開することがかなわなかったから、 わかったらしい。 そうして、投影の鍛錬を続けた結果。腕や胸の一部分は褐色に変化しているとのこと。 こいつは。士郎は、アーチャーのようにはならないと言う。 そういいながら、強くアーチャーに焦がれている。 生き方を変えるわけではなく、想いはそのままに。 後悔はしないといい、アーチャーの為に正義の味方を目指す。 アーチャーを想い、アーチャーの為に生きている。 きっと士郎はあの赤い弓兵を喚ぶ。その生命をかけて。 士郎の歪さは、もうどうにもならないのだろう。 少しでも自分を好きになれるように、そう思って士郎と接してきた結果がこれなのだ。 確かに自分を好きになった、とも言えるのかもしれないが。 士郎とアーチャーはどちらもエミヤシロウだが、もう別の存在なのだからやはり自分自身とは違うだろう。 だが、何が一番厄介かというならば。 そんな歪ささえ、わたしは好きなのだということ。 士郎も、アーチャーも。 だからこの二人が救われるのなら、それをみてみたいとも思う。 けれど、好きだという想いと同じくらい、腹立たしい想いもあり。 「士郎」 名を呼んで側に立たせる。背中を向けてと命じると、訝しげに しながらもその通りにする士郎。その背中を、わたしは思い切り蹴り飛ばしてやった。 「っ!?遠坂っ、何する…」 「うるさい。ガンドは勘弁してあげたんだから、感謝なさい。  ……いいからもう、さっさとアーチャー喚んでここに連れてきなさいよ、  あいつにも蹴り入れてやるんだから!」 「っ、遠、坂。…気付いて」 「何年、側でみてたと思ってるの。あなたの考えてることなんてお見通しよ。」 「…まいった。本当、遠坂にはかなわない。」 士郎がお手上げのポーズをとって、微笑む。 その笑顔は、わたしの好きな笑顔だったから。 「久しぶりに、あなたの淹れる紅茶が飲みたいわ。」 そう告げれば、士郎は了解と二つ返事で頷いて、キッチンに足を向ける。 きっと、そう長くここに留まることはせず、すぐにまた、戦場に足をむけるのだと思う。 なら、わたしにできることは。彼にとっての遠坂凛であり続けること。 こうして戻ったときには、いつだって叱咤激励してやるのだと 心に決めて、わたしは士郎が戻るのを待つことにした。 弓召喚ネタの、前の話。捏造しまくりです。 トゥルーED後で、士→弓で凛→士と弓 って感じで。凛視点。 小話・雑感部屋へ戻る