発熱注意



 

「皆には引き取ってもらった。」
「ああ、悪い…」
「いいからもう、大人しく寝ていろ。」
「う……」


衛宮士郎が今流行しているインフルエンザにかかった。
数日前、所要で新都に出かけた時にだろう。
アーチャー自身はサーヴァントである為、そういった病気には無縁のはずで、
それならばセイバーあたりも平気な筈だが、士郎の性格上、
うつらないと解っていても気にかけるだろう。
そんな理由で、念の為一週間は面会謝絶ということで主な女性陣には納得してもらい、
ある意味士郎が一番気を使わない相手であるアーチャーが傍につくことになった。
不本意とはいえ、主従関係を結んでいるので当然といえば当然の流れだが。



粥とスポーツ飲料をとらせた後、薬を飲ませてアーチャーは士郎を布団に寝かせる。
薬の力で暫くたてば熱は下がるだろう。
一時的にではあるが。
熱のせいか、士郎の体からは力が抜けてぐったりしている。
アーチャーは士郎の額にかかる前髪をかきあげて、冷却シートをそこに貼り付けてやる。
士郎は閉じていた瞼をうっすらと開けた。


「…何か、欲しいものはあるか?」
アーチャーがそう声をかけると、士郎は熱に潤んだ目を向けてきて、
逡巡した後、布団の中から手を出してアーチャーの袖を力なく握って、
「アー、チャーに、 そばに  いて、 ほし い……」
消え入りそうな小さな声で告げてきた。
アーチャーは目を瞠る。
言った直後にしまったと思ったのか、士郎はすぐにアーチャーから視線を外して、
なんでもない、聞かなかったことにしてくれ、と早口に掠れた声で言った。


「……熱の、せいだな。」
口にしたアーチャーの声は、意外にも優しく部屋の中で響いた。
士郎からの返答は無かったが、袖を掴む手がそのままであることが、士郎の本心を告げている。

体が弱ると心も弱る。

アーチャーもそれには心当たりがあった。
だから、熱があるうちは、全て無かったことにしてやろうと決めて、
アーチャーは士郎の傍に腰を落ち着けた。


「…あり がとう」
「互いに、らしくはないがな。」
「……はは、そうだな」

士郎の礼の言葉には苦笑混じりの言葉を返して。
アーチャーは横たわる士郎の頭を撫でてやった。








インフル流行ってるねーというわけで、発熱ネタでした。
弱みを一番見せたくない相手であり、その逆でもあり。
まぁ相思相愛になれば、唯一弱みを見せられる相手になるかなーとか。








小話・雑感部屋へ戻る